第13話 更生局庁舎

更生所を出所してからは、新居の賃貸契約、荷物の移動、引っ越しに関連する手続きなどの作業に忙殺された。ベーシックインカムが再開されたため、質素な生活をする限り、生活に困ることはない。そのため、引っ越し作業に集中することができた。思えば、生身の体での外出は十年ぶりだったので、違和感や恥ずかしさといったものがあったが、そんな感覚もすぐに薄れた。


そういった作業が一段落すると、まもなく売布宮との約束の日になった。売布宮と会うのはそれほど愉快なことではない。しかし、あの財満がどうなるのかについては興味がある。それに、引っ越しの作業が終わると時間を持て余すようになったので、働くことを検討してもいい。向こうから誘っているならそれに乗るのも悪くない。おまけに季節外れの陽気で天気も悪くない。


指定された場所は、古い官庁街にある更生局庁舎だ。タクシーに乗って実際に行ってみるとヴィクトリアン様式だかなんだかの赤い煉瓦造りのヨーロッパ風の建物だった。同じような建物が並んでいるので、浮いた感じはない。その外観に見覚えがあるので、以前に来たことがあると分かる。庁舎の銘板には、更生局とだけ書かれていた。当時は、寝ていたところを起こされて、着の身着のまま連れて来られたが、今はスーツを着て自分の意志で訪れている。そこに月日の流れを感じられて感慨深かった。


庁舎内に入り、受付に来訪の目的を告げる。程なくしてロビーに売布宮が現れた。

「来てくれると思っていましたよ、安藤さん」

「ええ、なにぶん、時間だけはありますから」

「そんな卑下なさらず。こちらも人材が不足していてリクルートに必死なんです。安藤さんが来てくれて本当によかった。来てくれたということは、脈アリと思っていいんですよね」

「どうですかね」


売布宮の仕事を手伝うかどうかは、まだ自分でも分からなかった。

「さあ、こちらです」

売布宮の後について廊下を歩く。建物内は勤務時間中というのにずいぶんと静かだ。廊下には絨毯が敷かれ、サッサッという僅かな足音しか聞こえてこない。


「ここです」

一つのドアの前で売布宮が止まる。金属製のドアの上部に数字が書いてあるだけで、何の部屋かは分からない。分からないが、おそらくここに財満がいるのだろう。


「お察しの通り、部屋の中には、この前の男、財満がいます。今から彼には、安藤さんも昔経験されたテストが行われます。中に入ったら安藤さんは一言も喋らないでください」

無言で頷く。

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