1189 利己的で狂った男

 奈緒さんの依頼をこなして、機嫌良く帰宅の途に就いた眞子だったが。

東京ドームの廊下を歩いてると、今一番合いたくない相手である桜井さんと遭遇。


そして「眞子のファンに成ってやるから感謝しろ」っと迫ってくるのだが……


***


「ちょっと、離して下さいよ。さっきから、なんなんですか?なんでそこまでして、しつこく私に関わろうとするんですか?」

「そりゃあ、出入り口で逢った時から、顔が気に入ったからしょ。だから、ファンになってやろうと思ってる訳。だからさぁ、もっと、ゆっくり話そうぜ」

「はぁ?アナタ、さっきから、一体、なにを言ってるんですか?」

「いや、オマエさぁ、俺の話をちゃんと聞いてるか?……だからさぁ。ちょっと知名度が高いだけの売れない有名人に、俺が愛の手を差し伸べてやろうって言ってんしょ。こんな風にな」

「ちょ!!」


……コイツ。

なにをしてくるのかと思えば、手を伸ばしてきたと思ったら、そのままダイレクトに私の胸をもんで来やがった!!

この私の胸は崇秀さんだけのものなのに、なんて事をしてくれたのよ。


ふざけるな!!



『バシィ~~ン!!』



「おぉ、痛ぇ。……オイオイ、高々胸を揉んだくらいでひっぱたくって、どういう神経してるんよ?大体、大切なファン様に向って、そりゃあねぇんじゃねぇの?」

「アナタこそ、なにをするんですか!!自分が、なにをしたか解ってるんですか!!」

「ほぉ~~~、この期に及んでも、悲鳴も上げずに反論ッスかぁ。良いね、良いね。気の強い所が益々気に入ったっしょ」

「ちょっと!!アナタ、頭おかしいんじゃないですか?」

「はぁ?なにがおかしいんだよ?こんなもん、売れない有名人が体張ってファンサービスしてくれただけじゃんかよ?オマエの方こそ、なに言ってんだよ?」

「えっ?……アナタ、本当に、一体、なにを言ってるんですか?」


狂ってる。


本気で狂ってるよ、この人。

鮫島さんが教えてくれた通り、利己的で、なんでも自分の都合の良い方向に解釈する。

もぉこれは、倫理観やモラルが欠如してるとかの問題じゃない。


なんなの、この人?


そんな彼の狂った行動に、いつの間にか私は、少しづつ飲み込まれて行っていたのか。

本能的に、つい身を引いてしまい、弱気な態度をとってしまう。



「おぉ、おぉ、なんか知らないけど、そんな風にビビッた顔も可愛いっしょ。こりゃあもう堪んねぇなぁ」


そんな私の弱気な態度を見て、更に増長させてしまったのか。

この狂った男は、まるで獲物を捕まえた様なサディスティックな表情を浮かべながら、そんな事を言って来た。


だめだ。

これ以上、この男にイニシアティブを取られたら、今以上にロクデモナイ事に成りかねない。


だから此処では、即座に弱気な態度を辞めて、毅然とした態度で対応しなきゃ……



「ふっ、ふざけないで下さい!!」

「別に、ふざけてないしょ。ってか、そんなに可愛い顔してビビッってくれるんなら、もっと付き纏っちゃおうかなぁ」


えっ?


じょ、冗談じゃないですよ。

これ以上、こんな気持ち悪い奴に付き纏われて堪るもんですか。


だったら、もぉ良いや。

胸を触られた件は、納得出来無いけど。

これ以上、コイツには関わったらロクな事にならなさそうだから、さっさと、この場を離れよう。


このまま此処に居たんじゃ、気が変になりそうだ。



でも……本心を言えば、それだけじゃない。

それ以前に、私は、この目の前にいる狂った態度を取り続ける男が怖いと思い始めていた。


完全に相手に飲まれてる。


基本的に、女の力じゃ、男には勝てないし。

そこに付け加えて、この人、相当、頭がおかしいから、なにを仕出かすからすら解らない。


そんな奴を相手に、今、下手に刺激して、理性でも無くして襲ってきたら、どうにもならないからね。


そりゃあね。

私だって、昔はズッと喧嘩ばかりしてたから、こう言う手合いの対処法ぐらいなら十分な程に心得てるつもりだよ。


……けどね。

幾らそんな風に対処法が解っていたとしても、体と心は別物。

崇秀さんと過ごした日々が余りにも幸せ過ぎて。

今では、全くと言って良い程、こう言った男の暴力的な衝動が解らなくなってしまい。

自然に『男が怖い』って感覚だけが強く働いてしまっている。


それ故に、今はもぉ……喧嘩ばかりしていた時の様に、体が上手く反応してくれない。


だから……口惜しいけど、今は泣き寝入りするしかなかった。


こんな奴相手に逃げなきゃいけないなんて、本当に口惜しい。



「オイオイ、だから逃げんなっての。折角、表に、俺のツレが沢山来てくれてんだからさぁ。一緒に来て、アンタの事を目一杯宣伝させてくれよ。さっきみたいなアンタのファンサービス付きでよ」

「へっ?嫌ですよ。イラナイですから。だから、もぉ関わらないで下さい」

「ほぉ~~~、急に女の子らしく成ってきたじゃん。そう言うの良いねぇ。……つぅかさぁ、なんも心配しなくて良いからさぁ。一緒に行こうよぉ。なぁ、良いだろ」

「本当に、お願いですから。もぉ帰らせて下さい。放って置いて下さい」

「はい、それはダメェ~~~。そんなもん許される訳がないっしょ」

「なんでですか?」

「だってよぉ。そんな事したら、俺の面子が丸潰れじゃん。そんなのどう考えてもダメに決まってるっしょ」

「そんな、あなたの都合なんて知らないですよぉ」

「なぁ、あんま俺が下手に出てやってるからって、そんな風に駄々捏ねんなよ。……あんま我儘バッカリ言ってると、外で待ってる奴等全員で輪姦しちゃうぞ」


……嫌だ。

そんなの絶対に嫌だ!!


って言うか、なんでこんな事に成っちゃうの?


私が、こんな目に遭わなきゃいけないほど、なにをしたって言うのよ。

東京ドームには、奈緒ネェを手伝いで来ただけだから、何も悪い事なんてしてないのに……



「帰るんです……帰るの!!」

「あぁっそ。んじゃま、入り口まで一緒に送って行くわ」

「嫌だぁ」

「はいはい、そんな事言いながらでも、本当は外で待ってるファンのみんなに会えるのが、楽しみ楽しみなんッショ」


そう言った後、無理矢理、手を引っ張られてるって言うのに……恐怖が私の心を支配してしまっているのか、どうやっても力が入ってくれない。


ただ只管……目の前のこの人が怖い。


自分が無茶苦茶にされる事が脳裏を過ぎって、手が出せない。


誰か助けて……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


最悪な展開ですね。

しかも眞子自身も、完全に桜井さんのペースに飲まれてしまっているので、抵抗しきれてない感じですし。


まぁ以前までの眞子(倉津君)ならば、桜井さん程度の相手だったら問答無用でぶん殴り、その場を収められていたのかもしれませんが。

もう完全に頭の中まで女性化してしまっている眞子では、どうにも上手く対応が出来ない感じに成ってしまっている様ですね。


これが俗に言う「男性視点」と「女性視点の違い」っと言うものなんですが。

女性の身と、男性の身では、此処まで思考が変わってしまうものなんですよ。


まぁ勿論、そうは言いましても。

以前の喧嘩ばかりしていた倉津君の記憶もある訳ですから、全く抵抗できなかった訳ではなく。

本編でも書きました様に、最初は一般的な女性よりかは強気な態度で行けてたのですが。

桜井さんのあまりにも利己的な狂気に当てら続ける事により。

女性の身では「男性に腕力では勝てない」っと言う疑念が沸いてしまい。

これでもし「レイプでもされてしまって、望まぬ子供でも宿してしまったら、どうしよう?」って気持ちが先行してしまっているからこそ、眞子はこんな状態に陥ってる訳ですね。


それ程、女性の身と言うのは「狂った男に対しては恐怖を感じる」ものなのですよ。


さてさて、そんな危機的状況の中。

桜井さんの仲間の元に引きずって行かれてる眞子なのですが。


この後、どうなってしまうのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾



あっ……これは余談なのですが。

傍から見たら狂ってる様にしか見えない桜井さんなのですが。

その実、本人は『これでも本気で悪意が無かったりします』です。


まぁだからと言って、許されるものじゃないんですけどね。

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