第17話

 そんな私とは裏腹に、ロイさんはベッドへ潜り込むと、そのまま寝てしまうようだ。

 どこか残念な、でも安心したような気持ちを持って、私もベッドへ潜り込もうと思った所で、下着をつけたいという気持ちが沸き起こる。

 だってバスローブなのだ。少し寝返りをうっただけでも丸見えになってしまう。

 少し腰を浮かせて、干してある下着の方へ行こうとした所で、ロイさんに手を引かれて、ベッドへと倒れ込む。


「あったかい」


 ぎゅっと力強く抱きしめられて、私の心臓はパンク寸前だ。

 ロイさんの胸元に顔を埋めて表情を見られないようにするしかないのだけれど、少しだけ、はだけた胸元も気になる。

 コツンと、おでこが当たる。

 何事かと思って上を向けば、唇が重ねられた。

 抵抗しなきゃ。そう頭では思っていても、大好きなロイさんの唇を自分から離す事も出来なくて。

 ゆっくりと私の胸に手を伸ばすロイさんに、少しだけ手で押し返すけれど、強い力の前に、受け入れてしまう。


「っ!」


 唇を噛みしめる。

 愛しい人が私に触れているという事実だけで、声が漏れ出そうになる。何とか声をかみ殺して耐えるけれど、甘い吐息までは止められない。

 バスローブしか纏っていない私は、直ぐに全身をロイさんの前に晒してしまう事になり、思わず両手で顔を隠す。


「可愛い」


 そんなロイさんの言葉に、下腹部がどんどん熱くなっていくのが分かる。

 胸の突起に触れられただけで腰は跳ね、片方を口に含まれた時には、もう我慢できずに声が漏れ出た。


「あっ」

「もっと声出して良いよ」


 満足げに笑うロイさんは、突起を口内で更に強く刺激を加え始め、私はもう声を我慢するどころじゃなくなっていた。

 だって、相手はロイさんなのだ。

 ロイさんの温かさ、重み。全身を這う舌ざわりまで、全てを感じる事が出来る。まさに至福で、私にとって最高の時間である。それとは別に、ふと頭の中では一夜限りという文字が浮かぶ。

 それでも……それでも、今はこの時を大事にしたいなんて思う。


「挿れて良い?」


 その言葉に、私はただ小さく頷くしか出来なかった。

 期待、そして今だけの時だと言う寂しさ。

 だけれど、一度でも良い。ロイさんを感じたいという願い。


「ああああっ」

「気持ち良いよ、しぃ」


 浅いピストンから、一気に深くまで貫かれる。

 奥までロイさんを感じて、私の身体はビクリと跳ねた。

 初めて、というわけでもない。最初の人なんて、もう忘れてしまったほどだからこそ、貴方が最後の人であれば、なんて願う。この温もりを残したままが良い。一生忘れたくないと思う。

 私に、ロイさん以上思える人なんて現れるのだろうか。

 好き。大好き。

 その気持ちだけで、私の身体は熱くなり、達してしまう。


「イくっ」

「もっと乱れて。いっぱいイって?」


 愛しい人とのセックス以上に気持ち良いものなんてあるのだろうか。

 ビクリと跳ねるロイさんのものの形を、私の中で感じる。形をしっかり覚えるように、私の中に刻み付けるように、何度も締め付け、その度に声を漏らして身体を跳ね上げさせる。

 快楽の波にのまれるのと同時に、好きという気持ちがどんどん溢れてくるようで、私は自我を保っていられなくなりそうになる。


「あぁあああっ」

「俺も、もぅイきそう」


 私は、これ以上ないのではないのかという快感で意識が朦朧としている中、ロイさんの腕枕で眠りについた。




 起きれば、目の前にはロイさんの寝顔があるという、幸せすぎる朝。その近さに心臓が音を立てるけれど、それすらも今は幸せに思う。

 それと同時に、手慣れた感じがあるロイさんに、他の人ともしているのかなという不安にも駆られる。

 恋人同士ではない、最低限のセックスである事なんて頭の片隅で理解しているのだ。だって、愛撫や前戯なんて、そこまで時間をかけているわけでもないのだから。

 これで良かったのだろうか。都合良い女になっただけではないのだろうか。

そう思うものの、本音は嬉しさに溢れているというのも事実だ。

 ロイさんの顔をまじまじと見て、大好きだな、なんて再確認をしていれば、ロイさんの目が開かれる。


「あっ」

「おはよ」


 驚きで声を漏らせば、ロイさんの挨拶と共に唇が塞がれ、そのまま下腹部をまさぐられた。


「えっ」

「しよ」


 声で少し抵抗するものの、そんな事を言われたら、流されるままで。身を守るべき服が一切ない状態で、私はそのまま再度快楽へ沈んでいく。

 すぐに濡れてしまった私は、またも最低限のセックスになったけれど、私の中にしっかりロイさんは刻まれた。

 結局、時間いっぱいまで恋人同士のようにくっついていた私達だけれど、その関係はネットでの知り合いという以外ない。未だに本名だって知らないのだ。


「ロイさん、手慣れすぎ! 他の人ともしてるんじゃないの~」

「まぁ三十五ですからね? 手慣れていてもおかしくないかと」


 揶揄い口調で言えば、同じように返ってきた。言われてから、年齢だって本当じゃないかもしれないと思い至る。だって、身分証明書なんて見ていないのだから。


「そういや、べびぃどぉるにも会おうって言われてるけど、会いたくないかな」


 まさかの言葉に、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。


「なんでー?」


 何ともないという風に返す。聞きたい、けど聞きたくない。だけど知りたい。そんな矛盾ばかりが立ち込める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る