33杯目 偵察任務
「それじゃあ準備を整えて昨日話した通りやっていこう、絶対に無理はしない、夕方には戻って来る。これは絶対に守ろう」
「わかってるよゲンツの兄貴」
「了解した」
俺、バース、ウィンドのパーティと3つで行動し、敵の巣の位置の確認、規模の確認を行っていく偵察任務だ。
3つも目があればずいぶんと楽になる。
こういう偵察は得意な方なので、俺と2つのパーティで均等にエリアを振り分けている。特にコボルト系の魔物は地面にいるから森エリアなら樹上を利用すれば安全に効率よく調べることが出来る。
注意が必要なのはウルフ系魔物を使役している時だ。
敵の索敵能力と、追尾能力が格段に上がるので、小競り合いは覚悟する必要がある。
「さて、行きますか」
街道脇の森林地帯に敵の巣があると読んでいるので森林を調べていく。
奥に入っては左右を確認、億へ入っては左右に確認と、魚の骨のような形で調査をしていく。ついでに山菜や果実なんかも集めたりもしている。
薄暗い森林の中でも俺の目ははっきりと色々なものを捉えてくれて助かる。
ひーこらひーこら樹上を動いていた頃とは違って身軽に木々を渡り歩ける。
「これは、楽しいな」
自分の予想よりずいぶん広い範囲の調査を終えて、今日は収穫無し(食材や薬草香草などは結構手に入ったが)で宿場町へと戻っていく。
「よ、どうだった?」
「小規模な集団を発見したぜ。街道に向かっていたので背後から奇襲して倒したが……」
「こちらは収穫無しです」
「俺も収穫無しだ」
「バースは北側だったよな……宿場街に近い方が当たりだったら、嫌だな」
「まぁ、決めつけは危険だ。もう少し探ろう」
その後、俺達の探索によって敵の拠点が判明する。
「あれ……村レベル超えてますよね……」
「そうだなぁ、長がいるだろうなぁ」
「まずいっすね、ギルドからの援軍待てますよね?」
「まだ、大丈夫じゃないか? 軍隊化はしてなさそうだし」
「偵察部隊をいくつも潰してるから、もっと焦っても良さそうですからね」
「ああ、少なくともキングは無いんじゃないか?」
その時、一番立派な館から出てきた魔物の姿を見て、俺達の甘い考えが潰されてしまう。
「なっ!? ワーウルフ……やばいな」
「もっと距離取りますか?」
「流石にこの距離なら……だが、何匹いるんだ……?
量によっては俺達だけでは厳しいかもしれん」
ワーウルフは人間の1.5倍くらいの背丈を誇る狼人間で、強靭な肉体、爆発的な瞬発力、そしてリーダーがいると統率の取れた動きを取るコボルトとは比べ物にならない上位の魔物だ。戦いを好み非常に好戦的、さらにワーウルフが指揮するコボルトは危険度が1段階上がると言われている。
「万が一ギルドからの助けが間に合わなかった時に、対応できるように準備をするぞ……前に話していた場所、やっぱり使おう」
「そうですね」
「それしかない、さすが兄貴、ちょっと心配しすぎだと思ってましたけど、こうなること解っていたんですね」
「臆病で今まで生き残ってこれたからな……」
しかし、今回は嫌な予感は感じなかった。その事実が俺を猛省させた。
どこかなんとかなると思っていた。
慢心、気が付かないうちにその罠が心に巣食っていた……
宿場町から少し離れた山岳地帯、谷間に罠をしかけるのにちょうどいい場所を見つけてあった。ちょうど左右に切り立った崖、そして入口と出口が細くなっており、もし敵の進行が起きた場合はこの場所に引き込んで事前に準備した罠に嵌めれば有利に戦えるだろう。
「どんどん準備してくれ、いつ何が起きるかわからない!」
俺も収納袋を利用してできる限り早く罠を準備していく。
「ゲンツの兄貴、ワーウルフ最低でも4体はいるみたいです」
「……厳しいな……」
「俺達のパーティ全員で一体、バースの方で一体、ゲンツさんが2体とか……」
「たぶん、無理だと思うし、最低4体確認してるってことは、もっといると思ったほうが良い」
「ですよね」
「しかし、こうなると、時間をかけるとまずいかもしれない、ギルドからの援軍がそれこそシルバーパーティとかならどうにでもなるが、コボルトだと思ってアイアンやカッパーのパーティがいくつか来ても対応しきれない可能性がある。」
「やはり、罠に誘い込みますか……?」
「彼奴等増えるのに2ヶ月もあれば増える。1ヶ月半、応援が来なければ、仕掛けるしか無いな」
「……大丈夫でしょうか?」
「弱気になるなよウィンド、ゲンツの兄貴の言ってることは間違ってねぇ、まさか宿場町ごと避難ってわけにもいかねぇんだから」
「その可能性も提案したけど、鼻で笑われたよ、いざとなれば守りに徹すればいいだろだとさ」
「馬鹿か、ここの衛兵なんてカッパーと引退したアイアンしかいねぇんだから無理に決まってるだろ」
「変に噂を流しても営業妨害で訴えられかねない。準備をしっかりと行っていこう、具体的に罠への誘い込み方やその後の動き、全員頭に叩き込んでもらう」
「誘い込みは、本当に兄貴一人でやるんですか?」
「ああ、俺が一番早い、俺の装備の特性的にも、こういう仕事は合っている」
「確かにそうですけど」
「誘い込んだ後にたっぷり働いてもらうから、楽させるつもりはこれっぽっちもないぞ」
「わかりました」
それから俺達は、来る日に向けて準備を進めていくのであった……
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