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 その結果がこれである。ドロシーが令嬢らしくあろうと口うるさい言い方をやめた注意をしてくるのに対して、ホリーはならば自分が言わねばときつい口調で言ってくる。一応敬語を忘れていないだけ、令嬢らしさは保っていると考えていいだろうか。


「今日もいつも通り、城下をうろうろしてらっしゃいましたね。なさるべきこともされずに!」

 ホリーの態度はドロシーに聞かせるためという気がしている。この男はドロシーにふさわしくない、とドロシーに認識してくれと訴えているようだ。


 ばかばかしい。とユリシーズは思う。ユリシーズとドロシーは一応婚約者ということになっている。それを決めたのは、当人同士ではない。だから、その文句をユリシーズにぶつけるのは間違っているのだ。

 もしかしたら、過去を悔いているのはホリーも同じなのかもしれない。だから、ユリシーズに苛烈に当たってくるのだ。過去の自分を全否定したくて、ユリシーズを懸命に批判しようとしているのだ。



「お前たちに用はないから、放っておいてくれ」

 ユリシーズは逃げ出した。


 今必要なのは、父との対話。なのだが、その父が捕まらないままに日は更けていく。

 このままでは、ユリシーズは頭に浮かんでいる『やってはいけないこと』を実行してしまいそうだ。




「ユリシーズ様。いかがされました」

「宰相」

 ユリシーズはつい『宰相』と呼び掛けてしまって、ばつの悪い思いをする。

 何が宰相だ。ついこの間まで、人の家の家令だった男が。


「……ニール。父と話がしたい。父は今どこに?」

「陛下はそろそろお休みの頃と思います。そろそろ夜も更けてまいりました。殿下も今宵はお早くお休みくださいませ」

「そう長く時間はとらない」

「明日にいたしましょう。さあ、お早くお休みください」

 宰相ニールの有無を言わせない態度にユリシーズのいら立ちはつのる。


「お前は本当に俺に何かをさせるのが嫌いだな。何もしない方が褒められてるくらいだ」

「そんなことはありませんとも。明日の祝辞ですが、こちらで用意はできておりますから」

「イリアスから貰った」

「そうでしたか。これは杞憂でしたな」

 何をいけしゃあしゃあと……ユリシーズは内心で毒づく。ユリシーズの祝辞を自分で考えさせないようにと仕向けたのはこの男である。

 余計なことはしゃべるなよということなのだろう。


 無能であれと願われているようだ。

「ユリシーズ様、何もご心配なされますな。些事は我々下々のものがすべて執り行いますゆえ」

 最近は露骨にこんなことを言ってくる。本当に傀儡として望まれている。

「ユリシーズ様は大変お顔がよろしいので、対外的にも好感を持たれることでしょう。それこそ、にこにこと笑っていれば大概のことは解決しますよ」

 お前に能力はなくても、顔はいいのだから、ただ笑っていろと言う。

 何もするなと言ってるくせに、いざ侵略されて負けでもすれば責任を取らされるのは、首を切られるのはユリシーズとその父なのだ。



 ユリシーズは父に問いたかった。本当に父の意志で国の独立を決めたのか、と。

 ユリシーズの知っている父は本当に穏やかな性格で自ら望んで諍いを起こすような人物ではない。それが何だって、建国などを目論んだのか。

 一体誰に焚きつけられたのか。その誰かはこの男なのか。


 ユリシーズはニールのことをそこまで怪しんでいたわけではなかったが、一度おかしいと思えばそこから思考が逃れられない。

 幼い頃は、本当に父やユリシーズのためを思って仕えてくれていたような気がする。こんな一国を裏から操る真似をするような大人物とは思えなかった。

 だが、娘のドロシーとユリシーズを婚約させて、今後の地位も確かなものにしている。発言力も大きく無視できない存在だ。


 では、本当にこの男が企てたのか。怪しいとは思っている。しかし、直感がそれは違うのではと訴えてくる。

 誰の思惑で、建国がされたのか。それを知るだけの材料をユリシーズは持っていなかった。



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