アンジェリカ・ヴァレンティ2

 次の日の夜、アンジェリカは棚に仕舞ってあった親の金を盗むと、麻薬の取り引きが行われていると言う噂のある店に行き、麻薬を買った。


 さらに次の日の昼、アンジェリカは街の治療院へ出かけた。

「私、聖女の力に目覚めたかもしれません」

 そう言うと、アンジェリカは患者の一人である老人の右膝に手を当て、目を瞑った。すると、しばらくして老人は目を瞠った。

「……膝の痛みが無くなっている!」

 もちろん、病気は治っていない。アンジェリカが懐に忍ばせていた麻薬の匂いを嗅いで、痛みを感じなくなっているだけである。しかし、その事に誰も気付かなかった。


 こんな感じで偽の治療をする日々を過ごしていくうちに、アンジェリカが聖女であるという噂は広まっていった。そしてとうとう、教会にもその噂が届き、アンジェリカは正式に聖女として認められた。


 その後ヴァレンティ家の養子になり、学園に入学した後は死ぬ程勉強を頑張り、エドモンドと同じクラスになった。エドモンドと恋人同士になり、これで自分もゲームのようなハッピーエンドを迎えられると思った。


 しかし、思わぬ邪魔が入った。ダリオ・アッカルドが麻薬の密売について調べており、アンジェリカが麻薬を買っていた事実を掴んだのだ。ダリオはアンジェリカに夜会で会った時、衛兵の詰め所に出頭するよう勧めてきた。出頭する気のないアンジェリカは、しばらく足が遠のいていた違法な店に行き、麻薬と拳銃を購入した。


 ある夜、アンジェリカはダリオを橋に呼び出し、麻薬を買っていた事を秘密にするよう頼んだが、アンジェリカが出頭しないのなら自分が告発すると言って、ダリオは帰ろうとした。アンジェリカが忍ばせていた麻薬が効かなかった理由はわからない。もしかしたら、ダリオには嗅覚障害があったのかもしれない。


 このままではまずいと思ったアンジェリカは、拳銃でダリオを撃った。そして、その場面をガブリエラに見られてしまった。ガブリエラの事はラスボスでもない悪役令嬢としか見ていなかったが、このまま生かしておくのは危険だ。


 拳銃で撃たれたガブリエラは川に落ちていったが、もし生きていたら面倒だ。ヴァレンティ家に仕えていたリディオに殺害を依頼した。また、懇意にしていたプリシッラにも殺害を頼んでおいた。


 リディオは裏切った。プリシッラは、幅広く営業しているから頻繁にヴァレンティ家に来るわけでは無いが、今の所何の報告もしてこない。もしかしたら何か隠しているかもしれないが、プリシッラが提供する経済の情報は役に立つので、取り敢えず放っておくつもりだ。


 後一か月。一か月で、自分は王子の婚約者という肩書を手に入れる。アンジェリカがリディオを撃とうとした時に煙幕を張った人物の顔が見えなかったし、ガブリエラの死体が見つかっていないのも気がかりだが、もう誰にも自分の人生の邪魔はさせない。

 今度こそ、絶対幸せになってやる。そう心に決めて、アンジェリカはお茶を一口飲んだ

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