第2話
「好きです、先輩」
俺はまっすぐに、ストレートに言った。
そうしたら、先輩は、頬をあかくそめて、前に交差して手を組み、モジモジして、
「こまるわあ、村上くん。私は3人の子持ちなのよ?不倫しないし?」
「あっ、いや、そのカップのキャラクターすきなんですか?」
って、俺は新規採用された市役所で、とりあえず配属先になった部署で世話になってるパートさん、田中さんに言った。
50代の女性で、子供も大学生や社会人らしい。旦那さんは農家で、繁忙期は役所やすむから、季節パートみたいな感じらしい。
ちなみにふくよかで快活な田舎のおばちゃんだ。
まわりが明るく笑う。
「わかるわかる、いまのシチュエーションだと、びっくりしちゃうわよね?」
「ここじゃ珍しいイケメンにいわれたら、誰だってドキドキするわ」
「おいおい、うちのアイドルたちを攻略よしてくれよ?」
て、わいわい穏やかに話がひろがる。俺が働いてたメーカーはブラックではなかったけど、会話ひとつでみんながざわざわはなかったな。
まあ、内部にある部署で、市民から目につかない場所もあるけど。
いま休憩中の首からカードぶら下げてないと、仕事してないとかクレームくるらしい昼休み。
親父の嘆きは知ってるからとくに感じないけど。市役所の車のハンドル持つ時は、いつも以上に気をつけてる。
田舎だとわりと便利屋扱いは知ったけど。
ただ、さあ?
(ふつうはそうとるだろ?)
なんで、あの人は通じないんだろ?
田中さんが入れてくれた、小さな犬の足跡のマークが入ったマグカップを手に取る。
「シュガーとミルクは一個ずつ?よね?」
「ありがとうございます
「意外と甘党なのね?」
「弟がコーヒーの匂いが苦手だったから、コーヒー牛乳で育ったんです。牛乳は俺が苦手で、けどほら?牛乳って背が伸びるって言うから、毎朝、母が作ってくれて」
「ああ、あの神城さんところの娘さんのお相手が、あなたの弟さんだったわね?」
「いいよなあ?神城明日菜。美人だよなあ?あんな義妹俺も欲しい」
「けど、義妹ですよ?」
って俺は苦笑した。手を出したらそのまんま家族崩壊、どころか小さな田舎町だけじゃなく、日本中で誹謗中傷だらけだ。
まあ、あのラブラブバカっぷるに関してそれはない。
(俺がつけ込むすきないしな?きっとムカデすら、入れないぞ?)
神城の姉ちゃんがフリーなうちに殺虫剤したいおれだ。
もちろん、俺以外に。弟が神城に送っていたプレゼントに呆れた俺だが、いまなら、絶対に先輩に俺も送るだろ?
先輩には大迷惑な俺の気持ちだ。
「いいお母さんね?喜んでるでしょう?こっちに戻ってきてくれて」
「東京より給料がとか、いろんなこと言ってますけど、まあ、喜んでくれてますね」
…年老いた親戚や近所の人たちが。早速、地元の消防団に駆り出された俺だ。
先輩がたまに遊びにくるから、いいけどさ。
先輩は顔がひろい。俺とは違う部署だけど、公務員ではあるのか?
「若い人が多いと街に活気出るからうれしいわ。うちの子たちは県外だから」
さあ、働いて仕送りよ!って田中さんが笑う。
俺はコーヒーのお礼をまた言って、
(なんで通じないんだよ?)
って内心でぼやいていた。
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