Downer〜アイカとカズヤの前日譚〜
タカナシ トーヤ
第1話 シャイすぎる彼
といっても、部署も業務も違ったので、仕事での接点はない。
フロアが一緒だったので、たまにすれ違って挨拶する程度の関係だった。
無愛想な成瀬さんは、私の部署では評価が悪く、入社早々さんざんな言われようだった。
「元気もないし、声も小さい。笑顔もないし、やる気もないし、なんか感じ悪いわよね」
ボランティアの尾上さんは、通りかかった成瀬さんをそう評価した。
まぁ、確かに無愛想ではある。
でも私は密かに、けだるい雰囲気を身に纏う成瀬さんにときめいていた。
職場に入って2週間。
私と成瀬さんの歓迎会が開かれることになった。
せっかくのチャンス、少し話でもできたらと思っていたが、席も離れていて接点を持てなかった。
「成瀬よ、同期だし井沢さんと番号とか交換しといたら?」
おせっかいな遠藤さんが、私達に番号交換を促した。
「あ、なんかすいません、成瀬和哉です。よろしくお願いします。」
「井沢藍華です。よろしくお願いします。」
互いに遠慮しながら番号を交換した。
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次の日。
実家で夕ごはんを食べていたら、急に成瀬さんから電話がきた。
あれ?今日は土曜日。
あぁ、でも成瀬さん、土日も出勤あるし、夜勤もあるからな。
なんかあったのかな。
実家で出るのはなんとなく気まずいので外へ出た。
「こんばんは、今日仕事ですか?何かありましたでしょうか。」
「いや、別に…」
「え?」
「…」
「…」
沈黙が続く。
「あの…よかったら、今から一緒にゲーセンいってくれませんか?」
「はぁ。いいですけど。」
…ゲーセン??
よくわからないまま、成瀬さんの迎えを待った。
「こんばんは、お休みなのにすみません。」
「あっ、いえ、ゲーセン好きなんですか?」
「はい。クレーンゲームとか好きで…」
成瀬さんの車の中には、クレーンゲームの景品と思われる可愛い動物のぬいぐるみがたくさん並べられていた。
車の中で、成瀬さんは年下の私に終始敬語で喋り、会話も特に盛り上がることなくゲーセンについた。
成瀬さんは黙々とあちこち移動しながらクレーンゲームをする。
私はただそれを眺めていた。
これはなんだ?デートのつもりなのか?
もやもやしていると、成瀬さんがゲームに目を向けたまま突然言った。
「…俺と、付き合ってくれませんか?」
え、それ、ここでゲームしながら言うセリフか??
なんだかよくわからない人だが、不思議と惹かれる。
「いいですよ、じゃあもう、今から敬語辞めましょう。私はタメ口で話るね、カズヤ。」
「あ、あの、俺はまだ恥ずかしいんで、もう少しこのままで。」
カズヤは迎えにきてからずっと、キャップを深々と被っていたが、それをさらに下に下げた。
顔、見えないんだけど。
「じゃあさ、カズヤ、付き合い記念日だし、あとでプリクラ撮ろうよ。」
「いいですよ。」
私達は、面白背景で何枚かプリクラを撮った。
ふざけて笑うカズヤの笑顔は、いつもの無愛想な姿から想像もつかないくらい、子どもみたいに無邪気で可愛かった。
車に戻った。
「ごはんとか、食べに行きませんか?」
「いーよ。何好きなの?」
「ラ…ラーメンとかどうですか。よくいく店が近くに。」
初デート、ゲーセンの次はラーメンだと!?
不思議な人だ。
私たちはボロいラーメン屋に入った。
「このあと、どうしますか?」
カズヤは下を向いたまま尋ねる。
え、判断、こっちに委ねるの?
あなたが決めてよ。
「お酒好き?飲みにいかない?」
「えと、お酒はちょっと、弱くて。すぐ酔っ払っちゃうんです。」
何から何まで見た目と正反対だな。この人は。
「ふーん、じゃあ、うちで飲もうよ。それなら酔っても平気だし。」
「え、いいんですか、お邪魔して」
「うん、お酒、買いに行こ。」
私たちは近くのスーパーに向かった。
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