第39話 終わりへのカウントダウンですわ
「二対二ね……なんだ、エンディは俺に負けてほしいんだ」
エンデッドの裏切りを突き付けられたフィッツは、ゆっくり頭を左右に揺らす。
「……そうだ。俺はフィッツさんの言う”あの人”のことを、フィッツさんほど信用できない」
「へーそう。ああ、そうか……」
その揺れはだんだんと大きく激しくなっていき、次第にブンブンと全身を使って揺らすようになる。振動が懐中時計にもカタカタと伝わってくる。
ドオン!
フィッツは勢いそのまま右手をテーブルにたたきつける。その衝撃でテーブルに乗っていたチップは零れ落ち、みんなの足の周りを遊ぶように転がっていく。
テーブルに怒りをぶつけたフィッツはそれで収まったのか、先ほどまでの落ち着いた余裕のある表情に戻る。
「あの日の再演と思って君を連れてたんだが、見込み違いだったな」
けれど、その声は凍える程に冷たく痛い。
「フィッツさん! ”あの人”と関わるのはもうやめてくれ! これはあんたのためで……!」
「二度と話しかけるな、裏切り者のクズが」
「ちが……俺は……!」
エンデッドから叫びにもならない声が漏れる。彼の心の悲鳴が私まで伝わってくる。
フィッツの目にはもうエンデッドは映っていない。ただ真っすぐに私を、私の中のカイチューを見つめている。いや、そこしか見れないようになっている。
私は思い知らされた。理解してしまった。
「6ターン目を始めるぞアリン・クレディット」
これは、エンデッドの、そしてフィッツの運命の勝負でもあるのだ。
☆6ターン目 所持チップ(アリン:73 ランスロット:15フィッツ:72 エンデッド:0)
FP:アリン LP:ランスロット
※エンデッドはチップが0枚になったため、以降はゲームに参加しない
この勝負に勝つには終了時点で過半数のチップ、81枚以上所持する必要がありますわ。チームとしてはランスくんのチップを合わせて88枚持っていることになるけれど、ランスくんが向こうの味方をしている以上チップ数で負けているのが現状。
6ターン目の場代はチップ3枚。僅差の接戦になっている以上、3枚の差は勝敗に大きく響く。ここからは一度も負けが許されませんわ……!
できれば一度のフォールドもしたくないこの状況、引いて来るカードが特に大事になる場面だ。
カイチューは手を伸ばし、運命のカードを引く。
『ああ……』
引いたカードは……6。
い、いやでも! フィッツが5以下を引いていれば勝ちますわ! それをカイチューが見抜ければですけど……。
引っかかるのは3ターン目の出来事。カイチューはフィッツに1の差で負けている。それは、カイチューがフィッツ相手に読み違えたということ……?
う~私がうじうじ悩んでも意味ないですわ! カイチューに賭けたんですもの、カイチューの勝利を信じないと。
全員がカードを引き終わり、ベットフェイズが始まる。カイチューはそれと同時にチップを手に取る。
「レイズだ」
『え、マジですの!?』
カイチューはノータイムで勝負することを選択。チップを新たに12枚場に出す。これでカイチューは場代含めて15枚出したことになる。
「ふうん、じゃあフォールドしよっと」
フィッツはそれを見てすんなりとフォールドを選ぶ。なるほど、ここで強気なベットを見せることでフィッツを降ろさせたかったんですのね。
しかし、フィッツはフォールドを宣言した後で突如笑い出す。
「フ、ハッハッハッハッハ! まさか君とエンデッドが共謀してたなんてね」
それはお互い様ですわ。私もランスくんが裏切ったときとても驚いたんですもの。カイチューとエンデッドの話的にこちらが三対一でやるものかと思ってましたのに……。
「ま、ちょっとびっくりしたけど助かったよ。まさかいきなりオールインするなんてね。君たちが本当に馬鹿でよかった」
オールインしたことが、馬鹿ですって……? 一体どういうことですの。
フィッツの真意はすぐに分かった。フィッツは人差し指でコンコンとテーブルを叩く。
「ランスロット、コールしろ」
それは、ランスくんに指示を出す合図だった。
「たしか君は二対二って言ったっけ? 今はどう見ても二対一だろ。馬鹿が」
……そういう意味でしたの。
フィッツ自身がカイチューに勝つ必要はない。カイチューのチップ数を減らすなら、ランスくんがカイチューに勝っても同じことだから。
一方、エンデッドは全てのチップをカイチューに渡した。そして、ゲームから離脱。チップ数的には同程度ですが、プレイヤーの数の差で不利な状況に立たされていますわ。
「おいランスロット! 早く俺の言う通り動け!!」
「……コール」
なかなか行動しないランスくんに業を煮やしたフィッツが怒鳴りつける。その声でようやくランスくんはチップを掴んで前に出す。
カイチューが場に出したチップは15枚。そして、ランスくんの所持チップも15枚。ランスくんのコールはオールインを意味するので、そのままオープンフェイズに移る。
結果は、カイチューの6に対してランスくんはQ。ランスくんの勝利ですわ。
「ハハハ、アッハッハッハッハ! なあ今どんな気持ちなんだ? 助けようとしたやつに負かされる気持ちってのはさあ!!」
『さいあくのきぶんですわ!』
これでカイチューのチップは58枚。目標の81枚に大きく遠ざかってしまいましたわ。それに、二対一の状況は改善していません。
ここからカイチューは、フィッツとランスくん両方に勝てるカードを引く必要がありますわ!
☆7ターン目 所持チップ(アリン:58 ランスロット:33 フィッツ:69)
FP:フィッツ LP:アリン
うう、今度こそ、今度こそいいカードを……!
山札から引いたカードを確認する。
『こ、これは……! 来ましたわ!』
「……」
カイチューが引いたカードはA! これで勝てますわ!
「フォールド」
『……え?』
フィッツは顔色一つ変えずそう言った。
「聞こえなかった? フォールドするって言ったんだけど」
「何度も言わなくても聞こえてるよ」
そんな、ありえませんわ! 今フィッツはほぼノータイムでフォールドを宣言しましたわ! それって、カイチューがAを引いたってわかったみたいじゃないですか!
「ランスロット、お前も降りろ」
「フォールドします」
フィッツはランスくんにも降りる指示をし、7ターン目が終了する。
私たちのチャンスタイムはいとも簡単に終わってしまった。強いカードを引いても勝負してくれないなんて、こんなの本当に勝てっこないですわ……。
フィッツは揚々とチップの枚数を数えている。
「なあ聞こえるか、アリン・クレディット。残り3ターンだ。お前の人生が終わるまでのカウントダウンは、もうすぐ0になるぞ」
私たちの所持チップは今のでちょっと増えて66枚。それでも、過半数には遠い。
フィッツはカイチューが強いカードを引いた時に的確に降り、勝てると見たら勝負を仕掛けてくる。まさにハイカードでの理想的な動きだ。
もしかして、本当にカイチューが負けてしまうんですの……?
「あは、あははははははは! あははははははっは!」
そんな私のもやもやを吹き飛ばすカイチューの笑い声が部屋に響き渡る。
「なんだ、まだ勝てる気でいるんだ」
「あーいやいや、言い例えだなーって。人生が終わるカウントダウンか、確かにフィッツ様の言う通りですわ」
カイチューはそう言いながらテーブルの下にもぐるように屈む。
そして、カチャカチャと何かを取り外し、ドンとテーブルの上に置く。
「なら、わたくしもそれ相応の覚悟を見せないとな」
『……へ!? え、なんでですの!?』
カイチューが取り出したのは、太ももに巻かれていた私の貴族勲章だった。
7ターン目終了時 所持チップ(アリン:66 ランスロット:29 フィッツ:65)
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