金木犀と蓮に牡丹。それから、溺愛してくる龍神の鱗。
梵 ぼくた
いつか見た夢
最近は決まってとある夢を見る。
月光に照らされ妖艶に色付く桜の花びらが舞う草原に、私が独りぽつんと立っている。
風の流れが変わった瞬間、眼の前に現れる大きな白銀色の龍。
何処かの神殿や一国の歴史書に書き記してあるような、それはそれは立派な龍。
柳葉飛刀のように切れた瞳に睨まれてはぐうの音も出ない程の恐ろしさだが、不思議とこの龍からは敵対心を感じることは無い。
しゅるしゅると音と煙を立てながら地に足をつければ、龍からニンゲンの姿へ大変身。
スラリと伸びた手足に、ニンゲンの域を遥かに通り越した美貌。白銀色の髪を一つに縛れば、蒲公英のような色を宿した瞳がこちらを向いた。
さく、さく、と茂る草の上を歩みこちらへ寄ってくる彼の姿が、何故か懐かしく思える。夢の中だけの出会いなのに。
眼の前までやってくると、きゅ…と私を抱きしめた。
『もウ二度と、お前ヲ離さなイ。』
大きな身体で抱きしめられれば、彼の香りが私の胸いっぱいに広がる。
初めて聞くのに、何処か懐かしい声色が空気を揺らし鼓膜に届いた。
ふわりと舞う纏った龍香、ちりんと踊る彼の瞳。
菊、牡丹、山茶花、水仙、そして…金木犀。
この自然界に存在するどの華よりも、清く美しく凛とした彼の香り。
金木犀のように心安らぐ甘い香りが懐かしい。
金縛りにでも遭ったように一寸たりとも動けない私から離れた彼は、決まって悲しそうな笑顔を浮かべ頬を撫でる。
『…!ね、ねぇ!貴方の名前を教えてくれない…!?』
喉だけ鎖から解き放たれたように息がしやすくなった。と同時に、一番聞きたかった事を言葉に紡いで彼の耳へ飛ばしてみた。
刹那、彼の目の色が変わった。くるり、と振り向いた反動で白銀色の髪が宙に円を描く。
彼が口を開けば、龍の名残であろう鋭い歯がギラリとこちらを向いた。
「 」
名前を発した瞬間、ざぁぁ…と桜吹雪が辺り一面を覆う。
これは…目覚めか。折角声が出せたのに…!と悔しそうに瞼に涙の鏡を作ると、桜に囚われる彼が小さく手を振り口を動かした。
「今日、逢いに行くヨ」
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