第3信 強すぎる妻からの手紙②
(①から続く)
📞📞 返信 📞📞
映画出演が決まったんだって? おめでとう。きみなら当然だよ。
うれしいけど、会えなくなるのが残念だ。しかも恋人役だって? まさかキスとかしたりはしないだろうね。あったら夫として許せない。でもきみのヒロイン姿はぜひとも見たい。二律背反の思いに挟まれて、ぼくはどうすればいいのだろう。あんまりぼくを困らせないでください。
ぼくがきみ以外の女性に興味ないことは、きみが誰より知っているはずだ。ほかに女を作るなんてあり得ないことも。でもあらためて言っておくよ、浮気はけっしてしません。心に浮かぶことさえない。
ただし、ヤキモチは焼きます。それに寂しい。はやく撮影が終わることを祈ってる。
天空アカネの正体は調べておこう。といっても、またきみの方が先に真相にたどり着くかもしれないけれど。そういえば、デートで予約した『
ところで、
しかもお相手は元アイドルだなんて、いつもながらきみの手腕にはまったく恐れ入るよ。
きみと
お願いの件は承知した。
ぼくに「女子とのトークスキル」がろくにないのはきみも知っての通りだけれど、きみと津曲くんのために精一杯努めるよ。
尾行の方はまったく問題ない、ぼくの専門分野だ。細大漏らさずレポートするから安心してほしい。
ご褒美を楽しみにしているよ。
📞 📞 📞
夫から妻へのお手紙は、いくら気を遣っても遣いすぎということはありません。細心の注意を払って返信を練りましょう。 ※注意を怠ると地獄に落ちます。
※注意その1。
返事は可及的速やかに。たとえ「返事はいつでもいいよ♡」なんて書いてあったとしても、決して真に受けないようくれぐれもご注意ください。
今回の
「今日中でも調査中でも調査後でも構わへんから」
という要求は、
「まず今日中に返事よこしぃや。そんで調査中も調査後もキッチリ送ったらんかいコラ」
という意味です。
※注意その2。
「お願い(命令)」が2つありますが、返事するうえで重要なのはそこではありません。
重要なのは、「余談」以下の部分です。返答如何では血を見ることになるでしょう。
映画出演が決まったことには最大限の賛辞と祝福、そして万が一にも浮気の可能性を奥さまに感じさせないよう、奥さまへの愛と忠節を惜しみなく表明してください。「余談」という言葉は危険な落とし穴です。むしろここからが本題と心得ましょう。
従い、お願いごとへの返事をする前にまず、「余談」の話題から答えていくのが正解です。
※注意その3。
彼女が出した話題には、とりあえずひと通り打ち返しておきましょう。うっかりスルーすると、思わぬ怒りを買うリスクがあります。どこに地雷が埋まっているか見極める目を持つ男性は非常にまれで、その危険は貴方にも無縁ではないと思われます。
※注意その4。
奥さま以外の女性について触れるのは避けるのが原則ですが、来信で話題に上がっている以上、まったく触れないのも不自然で、却って不審を抱かせる虞れも無しとしません。ケースバイケースながら、今回のような場合は軽く触れておくのが無難でしょう。
※注意その5。
もちろん、依頼用件(命令)についての返事(≒復唱)もMustです。
※注意その6。
「トークスキル伝授」の結果報告と、「尾行」最中の随時報告が必須であることも、言うまでもありません。
なお、妻から夫へ返事のお手紙を書く場合は、上述のような注意なんてものはからきし不要です。たいていの夫は斜め読みしてポイとなるので、どれだけ工夫を凝らしたところで夫が気づくことはなく、あっさり読み過ごされるのがオチでしょう。
いかなる深謀遠慮も空振りとなるので、骨折り損というものです。
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