黒髪の薬師5

 ロマーナが泣き止むと、マティアスは口を開いた。

「……ところで、さっき、何で俺の口が勝手に動いたんだ?何かの薬か?」

「……そうよ。植物から作られる麻薬の一種で、自白剤と同じような効果があるの。その麻薬から発せられる香りを嗅ぐと、真実を話したくなる」

 ロマーナは、涙を拭いながら答えた。

「その他にも、その植物からは、人を従わせる作用のある麻薬や、人の認識を変える作用のある麻薬が生成出来るの。粉薬の状態で取り引きされる事が多いけど、錠剤・液体の形で使用される事もあるわ」


 ベルナルドは、眉根を寄せて言った。

「違法じゃないか。君を連行しようか」

「研究用としてその植物を購入する許可を取ってあります。……あくまでも研究用です」

 思い切り私情で自白剤を使っていた気がするが。


「……でも、ロマーナが麻薬に詳しいなら、聖女様の本性を暴くのに役立つかもしれないな」

「聖女様の本性?」

 ロマーナが首を傾げた。マティアスは、ガブリエラと出会った経緯から現在の状況まで全てを話した。


「そう……。私の知識が役に立つのなら、協力させてもらうわ。今までのお礼とお詫びを兼ねて。麻薬の成分に拮抗する解毒剤も作れるしね。……それにしても、マティアスは、随分ガブリエラ様に優しいのね。契約の影響なのかしら。前回契約を更新したのはいつ?」

「更新?」

 ガブリエラは聞き返した。

「そうよ。あの便箋に含まれている麻薬の効果は、一週間くらいしか持たないから、契約を続行しようと思ったら、新たに契約書を作って更新する事になるの」


 更新なんて知らない。一度も更新した事がない。

「マティアス様、どういう事でしょう?」

 ガブリエラは、マティアスの方を向いた。マティアスは、気まずそうな顔で無言を貫いた。

 契約の効果が切れているのに、マティアスはガブリエラを匿ったり、あんなに優しくしてくれていたのか……。


「あら、もしかして、一度も更新していないの?……ふうん、そういう事なの……」

 ロマーナは、ニマニマした表情でマティアス達を見ていた。

 「とにかく!」

 マティアスは、話を打ち切るように口を開いた。

「ガブリエラが以前の生活に戻れるように、協力を頼む」

「聖女様の本性を暴くなら、一か月後に王城で開かれる夜会が良い機会かもしれないな。大勢の前でガブリエラの無実を証明できるし、王族が聖女様に頼りきった政治をするのを防ぐ事も出来る」

 ベルナルドが口を挟んだ。

「……じゃあ、その夜会に向けて対策を練るか」

「では、三日後に、ガブリエラの味方になる者を集めて作戦会議をしよう。場所はもちろんバルト邸で」

 あれよあれよという間に作戦会議の詳細が決まってしまった。


 作戦会議の日の夜、バルト邸には、マティアス、ガブリエラ、リディオ、ベルナルド、プリシッラ、ロマーナの六人がいた。ヨハンは来られないとの事だったが、マティアスが手紙で頼み事をしていた。

 会議が終わると、マティアスは、ゲームのラスボスに相応しい不敵な笑みで言った。

「それじゃあ、皆、頼んだぞ」

「はい」

「ええ」

「わかった」

「任せて下さいー」

「任せて」

 五人の声が、部屋に響いた。


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