第30話 これは私に始まる物語ですの
「どういうことですの!?」
「ア、アリンちゃん。どうしたの急に……?」
静まり返った部屋の前、私の驚く声が響き渡る。悲壮な顔をしていたキーノさんとグウンズ様は唐突に大きな声を出した私の方を見ていた。
「えーと、おほほ~。なんでもありませんわ~」
「そう……?」
「そ、そうだキーノさん! おトイレ貸していただいても?」
「それは、別にいいけど」
私はハイローラ家の従者に連れられおトイレへと向かう。中に入り、周りに誰もいないことを確認するとカイチューに話しかける。
「ちょっとカイチュー、どういうことですのさっきの言葉は!」
『どういうこともなにも、そのままの意味だが』
「そのままって……今ランスくんがどういう状況かわかっていますの? ランスくんのお父様への告発文のせいで、騎士を続けられるかの瀬戸際になっているんですのよ!? 子供のけんかとは違うんですのよ!」
『そうだな』
「それに、ゲームでもランスくんにこんな過去があったなんて一度も触れておりませんでした……私たちにできることなんて何もありませんわ……!」
『そんなことはない』
私の迷いを吹き飛ばすように、カイチューは迷いなく断言する。
『アリン、これはまだ何も終わっていない。むしろ解決手段が向こうからやってくる』
「……え? 向こうから、ですの?」
カイチューが言ったその意外な言葉に私は困惑を覚える。
「この騒動を起こした人の狙いって、レイ家の没落かその力を削ぐことじゃありませんの? なのに解決手段が向こうからくるって……」
『そもそもそこが間違いなんだ。アリン、お前が語った未来の話の中ではフィガロット・レイへの告発文が見つかるなんてことは起こっていなかった。そうだな?』
「そうですの。私は何も知りませんわ」
ゲームの中でランスくんのお父様であるフィガロット・レイが貶められるような話は一度も出ていない。フィガロット・レイは常に英雄で聖人であったということが登場人物の随所からにじみ出ていた。
そんなフィガロット・レイに告発文が見つかったことがあれば、ゲームの登場人物の誰かが話していてもおかしくないはずなのに、誰も触れていない。
『つまり、今の状況は
①アリンが見た世界でも起こっていたが簡単に解決した
②アリンが見た世界では起こらなかった
のどちらかだ』
「……そうですわね」
『①であれば、放置していれば解決するだろうな』
「こんな問題、解決までスムーズに行ったとしてもかなりの時間と労力がかかりますわ!」
『だろうな。だから、この状況は②であることは間違いない』
「それがわかったからってなんになるんですの!! それに、そっちのほうがまずいじゃありませんか!」
この告発文騒動がゲームの中でも起こったことであれば、問題は解決するのだとランスくんが入学できているという事実からわかる。そこをたどれば自ずと解決方法も判明するはずだ。
けれど、そうじゃない。つまり、どうやって解決すればいいかわからないってことですの。
『落ち着いて考えろ。ということはだ、この騒動の原因はアリンが見た世界とこの世界の相違点にあるはずだ』
「そういてん……?」
『そうだ。お前は未来の知識を手に入れることでクレディット家の隠し部屋に入り、俺と出会った。それは未来の知識を手に入れていない世界ではありえなかったことだ』
「ですわね」
『俺を手に入れてからの行動の中に、きっかけがあるはずだ』
「きっかけ……」
私はカイチューを手に入れてからの日々を思い返す。夜のコイントス、街の変な人とのサイコロ勝負、パーティーの日の騒動……
「……誕生日パーティー?」
思い当たる節が一つある。というかそれ以外に見当たらない。
私とランスくんが出会うきっかけとなった、あの騒動。
『お前がキーノさんの誕生日パーティーの日に起こした出来事の中に今の状況を作る原因があって、この陰謀の中心にはその原因がいる』
私は息を飲む。恐れていた未知が、カイチューの手で次々と既知なものにすり替わっていく瞬間を目の当たりにしている。
カイチューはゆっくりと次の言葉を告げる。
おそらく、今一番私に伝えたかった事実。
『そして、そいつの本当の目的はランスロットやレイ家なんかじゃない』
『お前だ、アリン』
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