【ダンジョン配信×死にゲー】 【悲報】探索者さん、分身スキルで死にゲーをやっているところを晒され世界に狂気を見せつけてしまう~『死んで死んで死んで、その先に勝てば俺の勝ちだ』
第1話 死にゲーってのは死んでなんぼのものってことよ
【ダンジョン配信×死にゲー】 【悲報】探索者さん、分身スキルで死にゲーをやっているところを晒され世界に狂気を見せつけてしまう~『死んで死んで死んで、その先に勝てば俺の勝ちだ』
天野 星屑
第1話 死にゲーってのは死んでなんぼのものってことよ
「さてと、防御魔法陣の設置と、隠蔽魔法の設置、安置場所の確保オッケイ、よしやりますか」
ダンジョンゲートを潜り、入口から少し言った先の見えづらい場所にある小部屋。
おそらくセーフティールーム的な扱いをされているだろう部屋に、いくつかの魔法陣魔法を仕掛けて、俺は所持しているスキルの一つを起動する。
「《分身》」
言葉に出してはいるけど、実際に必要なのはイメージと強く念じることなので、声に出しているのはあくまで自分の中のルーティーンだ。
スキルが発動されると同時に、あぐらを書いて壁際に座り込む俺の目の前に今の俺と全く同じ背格好、服装、武器まで持っている分身が現れる。
ただし、目は瞑って直立したまま。
自発的に分身が動くことも、俺の意識を本体に残したまま思考で命令を出して分身が動き出すこともない。
あくまで、意識を移して一時的に使うだけのアバター。
それが俺のポンコツな《分身》スキルだ。
スキルの発動に必要なのは、そのスキルを所有していることに加えて具体的なイメージだ。
例えば魔法系は基本的には詠唱することによってイメージを世界に刻みつけるが、実際には、その魔法がどんな魔法で、放たれたらどんな挙動をするか、世界にどう影響を及ぼすかを明確に想像することで魔法を放っている。
まあ多くの魔法使いはそんなことは知らず、定型文的な詠唱を唱えて規格の定まった魔法を放つ方に向かってしまうのだが。
閑話休題。
俺自身のスキルの話になるが、俺はどうしても初期の頃に、俺本人とは別に俺と全く同じ思考行動指針で動き出す分身を想像することが出来なかった。
そのために、俺の《分身》スキルは一般的にはかなり希少な《分身》スキルの割にはポンコツな、意識を乗り移らせる程度のことしか出来ない仮のアバターのようなものになってしまったのである。
ただ、そのおかげで良いことも1つあった。
それは、自分が乗り移る仮の分身、ゲームで画面内にいるようなアバターという存在として分身を認識した結果、上限値を俺の本体の能力として、各種のレベルやステータス、まあ現実にはダンジョンはあってもステータス値なんて便利ものは存在してないのだが、それらを自由に設定した分身を出すことが出来るようになった、というわけだ。
つまり、いくらでも今の本体の俺より弱くした自分を作ることが出来るのだ。
感知能力から反射神経、そして本体では魔力によって強化されている運動能力などの性能まで全て。
俺はこれを非常に便利なスキルとして活用している。
《分身》スキルが発動し終えた事を確認した俺は、本体で壁に背中を預けて座り込んだ後目をつむり、俺の意識が本体から分身へと飛ぶイメージをした。
そして目を開ければ、あら不思議、俺はまっすぐ地面に立っていて、目の前には壁にもたれかかる俺の本体と、それを隠すように設置された魔法陣が見える。
ちなみに分身の能力的には、本来は隠蔽された魔法陣も本体も認識できないのだが、分身はあくまでもう1人の俺自身判定らしく、魔法の効果が発揮されずにこうして本体を見ることが出来ている。
本体が安全なのを改めて確認した俺は、分身の体を使って迷宮の小部屋から出る。
感じるのはやはり、剣ってこんなに重たかったか、体とはこんなに動かないものだったか、ということ。
俺が作成する分身はいつも、本体の俺より遥かに低レベルな、探索者になる前の俺の肉体と同程度の能力しか持たないものとして作り出される。
これは俺が意図してやっていることだ。
その目的はたった1つ。
上層から中層、下層を経由して深層まで繋がる移動用の通路を使い、上層から中層まで直線で下る。
これが地上に発生したダンジョンの優しいところで、例えば上層を突破しなければ中層には入れず、中層を突破しなければ下層には入れない、なんて面倒なことはなく、好きなように各階層の入口に立つことが出来るのだ。
もちろんそれぞれの階層に入れば後はずるなく奥まで攻略するしかなくなるのだが。
それでも時折上下の階層と繋がる通路が存在していて、各層の間の移動を楽にしてくれている。
まあ、深層までの計四層はダンジョンのチュートリアルに過ぎない事を俺は知っているので、その便利さも納得と言ったところだ。
「よっしゃ、行くか」
1つ頬を張り、ダンジョン2つ目の階層である中層へ。
ちなみに中層なんてかわいい名前がついているが、一般人は基本的に上層の入口でお断りされるのがダンジョンに出現するモンスターのレベルだ。
無論、人間はダンジョンに入ると探索者化と呼ばれる魔力との適合が進行して、地上での身体能力より遥かに優れた能力を持つようになっていく。
上層探索者でアスリート級、中層探索者では非探索者の世界記録に名を刻むレベル、下層、深層はそれ以上の怪物になってようやく攻略が出来る場所になっているが、上層からスタートしてモンスターを倒すことでレベルを上げ、中層、下層へと挑んでいく探索者もそれなりにいる。
もちろんずっと上層を探索しているだけの探索者もいるが、中層をソロで探索出来れば上等、腕利きと言われる世界だ。
上層に引きこもっているなどと揶揄されることはそう無いし、中層以降に進む探索者には大きな称賛が向けられる。
そんなダンジョンの中層に、俺は今足を踏み入れた。
地上の多少動ける一般人程度の能力しか持たない分身のアバターで。
すぐに肌を刺すのは、中層ののしかかるような魔力の圧。
探索者たちは適合していくことでこの大気中に漂う魔力にも慣れていくが、俺は一般人アバターなのでその重圧も強く感じてしまう。
だが、その中を怯えることもすくむこともなく歩いていく。
もうこの圧力には慣れきっているのだ。
上層の奥の方でも似たような圧力を受け続けていた。
幾度も繰り返せば、慣れるというものである。
そんなダンジョンを歩く俺の目の前に、複数のモンスター達が姿を現す。
現れたのは、狼のような体躯に背中から鉱石のようなものが複数生え、牙と爪が鋭く発達したモンスター、ハウンドウルフ。
通称ハウンドだ。
上層の奥の方の地区で出現するウルフと系統は似ているが、ひとまわり程体躯が大きくまたその爪と牙、そしてウルフより高い身体能力によって、その攻撃性はかなり高い。
中層序盤の関門とも言われているモンスターだ。
俺を取り囲むように3体のハウンドが円を描くように歩き始める。
それに対して俺は、腰から重たく感じる中層相当の剣を引き抜いて構え、モンスターどもがいつ襲いかかってきても良いように構える。
そして数度、ハウンドの輪が巡った直後、3匹が僅かな時間差をかけて俺に向かって飛びかかってきた。
まず飛びかかってきたのはちょうど俺の前方に位置していたハウンド。
そしてそれにわずかに遅れるようにして2体目が。
3体目は、俺が2体目までを回避ないしは迎撃した直後を刈り取るために他の2体の様に飛び上がることなく地面を這うようにして接近してくる。
その刹那、わずか数コンマ。
中層のモンスターの攻撃は、ボクサーのジャブ並に早い。
それに対応出来てこその中層探索者であり、また上層をくぐり抜けた探索者にはそれだけの能力がある。
「ふっ、ふん、甘えわ!」
しかし、このアバターでの中層攻略に慣れている俺にすれば、それはもう知っているパターンだ。
2回程死にながら覚えたパターン。
コイツラは3体同時に飛びかかるとき、必ず後方の1体が本命になる。
何より、コイツラの攻撃は、直前に足と胴体の僅かな揺れに兆候が現れるので反応しやすい。
1体目の爪と牙をしゃがみ込むように交わしつつ前進し、空中で動きを変えられない2体目の爪の範囲から逃れる。
そして逃れると同時に反転して剣を振りかぶり、俺を仕留めんと接近してきた3体目を頭から両断する。
一般人程度の身体能力しか無い俺だが、中層相当の剣の威力も相まって、1体目のハウンドを完全に殺し切ることが出来た。
後は相手の突撃に合わせて、回避しながらも頭部から胴体まで深々と切り裂いたことが大きいだろう。
そして残るは2体。
今度はこちらから仕掛けるために、1体のハウンドの方へと地を這うようなステップで詰める。
それを警戒してハウンドが僅かに後退するが、構わず詰める。
すると、今度は下がらずに踏み込んできてくれる。
その兆候を読み取れたので、回避しつつハウンドの腹を大きく切り裂く。
一撃では死亡しなかったが、もう1発入ればやれる。
「ふっ……!」
そして3体目のハウンドが背後から飛びかかってくるのを、地面にうつむきに寝そべる程に一気に体勢を低く落とし込み、頭上を通過する瞬間に体を跳ね起こして剣で切り裂こうと思ったが、流石に一般人並のアバターではそんな挙動は出来なかった。
結果、俺は伏せてハウンドの攻撃を回避するだけになってしまう。
「よい、っしょぁ!」
掛け声とともにすぐに起き上がり、追撃に備える。
再び2体のハウンドが俺の周りを円を描くように動き始めるが、明らかに腹を斬られた個体の動きが鈍い。
それを見ていた俺は、次の攻撃の際に手負いの個体を討伐し、最後に残った1体は正面からの立ち合いで討ち取った。
中層序盤の関門とは言え、慣れてしまえばこんなもの。
特にこいつらは、獲物を囲んで周回する癖であったり、そこから飛びかかる際のパターンだったりとが少なく、また体の動きから挙動を読みやすいので対処出来るレベルだ。
特に、俺みたいなソロではなく複数人でパーティーを組んでいる場合であれば、獲物を定めることすら出来ずにさらな弱敵に成り下がる。
それがハウンドというモンスターだ。
五回も死ねば奴らの対処には十分である。
「よし、次行くか」
多分まだ覚えられていない相手がいるのでこのアバターのまま生きて帰ることは無いとは思うが、一応ドロップアイテムとなる魔石を拾ってポーチにしまう。
1体だけ魔石ではなく【ハウンドウルフの背結晶】と呼ばれる鉱石をドロップしていたが、流石にサイズが大きすぎて素材系のドロップアイテムはこの特攻用の装備では持って移動出来ないのだ。
そのため、ドロップアイテムをそこに残して、俺は更に奥へと進んでいった。
******
中層第4地区を越えて第5地区。
そこに差し掛かったところで、俺の肌に刺さる重圧が更に重たくなる。
「うん? なんか魔力異常起こってんのか?」
ダンジョンの大気中の通常の魔力は、魔力に適合した探索者では感じることは出来ない。
その魔力こみの大気が、探索者にとっては通常の状態だからだ。
その点、魔力に適合しきれていないという設定の俺のアバターは、便利なことに魔力を重圧として感じ、さらにその圧の差で魔力量の変化すら感じ取る事できたりする。
その感覚が、今この中層の第5地区で異常が発生している、と俺の勘に告げている。
さてさて、起こっているのは
はたまた地獄の蓋が開く
そんな事を考えながらも足を進めていると。
「きゃあっ!」
「ミノリ、大丈夫!?」
そんな悲鳴と、悲鳴の主とは別に気遣う声の主が猛スピードで正面から近づいてきた。
「……くっ、そこの人、逃げて! イレギュラーが発生してる!」
正面遠方から走ってくる2人組の少女のうち1人が、俺に向けてそう声をかけてくる。
おそらくは先ほど心配する声をかけた者だ。
そしてその隣を、腕をかばうようにしながらもう1人の少女……女性が走り抜けていく。
女の人の年齢ごとの呼称って難しいよね。
しかしイレギュラー、すなわち不規則的魔物階層移動、か。
本来はより下の階層に棲まうモンスター共が、ところどころにある階層を繋ぐ通路を逆流して上の層へと姿を現す、ダンジョン内の災害の1つ。
下の層のモンスターが逆流すると同時に、それを中心として逆流した先の階層のモンスターも集まってきて群れを形成する、とびきりやっかいなダンジョンで起こる現象の1つ。
そんなもの。
血が沸き立つ程に高ぶるではないか。
自然と自分の口角が僅かに上がるのがわかる。
肌に感じる下層の魔力圧は中層のそれより遥かに強いが、全くついていけないわけでもない。
抜剣した俺は、前方からの声に反して、全速力で2人へと、、その向こうに来ているであろうモンスターの群れへと近づいていった。
「なんで……!?」
「くっ」
そのまま2人組を通過してその後ろに迫るイレギュラーモンスター共に突っ込もうとした俺は、横切る瞬間に腕を引っ張られて大きく体勢を崩す。
「何やってるの!? 急いで逃げないと!」
「は? あー」
そうか、そう言えば今の俺の格好は、上層相当、それこそ碌な防具も装着していない素人探索者に見えるような格好であった。
今回の『死に覚え』では、余計な装備はかえって鍛錬の邪魔になる、として碌な装備をしてこなかったのだ。
唯一武器だけが中層の序盤でも通用するものだが。
だが、だからと言って折角の鍛錬の場、みすみす見逃すつもりはない。
「良い、俺は大丈夫だ。守らなくて良い」
掴まれている腕をひねりつつ握力が弱まったところで振り払い、モンスターへと向かって突っ込んでいく。
「あ、ちょっと!」
「駄目、ミノリ、逃げないと」
「でも!」
「自殺志願者は助けられない。それだけは、絶対に無理」
後方からそんな言葉が聞こえてきた。
そうだ、ダンジョンは基本的に自己責任。
俺のこのアバターが惨たらしく殺されようが、少女達が見捨てて逃げようが、批判する連中はほとんどいない。
一部いたとして、それ以上に大きな探索者としての常識や声によってかき消されて終わりだ。
集団に正面から接近し、真っ先に突出してきたハウンドを両断。
そのまま流れる動作で、下層から上がってきたであろうウッドパペットと呼ばれる。人形劇で使われる木人形が巨大化したようなモンスターへと一撃を与えようとする。
が、流石は下層のモンスター、もはや俺程度の攻撃では速度的に普通には攻撃が通らず、その手にする剣で受け止められる。
どころか大きく弾かれて体勢を崩され、こちらが貫かれそうになる。
それを俺はあえて弾かれた方向に自分から体を寄せることで回避し、そのまま足を止めることなく集団の側面を走り抜けていく。
脆い一般人の心臓と肺が悲鳴を上げているが、それを壊れる手前の最大限活用して走り抜ける。
たった一撃で、終わってなどやるものか。
あがきにあがき、見て覚えて、そしてコイツラを葬ってやるのだ。
それこそが、俺が最弱の《分身》スキルに見いだしている、使い道なのである。
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