第28話 スニーキングミッション、成功ですわ!
「それでは本日はこれにて失礼させていただきます。今日は急な訪問でしたが快く受け入れていただき、感謝いたします」
キーノさんが門の前に立つサルサラとクロミにに別れの礼を告げる。
「これはご丁寧に……こちらこそ、あまり大層なおもてなしができず、申し訳ございません。アリン様は今少々大変な状況でございますので、また何かと気にかけていただければと存じます……ところでクロミさん」
「なんでしょうか」
「その当のアリン様は今どちらに? 流石に別れ際の挨拶には出ていただきたいのですが」
「それが……え~と、現在アリンお嬢様は体調が優れないようでして、自室で休んでおります」
クロミが指示通りのセリフを喋ってくれる。よしよしいい感じですわ。
「そうだったんですね……なら、あとであったかいぶどうジュースをお持ちしに行かなくては」
「そ、その必要はありません! 先ほど私が寝かしつけまで完璧にやっておきましたので!!」
「アリンちゃん、とっても疲れてそうだったから、今日は行かない方がいいんじゃないでしょうか~なんて、あはは……」
キーノさんは嘘を吐き慣れていないみたいですわね。顔がすごくへんてこになってますわ。
「……なるほど、わかりました。そうですね、私が無理にアリン様を縛り付けるようなことを言ってしまったばっかりに、負担になっていたのですね」
「あ、いえ! そのようなことはなく、今日はホントに体調が悪かったみたいで……!」
「病は気からという言葉があります。そういった状態になったのも、私が至らないばかりに……!」
うぐ……サルサラの悲嘆に暮れた声を聴くと、本当に悪いことをしているみたいですわ……!
『おい、出ていこうって考えるなよ』
「ぇ!?」
『十中八九あれは演技だ。アリンが何か意図をもって隠れているのだと想定して、お前の情に訴えているんだろうな』
「ぇぇ~~!!」
カイチューの言葉を聞き、私は鉄の意思でその場から動かなかった。
「ま、まあそうお気になさらず……。それでは私はこれで。ごきげんよう、サルサラさん、クロミさん」
「ご機嫌よう。またの来訪を心からお待ちしております、キーノ様」
「ご、ごきげんよう~」
キーノさんは別れの挨拶を済ませ、馬車へ戻る。
「アリンちゃん、おまたせ……!」
「しぃ~! まだ声が聞こえてしまいますわ!」
「あ……ごめん」
『お前の声の方がうるせえよ』
馬車の扉が閉まると、馬たちがゆっくりと動き出す。のぞき窓をこっそりと覗いて見てみると、遠くでクロミが心配そうな顔をしてこちらを見つめていた。
ちょ、ちょっとクロミ! そんなこっちを見ていたらサルサラに怪しまれますわ!
あ、サルサラと目が合った。
サルサラは優しい表情でほほ笑んだ。
「クロミさん、少しお話があります」
「ひいいい~~~!!」
サルサラの声とクロミの悲鳴が、遠ざかりながら聞こえてくる。
クロミ、あなたのことは忘れませんわ……決して……!
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