第42話 変身魔法
リオンとヴェルがロゼの件で揉めている時、Cブロック、吹雪とチャットの本戦が始まっていた。
会場全体から歓声が上がった。
吹雪は息を切らせて氷雪刀『大蛇』を杖にして膝を付いていた。
「吹雪お姉ちゃん、しっかり!」
「ハアハア‥これは、想定外です。まさか‥まさか‥」
吹雪は対戦相手を見た。
その目線の先には小さい男女の子供が2人、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「こ、子供は反則ですよ!無理です。子供に攻撃はできません!チャットどうやら、約束は守れそうもありません。私の事はほっといて逃げて下さい‥」
「もう、馬鹿な事い言ってないで、立ってよ!」
チャットは勝負を諦めている吹雪を必死に引っ張ってた。
魔法剣士の男の子ニコルと魔法少女のペニーはその姿を見て爆笑していた。
「ウケる!何この勝負?楽勝じゃん!」
「アハハ、ホント、弱っ!」
ニコルは火の矢を、ペニーは雷を出して融合させた。
混合魔法・雷火の矢を放った。
火傷と痺れが同時に襲って来る雷火の矢は、雨の様に降り注いだ。
「チャット、危ない!」
吹雪はチャットを抱えて安全圏まで走って逃げた。
その際、何発か足に矢をかすめてしまったらしく、またしても吹雪は地面に膝を付いた。
また!足が痺れて上手く動けません。
まさか、こんな事で遅れを取るとは大誤算です。
ああ、子供は駄目!ホントに無理です。
どうしましょう?
「チャット‥実はかなりピンチです!」
「うん、見ればわかるよ‥。吹雪お姉ちゃん、子供に甘いもんね?」
「え~分かります?そうなんですよ!エヘヘ」
褒めてないよと、心の中でツッコミを入れるチャットだった。
でもまさか、ここまで甘いとは思わなかった。
どうする?このままじゃあ、負けちゃう!
なら、僕が‥。
チャットは震えながら、神に祈りを捧げ炎の矢を放った。
‥が、糸の様に細い矢が一発出ただけだった。
しかも、その矢は、2人に届く前に消滅してしまった。
「何あれ?プ‥アハハハハ!」
ニコルとペニーは地面に転がって大爆笑した。
足をバタつかせて、胃は痙攣して過呼吸になる程、笑った。
「オ、オエェ~」
チャットは黄色い胃液を吐いた。
チャットは魔法を使うと祖父のモーリスによって、人体実験された両親の姿がフラッシュバックする。
何度か吹雪と合同練習して、その事実がわかった。
それを知った吹雪は、チャットが試合に出る事を反対したのだが、それでも、試合に出たいと強く言われてしまった。
子供に甘い吹雪は、チャットの熱意と覚悟に押し切られ渋々了解した。
「ハアハア‥やっぱり駄目‥テレポートは使えるのに‥攻撃魔法は使えない‥パパ、ママ…」
「チャット無理しなくていいですよ‥」
「おいおい!何やってんだ!アイツ等!負けちまうぞ!」
客席から見学しているガネッツは拳で客席を叩いた。
出来れば、今直ぐに助けに行きたい。
しかし、それこそ、吹雪達を失格にしてしまう。
ガネッツはもどかしい思いを声に出して、吹雪達を応援した。
「頑張れー!吹雪、チャット!」
その隣でアライザは静かに観戦していた。
「いくら吹雪でも、この、歓声の中じゃあ、聞こえないわよ‥」
「そうか‥?吹雪なら聞こえるんじゃねえかな?」
「フフ、流石に、吹雪だって無理よ」
「へへ‥だったら!吹雪!好きだー!愛してるー!御両親に挨拶行って来るー!
」
吹雪はハッとした顔をして、顔を赤くした。
そして、一筆書いて、懐から出したクナイに結び付けて投げた。
そのクナイはガネッツの足元へと正確に飛んで来た。
アライザは驚愕した。
「嘘‥吹雪、貴方、聞こえてたの‥」
「ほらな?」
ガネッツはクナイについている紙を拾い上げ読んだ。
「『行ったら、殺します!』だって、吹雪~、つれね~!」
大歓声の中、ガネッツの声を聞き分ける吹雪はクスリと笑った。
全く、相変わらず、ガネッツは、面白い人ですね。
ホント、私に負けないくらい熱い人‥。
でも、ごめんなさい。貴方の思いには答える事は出来ません。
だって、貴方は必ず、幻滅するから。
この体には数多の竜人に蹂躙された痕が刻み込まれている‥。
その、傷を見れば誰だって‥。
どんどん思考が暗くなっていく。これはいけないと頭を振って気を取り直した。
「いけません。今はそんな事考えてる場合じゃありませんでした!」
ニコルは剣に炎を纏わせをチャットに向かって構えた。
ペニーも雷魔法で後方支援の準備を整えた。
「相変わらず愚図だな、マジ、目障りなんだよ‥」
「ホントそれ!見ててイライラするわ?ねえ、お願いだから、死んでよ!その方が世間の役に立つんじゃない!アハハ!」
ニコルとペニーは歪んだ笑顔でヘラヘラと笑う。
炎の剣を構え直しチャットに向かってニコルは走って来る。
吹雪はチャットの前へ出て来てニコルの剣を受け止めた‥はずが、目の前のニコルは霞となって消えてしまった。
「吹雪お姉ちゃん、幻影魔法だよ!気を付けて!」
「そうですか。踏み込みが半歩ズレているからおかしいとは思いましたが、まあ、問題ありません。ほら、そこですよ。足音でわかります!」
景色と同化していたニコルが姿を現す。
吹雪の刀、氷雪刀『大蛇』の剣先は確実にニコルの喉元を捕らえていた。
驚愕と悔しさが入り交じった顔で吹雪を睨んだ。
「馬鹿な‥僕は天才だぞ!」
「天才って‥あんまり、自分の事、過剰に評価するものじゃありませんよ?」
「五月蠅い!凡人の癖に!ただのまぐれでいい気になるな!」
「失礼ですね。まぐれではありません!ちゃんとした技術です。私、これでも、聴覚、嗅覚、直感を日々、鍛錬で鍛えてます。そちらの自称天才とは違いますから。だから、こんな事も出来ますよ!」
吹雪はクナイをペニーに向かって投げた。
ペニーは吹雪が話に夢中になっている隙に魔法で攻撃してやろうと神の祈りを捧げていたが吹雪のクナイがペニーの頬をかすめた。
「痛い!」
ペニーの頬に綺麗な赤い線が出来た。
そこから血が垂れる。
ペニーは恐怖で力が抜けてペタンと腰を抜かした。
「ああ。ごめんなさい!大丈夫ですか?頬に当たらないギリギリ横を狙ったのですが
手元は狂いました!」
吹雪はペニーに駆け寄り、ハンカチを出して頬の傷を拭いてあげた。
ハンカチは赤く滲んだ。
「治癒魔法は使えますか?使えるなら早く!治癒魔法は時間が経過した怪我は回復できません!」
ペニーは頷くことしか出来ず、治癒魔法で頬の傷を完治させた。
元通り綺麗な顔に戻って吹雪はホッとした。
「良かった。私みたいに傷が残らなくって!」
ペニーはふと見てしまった。
はだけた白い半着の裾から、サラシを巻いた吹雪の胸元には拷問で出来た無数の鞭の傷があることを。
「アンタ‥それ?」
「エッチ!見ちゃ駄目ですよ‥」
吹雪はニッコリ笑うと、急いで赤い袴と白い半着を整え自身の傷を隠した。
内心、吹雪は溜息を付いた。
負ける気はしないが勝てる気もしない。
何と言う事でしょうか、相手が子供というだけで、こうも、私は無力になってしまう。
私の性根がそうなのだろう。これは鍛錬でどうにか出来るものではい。
悔しいが、私は一生子供には勝てない。
「馬鹿にしやがって!おい、ペニー!やるぞ!俺達が天才だって事見せてやるんだ!」
「え?ええ‥」
ペニーは変身魔法を発動させた。
手足はトカゲのように変化して巨大化した。
そして、全身赤い鱗に覆われる。頭には2本の赤い角が飛び出す。
顔は面長になって左右に長い髭が生えた。咆哮を轟かせる口には鋭利な牙が突き出す。
背中はコウモリのような赤い翼が大きく広がって上下にはためかした。
闘技場は風圧で砂嵐のように舞い上がる。
爬虫類のような目は真っ赤に染まる。
ペニーは赤竜化して周囲に稲妻を撒き散らした。
「嘘‥これってヴェルが竜化した時の威圧感に似ています。チャット今の状況を説明して下さい!何が起こっているのですか?」
チャットは尻もちをついて赤竜と目が合う。グルルと鼻息を荒くして咆哮を上げた。
「い、今、ペニーが変身魔法を使って巨大な赤竜になっちゃった!何あれ?竜人?」
「どうだ!凄いだろ!ペニーは見た物を模写して変身出来るんだ!へへ、一ヵ月前、たまたま、近くの村に赤竜が現れてペニーはそれを見てたんだ!」
ニコルはペニーの頭に乗っかった。
「はは、これが竜騎士の気分か!悪くない‥。さあ、ペニーやるぞ!」
ペニーは稲妻を口から吐いた。
「チャット危ない!」
闘技場内は稲妻の雨あられとなって降り注いだ。
吹雪はチャットを抱えて走り回った。
「はは、女に抱えられながら逃げてやがる!愚図は1人じゃあ、何も出来ないらしい!よし、ペニー混合魔法だ!」
ペニーの雷とニコルの炎が融合して、雷火の咆哮が流星の様に降り注ぐ。
炎を纏った雷が会場狭しと吹雪とチャットを狙って来る。
「もしかして、本当にあの子達天才なのでしょうか?」
「うん。彼等、学年トップで若干12歳で船上魔術師まで上り詰めた逸材だよ!だから、自分達以外を見下すんだ!アイツ等はローグ魔法学校の恥さらしだよ!あいつ等のせいで、何人の生徒が自殺や退学に追いやられた事か‥。あ、僕は自分から止めたんだかね!べ、別にあいつ等とは関係ないから!吹雪お姉ちゃん、勘違いしないでよ!」
なんですか。ツンですか!デレが無いですがそれもいいです。
聡い子なのに、たまに可愛い所を見せてくるなんて反則ではないでしょうか?
もう~可愛いです。
「はいはい!そう言う事にしましょう!」
「あ~信じてない!」
「ところで、変身魔法に制限時間はありますか?」
「時間はないけど、魔力量によるかな?あれだけの巨大化なら、そんなに長い時間変身出来ないはず。いくら、天才のペニーでも、直ぐに魔力は枯渇するはずだよ!」
「成程、なら私達が出来る事は逃げるのみですね!」
「ごめんね。僕がもっとしっかりせてれば‥」
「それはお互い様です。足りない所は補い合いましょう!」
「‥うん」
しかし、それでは根本的な解決にはなっていない事に、吹雪は頭を悩ませた。
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