第14話 手の魔女 4
「ふむ。もう一つ聞きたい。汚染とは何だ。先史文明はなぜことごとく破壊されている」
「それは汚染爆弾の効果だ。ある日、人間たちは二つの集団に別れて互いに争いを始めた。互いに爆弾を降らせ、世界を破壊し尽くした。その爆発が汚染の原因だ。戦争のきっかけは、ただの偶発的な軍事的な衝突だったが、もともと互いに気に食わなかった。理由なんてどうでも良かったんだよ。お互いに殺しまくって、冷静になる頃には動植物が死に絶えていた。
そして、地上に住めなくなった人間たちの一部は、火星を始めとして新天地に脱出した。残った人間たちは、汚染に耐えられるように自らの身体を改造し、一部の有用な動植物を復活させた。ちなみに地上に残った人間の末裔が、お前たちというわけだ」
グルタルの語る歴史の真実性については、先史文明の遺跡などの傍証がいくらでもある。先史時代について書かれた本の中には、今のような内容の記述も少なくない。心理的な衝撃はあまりなかった。
「そのあたりは神話の通りなんだな。火星に行った人間たちはどうなった」
「知らない。火星との通信回線を受動探査しているが、火星はおろか地上の通信回線すら見つからない」
「そうか。じゃあ、もう火星には誰もいないのかもな」
「目の魔女は、それを確かめるつもりだろう。そのためには、かつての文明を再興する必要がある。月面太陽発電プラントを再起動し、電力をこちらに送電して、地下工場を稼働させたいはずだ」
「月面太陽発電プラント」
「ああ、月を覆う黒い膜のことだ。その正体は、莫大な電力を生み出すプラントだ。それさえなければ、月は黄金に輝くのだが」
「月の色は、黒ではなくて黄金なのか」
ヨーケルは窓から空を見上げる。黒く輝く月が浮かんでいる。
「ああ。想像もできないだろうが」
「本で読んだことがあるが、あれは本当だったんだな。それで、確か電力というのは、先史文明時代の動力のことだったかな」
「概ねその理解で合っている。現在、この世界の地下には、いくつか工場が点在している。それらの工場が再び電力を受けて稼働すれば、かつて存在した文明が再び地上に現れるだろう。そうなれば火星に行くことも可能だ」
「目の魔女は、なぜ火星にこだわる」
「それが目の魔女の性質だからだ。コハクの性質は、精神。肉体に限界があるのとは違い、精神に限界はなく、だからこそどこまでも拡大成長するべきという至上命令がコハクの行動原理だ。人類は地上を離れ、自らの知性が生み出した技術で星々の向こう側まで版図を拡大するべきだとコハクは考えている。私はそれを阻止したい」
「子どもは大人に成長するし、人間は努力して畑の面積や収量を拡大していくものだろう。その延長として、人間の領土を他の星々に拡大していくことの何が悪いんだ。手の魔女さんとしては、どう思っている」
ヨーケルの質問に対して、グルタルは蕩々と語り始めた。彼は辛抱強く彼女の話を聞き、それは概ね次の通りだ。
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