秋風と残暑

 大学4年生の10月。秋晴れの中、僕は生まれて初めて来た土地、正確には県に足を踏み下ろした。朝、最寄駅の改札に入る時は、1限がある同じ大学の学生たちとすれ違っていたのに、電車を乗り継ぎに乗り継ぎ気づけばお昼過ぎになっていた。

 頬をかすめる風はまさしく秋を感じさせた。どうやらバスはタイミング的に来ていないらしい。

 今回の旅の理由、それは卒業研究で使いたいデータが他大学の図書館にしか保管されていなかったからだ。取り寄せてもらっても良かったのだが、毎日研究室に通い詰めていたため、気晴らしも兼ねている。

 スマホの地図を見ながら、駅から随分と遠いところにあるものだと感じた。僕の在籍していた大学も最寄駅まで20分近くかかるが、その比ではなかった。

 それも仕方ないのか。目的地の大学の主要学部は別キャンパスに集約されていて、よくある僻地キャンパスの図書館に、僕の欲している文献が保管されていたのだから。

 駅から離れていくと、民家と田んぼや畑しかなくなっていった。首都圏と呼ばれる地域だが、随分と自然豊かで、公道を走っていたトラクターを見かけたのも、趣を感じさせる。

 スマホの地図で曲がり角の目印だったコンビニに辿り着く。秋風を感じてはいたものの、すでに歩いて30分。背中には大量の汗をかいていた。タブレットしか入れていないカバンは肩がけでリュックではないのに。

 コンビニで飲み物と炒飯風のおにぎりを一つ買い、コンビニの駐車場で食し、再び歩き出す。

 目的の大学に着いたのは西陽が差し込む時間帯だった。

 この大学での3限か4限が終わったのだろう。僻地の特定の学部しかいないキャンパスといえど、学生たちの賑やかな声が聞こえてくる。

 僕は図書館の入り口て入館許可をいただく。違う大学であっても学生証さえあれば入れる。もちろんお互い国立大学だからだろうが、大学というのは学生に優しい仕組みになっているなぁなどと考えていた。

 机に伏している学生が何人かいた。静かで寝るのに適しているのだろうか。階段を下り、地下室の書庫に辿り着く。ボタンを押すと動き出す書庫の棚に圧倒されながらも、目的の資料を選び、1階のコピー機まで運び印刷をする。

 ただそれだけの作業だが、なんやかんやで1時間近くかかっていた。


 目的の資料も集まったところで夕暮れ時。あまり寄り道をしている暇もなかったのと、お腹も空いたため、大学を後にした。バスを使えば良かったのだが、今度はバス停を探すのが面倒で、結局歩いた。

 夕方になると秋風も強くなっており、歩くのに支障が出るレベルだった。

 駅前にたどりつき、いつも行き慣れているカツ丼チェーン店でカツ丼を食べたら、電車に乗り込む。

 流石に歩き疲れた。足が棒になる。言い得て妙である。

 電車に揺られ、最寄駅に着いたのは19時を回っていた。朝出た時とは違い、すれ違う人はスーツを着た会社員が多かった。

 改札を抜けると、再びそこから30分近く家まで歩くことになる。家と最寄駅の間に大学があるため、研究室に寄って入手した文献をパソコンに打ち込み解析をしようかと一瞬思ったが、流石に疲れには勝てなかった。昼間の汗が嘘と感じるくらいに涼しい夜風を頬に感じながら家へと向かった。

 秋の風を感じるとふと思い出す、僕の大学生活の1日である。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

切り抜き動画ならぬ切り抜き小説 呼吸するだけで金が欲しい @jjfjdjdjdjfjdjfdkdk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る