悪役に転生した俺は、悪虐の限りを尽くしたい
AteRa
第一章:悪虐の限りを尽くしたい
第1話 悪役に転生しました
「……どこだここ?」
目を覚ますと知らない場所にいた。ヨーロッパっぽい装飾のされた煌びやかな天井が見える。寝ているベッドも凄くフカフカで、寝心地は最高だ。俺が住んでいたアパートのせんべい布団なんかとは比べものにならない。
ええと、俺は一体なにをしていたんだっけ?
目を瞑り直して記憶をまさぐる。……段々と思い出してきたぞ。いつも通り女の子にフラれ、傷心中にトラックに牽かれたんだった。
生きていたのか……と一瞬思ったが、あの衝撃と痛みで生きているわけがない。これはいわゆる転生というやつか。それに気がついた瞬間、俺の脳内にこの身体の記憶がブワッと溢れ出してくる。
……なるほど。俺はどうやら名作RPG『ワールド・オブ・ウィッチクラフト』の世界に転生したらしい。しかも転生先は悪役『ルーク・エレクトリア』だ。そこまでは分かったが、その先のゲームのストーリーの詳細を思い出そうとすると、霧がかかったように思い出せなかった。何かしらの制限でもかかっているのだろうか?
しかし悪役か。俺は前世で『君って優しすぎてつまらない』とか『優しい人止まりの人だよね』とか、挙げ句は優しさにつけ込まれATMとしてお金を抜き取られ続けたことも多々あった。こうして転生したことによって、自分の前世を客観的に顧みることができて、やっぱり優しさってクソなんだなと言うことを再認識する。
「今世こそ、力を手に入れ好き勝手に生きて、悪役として悪逆非道を尽くし、幸せを掴み取るんだ」
俺は固くそう決意する。もう絶対に搾取なんてされてやらない。俺が搾取する側になるのだ。
そう心に決めた直後、俺の部屋の扉がノックされた。
「ルーク様。朝食の準備が整いました」
どうやらメイドが呼びに来たらしい。黙っていると、メイドが扉を開けて入ってくる。どこか怯えたような、様子を伺うような表情をしていた。不思議に思って記憶をまさぐってみると、どうやらルークの両親はメイドに酷い扱いをしていたらしい。ルーク自体はメイドに興味がなく、手荒な真似はしていなかったみたいだが、とにかく両親は悪役の親に相応しい悪徳ぶりを見せていたみたいだ。
それを思い出し、俺は内心ほくそ笑む。くくくっ、この両親は悪役となる俺の親に相応しい人間だ。人を人だと思わない扱いぶり。殴る蹴る、罵声を浴びせるは当たり前。よくこのメイドたちは辞めないものだと思うが、きっと家が貧しいとかで家計が苦しいのだろう。
「ルーク様。お着替え、手伝わせていただきます」
恭しく頭を下げて、メイドが持ってきていた服を広げる。貴族らしい装飾のされた服だ。俺はもちろんその服の着方を知らないので、甘んじて着替えさせてもらう。
「今日もお似合いですよ。鏡で確認いたしますか?」
「ああ。確認しよう」
メイドの言葉に俺は頷く。そしてメイドが持ってきた姿見で自分の姿を確認して、俺は現在、この身体の年齢が十歳前後だということを知った。記憶を再びまさぐると、先月にちょうど十歳の誕生日を迎えていたみたいだった。
そして俺はメイドに連れられるまま、食堂に向かった。
+++++
食堂に近づくと、ヒステリックな金切り声と人を叩く音が聞こえてきた。一瞬、猫が発情しているのかと思ったが、どうやら母親がキレ散らかしているだけみたいだ。
「なんでこんなこともできないのッ! ホント、あなたたちって使えないわねッ! クズよ、ゴミ以下よ、あなたたちッ!」
食堂に入ると、母親がメイド数人を相手に叫び散らかし、張り手で頬を殴りつけていた。メイドたちはただ歯を食いしばって耐えているだけだ。中には泣いているメイドもいる。
しかし……いちいち耳障りな金切り声だな。うるさいったらありゃしない。しかし同時に、このヒステリック具合は悪役の母親に相応しいと思ってしまう。ああ、でもやっぱりうるさいものはうるさいな。マジ少しくらい黙ることはできないのだろうか? まあそれができていたら、ここまでヒステリックにならないか。誰からも好かれてなさそうな性格だもんな。
心の中でそう思いながら、俺はにこやかな笑みを浮かべ、母親に近づいた。そして落ち着いた声で彼女に尋ねる。
「母様。どうしてそんなに怒っているのですか?」
「あら、ルークちゃん! どうしてって、こいつら、私が頼んでおいた王都の有名な茶菓子を買い損ねたっていうのよ! 楽しみにしていたのに、本当に使えない!」
そんな茶菓子程度で殴るなよと思ってしまい、まだ俺も悪役になりきれていないことを自覚する。そんな甘い考えでは駄目だな。まあいきなり悪役になれと言われても難しいけど。少しずつ精進していこう。
そう考え、俺は少しでも悪役らしくなるために、胡散臭い笑みを貼り付けて母親に言った。
「それは残念でしたね。でも母様、そんな使えない人間、そのまま雇ったままでいいんですか?」
「……どういうこと? ルークちゃん」
「いえ、そのままの意味ですよ。使えない人間を手元に置き続ける必要って、あるんですか?」
俺の言葉に母親は考え込んだ。それからしばらく沈黙が続き、ふと彼女はポンッと手を打った。
「そうね、ルークちゃんの言う通りね! 使えない人間を手元に置いておく必要なんてないわよね! 解雇、しましょうか!」
にこやかにそう言う母親に俺は内心ほくそ笑む。母親を誘導し、この家計に苦しんでいるメイドたちを解雇にしてやることで、俺も悪役らしいスタートを切れたみたいだ。ようやくこれで搾取される人生から脱却できるな……。俺は周囲を搾取するような煌びやかな将来を夢描くのに必死で、解雇を言い渡されたメイドたちが嬉しそうに口元を緩めていることに気がつかないのだった。
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