第40話 化けの皮を剥がす時間ですわ!
「別にこの貴族勲章は気にしないでくれですわ。どうせ負けたら奴隷になるんだろ? ならあってもなくても変わらないからな」
目の前に座るアリン・クレディットはそう嘯く。だが、その魂胆は見え透いている。
「無駄だよ。そんなことをしたって、俺を動揺させることはできない」
「そうなんだ。ま、始めようよ」
俺は見事アリンの策を一つ潰せた。動揺しないための一つの事実が、俺を守ってくれたからだ。
☆8ターン目 所持チップ(アリン:66 ランスロット:29 フィッツ:65)
FP:ランスロット LP:フィッツ
俺は山札からカードを引く。
……来た! K!
俺は一つの感情も表に出さず、心の中でもろ手を挙げる。これもあの人に教えていただいた技術の一つだ。
引いたカードはK。これで俺の勝ちは決まったも同然だ。
ファーストプレイヤーのランスロットがさっきからちらちらと俺の方を見ている。俺からの指示を待ってるのだろう。っは、少しは自分で考えろ。
俺はランスロットの顔と、伏せられたカードを見つめる。
はぁ……運もないやつだな、こいつは。
「ランスロット、フォールドしろ」
「……フォールド」
そうして手番がアリンに回る。問題はこいつがレイズするかだが、残りターン数も少ない今、こいつは毎ターン勝負に出るしかないはずだ。
「レイズだ」
よし。狙い通りアリンがチップを大量にレイズして俺を降ろしに来ようとしてきた。だが、残念なことに俺が引いたカードはK。アリンがAを引いていない限り俺の勝ちだ。
そして、俺にはアリンがAを引いているかどうか分かる眼がある。
「さて、強気な君はどんなカードを引いたんだ? まさか、ブラフじゃないよね?」
アリンは答えない。まあ、この言い争いは余興に過ぎない。応じても応じなくてもどっちでもいいんだがね。
静かに押し黙り真剣な表情をするアリンと、伏せられたカードを交互に見つめる。
そう、こうやって集中することで、俺は見ることができ……
「……っ!」
俺は思わず立ち上がってしまう。それは、見えるべきものが乱れていたから。
「あれ、どうかされましたか? フィッツ様」
こいつ、まさか狙って……? いや、こいつが気づくはずが……。
「わたくしが気づくはずがないと、この状況でまだそう思ってるんですわ?」
……!
「そんなバカな! まさかエンディに聞いてたのか!? いや、そもそもあいつには話していない……ならどうして!」
「どうして、というのは……まさかわたくしに聞いているんですわ?」
俺は何も答えられなかった。これ以上話すと、隠していた全てがバレそうだったから。
「……あは、あはははははは! あはははははははははは!! ひ~お腹痛……そんな悲しそうな顔するなって。大丈夫、ご期待に添えてお前の”敗因”について今からたっぷり並べてやる」
けれど、そんな心配は無用だった。俺が話さずとも、アリンは勝手に秘密を暴く。
「そもそも最初から疑問があった。お前には必ず勝つ確信があったくせに、何かを隠す素振りがなかった。使用するトランプですらいくらでも確認してくれと、お前はそう言った。だが、わたくしはトランプからイカサマの痕跡を見つけることができなかった。なら別の場所に仕込んだのかと思ったが、屋敷を歩き回ってみても何一つそれらしきものは見当たらなかった」
頑丈な金庫の中に隠しているつもりだった。その金庫にさえ、到達できないと思っていた。
「お前が二対二を選んだ時点でランスロットが裏切るってことは何となく察しがついた。ハイカードを選んだのも、三対一ならほぼ確実に勝てて、なおかつ一度広げたリードを簡単に埋めることができないからだろう」
それをアリンはミカンの皮をむくように簡単に剥がしていく。バレるはずのないむき身の策略が、ころんと床に放り出される。
「だが、勝負が始まってみて違和感があった。2ターン目でお前がわたくしのカードを何か探ろうとしていた時、今と同じように顔とカードを交互に見ていた。その時感じたのは、視線の動きがわたくしの顔をよく見ていないことだった。お前はカードを探るふりをして、まったく別の物を見ようとしていた。そして3ターン目、お前はJでわたくしの10に勝った。その瞬間、やはりトランプにはイカサマが仕込まれているのだとわかった」
呼吸が浅くなる。これと同じ体験を、ここ最近したはずだ。
いやだ。俺はこれを止めたくて、勝負を挑んだっていうのに。
「もちろん、仕込まれたイカサマが何なのかはわからないままだ。だけど、エンデッドの裏切りに動揺したお前はミスを犯した。それは6ターン目、ランスロットがまだ見ていないカードに対してコールの指示を出した。お前は知っていたんだ、あの伏せられたカードがあの場で一番強いことを。お前にはずっと見えていたんだ。そして、その時ようやくわかった。わたくしたちには見えないということこそが重要なんだってことを。わたくしたちに見えず、フィッツにだけ見えるもの……そう考えると答えはすぐに分かった」
アリンの言葉はもはや頭に入らない。俺の目は必死になってアリンの伏せられたカードを見つめ、求めている揺らぎを見つけようとする。そこに俺の勝ちがあるはずだから。
アリンはトントンと指先でカードを叩く。
「フィッツ、お前がトランプに仕込んでいたのは魔力流だ。わたくしたちに見えないほど微細な魔力流をカードから漏れ出させて、その種類を判別していた。そうだな?」
だけど、さっぱりわからない。トランプから立ち込めるはずの魔力流は真横に置いてある貴族勲章のせいで乱れ、何が何だか分からなくなっていた。
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