第2話 三十八度の湯を立つ
オレの名は、ノヴァ。
異世界で剣と魔法のあるある世界で、魔族として転生してしまったのである。
いや、魔族といってもさ?
どこに魔族要素があるのか、自分でも正直言って分からないんだよなぁ…。
そういえば、死ぬ直前にさ?
≪伝承≫・≪解析≫・≪生成≫という3つだけ捧げると薄らと聞いたような気がする。
コレってどういう意味なんだろう。
そのままの意味として捉えていいのだろうか?
例えばさ?誰かのために魔法を伝承させることが出来るってことなのかなぁ。
といっても…オレ。
転生して未だ使ったことはないんだよなぁ…。
「あっ!ティーナおねえちゃま!」
居間からお気に入りのクマのぬいぐるみを抱きながら、今のオレと同年齢ぐらいの茶髪の女の子が出て来たのだった。
「リリアお嬢様。もうすぐお爺様が帰って来ますから大人しく座って待っててくれるかしら?今からこの子をお風呂に入れなければいけないから」
「この子…?だあれ?」
「お爺様が連れて来た、ノヴァ君よ」
「ノヴァだよ。宜しくね。リリアちゃん」
「ノバ。よろしくなの」
舌足らずのリリアは、オレのことをノバと言うとクマのぬいぐるみを抱きながら、居間にある自分の席で大人しく座ると、ティーナは、隣の部屋である浴室へとオレを案内したのである。
「じゃあ…お風呂にしましょうか。ノヴァ君。一人で入れるかしら?」
「はい。大丈夫です。え、えっと…湯は…?」
「あ、あら?沸かし忘れていたわ。ごめんなさい。今すぐ…」
「ちょ、ちょっと待ってくれませんか?」
「ちょっとって…湯がないと身体は洗えないわよ?」
「少し…試してみたいことがあるんです」
「試したいこと…?」
「はい。ちょっと…オレの手を触れてみてください」
「え、ええ…分かったわ」
ノヴァに言われるまま、ティーナは視線を合わすためにしゃがみながら、ノヴァの小さな手を触れると、一か八かという感じで上手くいくかどうか分からないものの、魔族として転生して初めて≪伝承≫を行ったのである。
≪伝承…三十八度の湯を立つ≫
ふと思い付いた言葉を心の中で呟いてみたんだけどさ?
ある意味合いでネーミングは安直…だよなぁ。
昔からネーミングセンスだけは無いと言われていたっけ…?
と、というかさ?
ティーナさん。一瞬だけ黄金色に光ったような気がするんだけど、オレの気のせい?
「えっ…!?何か頭の中に妙な言葉が入って…」
ティーナは、不思議そうにしながら言ったのだ。
「じゃ、じゃあ…試しにその言葉を浴槽に向かって言ってみてください」
「え、ええ…分かったわ」
ノヴァに言われるまま、ティーナは深呼吸すると共に言ってみた。
≪三十八度の湯を立つ≫
オレが心の中で呟いた言葉、ほぼまんまだった。
というか、伝承以外…そのままじゃん!
っていうかさ?見るみると湯が浴槽に溜まって来ているんですけど…!?
「す、凄い。湯がどんどん出て来たわ」
「そ、そうですね。試しに≪三十八度の湯を立つ≫って心の中で呟いてみたんですけど…」
「ええ。先程、何かその言葉がスーっと頭の中に入って来ましたわ」
「とりあえず…コレで何とか入れますね」
「ええ。じゃあ…私は着替えを持って来ますわ」
この世界にあったと伝えられている魔法なのかしらと思いつつ、ティーナは着替えを取りに行くと、オレは真面目に3年分の垢を落とすべくと甘えるままにお風呂を使わせて貰うことにしたのだった。
「…本当に湯だ」
前世では普段から四十度の湯だったけど、ここは異世界だしさ?
適温って大事だよね。
四十度だと熱過ぎると言われると嫌だし?
というよりも、リリアちゃんは入れそうにないし、ユーノさんは見た感じはかなりの高齢だし、色々と危険だしね。
「で…さっきの伝承。マジであんな感じで出来てしまうとは」
本当にオレ、改めて異世界に転生したんだなと思いながら、鏡に映る自身の容姿を初めて見たのだった。
剣と魔法のあるある異世界で、魔族として転生しました。 蒼樹 煉 @seirai25-higuro8
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