第4話
私は颯太から、受け取ったコーヒーをふとみる。
(あんな苦い顔するなら、コーヒーが苦手なのかなあ?)
妹のカエルはわかりにくいけど、カエル兄はわかりやすいような?
あの義弟の発想と思考だけはいまいちわからない。
まあ、けど、私の世界一大切な妹が笑ってるから、いいけど。
幸せそうに笑ってるから、まあ、いいんだろうなあ。
颯太がそんな私をみて、
「そういや、妹結婚したんだってな?どんなやつ?」
「妹が選びそうな子。お似合いだよ?」
「ヘェ〜、シスコンの朝陽にそう言わせるってすごいな。けど、イケメンエリートってイメージないって地元の奴らは言ってるけどな」
「地元って?あのヤンチャな子?」
「まあ、赤木たちだな」
市のなかでは、わりと大手にはいる土木建築の跡取り息子で、私たち青年団でも目立つ悪ガキみたいなおしゃべりな子を思い出した。
一見、チャラいけど、まあ、よく喋る子だけど、まわりによく人が集まるから、根本的には悪くないんだろうけど。
私が神城明日菜の姉だからって理由か、明日菜があのカエルと結婚したからか、あまり話す機会はないけど。
地元に残ってる結婚相手には有望株として、私らの中では人気ある、らしい。
お兄ちゃんには、結婚をふっかける私だけど、いまいち結婚とかピンとこない。地元に残ってるこたちも、ちらほら結婚してるけど。
中学時代、演劇部で明日菜を可愛がってくれた親友は大阪で働いてる。
なかなかコロナで帰省できなかったと久しぶりにあったら嘆いてた。
いまは美容師目指して腕を磨いてる。あの子もまだ結婚は考えてないかなあ?
「颯太は花音と結婚するの?ながいよね?」
「けど、あいつ地元に帰ってくる気無さそうだしなあ。ムリじゃね?」
「でも別れないんだね?」
「まあ、花音次第だな。俺は花音より地元だし」
たしかに花音は地元じゃ満足しないかなあ。年々高齢化していく街には、空き家が目立ち、移住者も定住がむずかしい。
スローライフを実現したいって思ったとしても、やっぱり生活費くらいは稼がないとダメなわけで。
年金やある程度の貯蓄がある人がたまに定着するけど、高齢化社会は変わらないし、街みたいにすぐ休日に診てもらえるような病院は少ないし、広大な市でも、地域により格差がある。
同じ市でも便利な地域に集まっていく。それはたぶん昔からだろうけど。
「今度、山田が熊本に就職するってさ」
「山田も出るんだ」
「まあ、アイツの婚約者が熊本出身らしいしな。いいよなあ、次男って」
颯太の家は、というか九州派まだまだわりと長男に対する圧はある、らしい。
うちのお兄ちゃんはそうでもないけど。そういえば、カエル兄はそれもあるのかなあ?
わりと生真面目な印象がある。東京でもやっていけそうなのに。
「カエル兄はイケメンだよ?花音に会わせていいの?」
花音って、面食いだ。毎回毎回、颯太を振り回してるけど、結局は颯太に戻るけど。
颯太は肩をすくめた。
「そろそろ解放じゃね?俺も花音も幼なじみって呪縛から」
「幼なじみって呪縛なんだ」
「刷り込みにちかいんだよ?花音の場合。小さな時から、俺と結婚するってまわりから言われてたし、まあ、俺もだけどさ」
「小さな場所だもんね。けど、だんだんと世界は広がってくしね」
無意識に私は手にしていたペットボトルを開けて、飲んで、
「うへ。あまい」
「何やってんだ?俺の甘くないスポーツドリンクだから、変えるか?」
「いいよ?花音にわるいし」
「朝陽らしい返しだな?」
「わかっていう颯太もどうよ?」
「腐れ縁すぎるよなあ、どいつもこいつも、俺も新しい出会いがほしい」
「花音に言っていい?」
「やめろ、修羅場に巻き込むぞ?」
「花音の修羅場は、勘弁だね」
私は肩をすくめて、またコーヒーをのんで、甘さにかおをしかめた。
なんだかんだで、颯太と花音はラブラブで、
(一日中、バカップルを相手にするの?)
カエル兄がいても、修羅場なような?
ってウンザリするけど、まあ、それが私の日常だったりするんだなあ。
カエル兄はほんとうにブラックなのかなあ?
って不思議には思ったけど。
「とりあえずカエル兄がダメだったら、草場くんかなあ?いまフリーだよね?」
「そうだな?あいつなら、同窓会みたいになるかー,って、カエル兄ってなんだよ?」
「うちの妹の大事なカエルのお兄ちゃんだから」
「ふーん」
颯太は変な顔で、私をみたあと、もう一度、
「ヘェ〜」
って言った。
「ブラコンの朝陽らしいな?」
…失礼な幼なじみだ。
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