悪役令嬢に転生した私、平穏に生きるはずがギャンブルの神に憑りつかれてしまい、せっかくなので世界救ってみた
仁香荷カニ
プロローグ
第1話 わたくし、おもいだしましたの!!
「おもいだしましたわ~~!!」
私はその瞬間、前世の記憶を思い出し、この世界が恋愛趣味レーションゲーム『エーデルワイズのお姫様』の世界であることを知りましたの。
あまりの衝撃で、全身に覆いかぶさっている大量の本の山から顔を出して、思わず叫んでしまいましたの!
「だ、大丈夫ですかアリンお嬢様!?」
「クロミ!」
「は、はいぃ!」
「わたくし、おもいだしましたの!!」
「さ、左様でございますか……それよりも、お怪我の方はなさらなかったでしょうか」
「あ、そういえば」
衝撃的なことを思い出したせいで忘れかけておりましたが、私は今、召使いのクロミと一緒にお父様の書斎をこっそりあさっている最中でしたわ。先ほど一冊の本を取ろうとしたとき、明日7歳を迎える誉れ高き私の背より少し高い場所にありましたので、ジャンプして取ろうとしたら勢いつきすぎて上の本が一斉に落ちてきましたの! 最悪ですわ!!
本の山から抜け出し、体をぺたぺたと触って確認してみる。痛いとこは特にありませんわ!
「だいじょうぶよ! なんともないわクロミ!!」
「そうでしたか。それではこの散乱した本たちを元に戻しますのでアリンお嬢様は下がっていただけないでしょうか」
「それよりもクロミ! わたくし、とんでもないことをおもいだしましたの!!」
「は、はぁ」
私はフフン!と鼻を鳴らしてたったいま思い出したことをクロミに発表する。これは世界をひっくり返す事実ですわ!
「わたくし、じつはぜん……」
けれど、直前になって思いとどまり、両手で口をふさぐ。それは、思い出した記憶の重大際に気づいたからだ。
私の前世の記憶はこの世界とは違って魔法や神秘のない、日本という国の記憶。そこで過ごしていた私の一生を、本を頭にぶつけた衝撃で思い出した。
でも、そこまでは差し当たって重要ではない。重要なのは、私は『エーデルワイズのお姫様』が大好きだったということ!!
「……? なにを思い出したのですか?」
「いえ、わたくしのかんちがいでしたわ! お~ほっほっほ!……」
クロミは多少顔をしかめるも、私が散らかした本を戻す作業を始める。
クロミにこの衝撃的事実を伝えなかった理由は一つ。
この私、アリン・クレディットは『エーデルワイズのお姫様』で主人公をいじめるキャラクター、つまるところ悪役令嬢という立ち位置だったから、というのはあまり関係ない。
それよりも! もし、なにか主人公たちに関することをクロミに伝えて、そのせいでメインキャラの運命が変わってしまう方がやばいですの!
大好きだったのゲームを間近で体験できるこの機会、逃す手はありませんわ~!
「あれ~これがこっちで、たしかこの本が下で……」
クロミがせっせと本を戻しているのを眺めて、これからどうするか考える。
メインキャラの運命が変わるのは避けたいけれど、せっかく思い出したのですから本当にゲームの世界かどうか試してみたいですわ。とは言っても本編が始まるのは私が16歳になるころ、つまり今から9年先のお話。
今すぐに何かできるわけじゃありませんの。それにメインキャラたちに会いに行くわけにもいきませんし……。
さらに悪いことに、アリン・クレディットはゲーム本編で明かされる過去回想や設定も少ないのですわ。ですから、あんまりゲームの知識が使えそうなところがありませんわ。クロミという召使いも本編で出ておりませんでしたし。
何か、何かないかしら……メインキャラたちに関わらずにゲームの知識が使えそうなところは……
「むむむ~……」
「アリンお嬢様、ここに置かれていた本がどこに落ちたかお分かりになりますでしょうか。一冊見当たらなくて」
「あ! ありましたわ!!」
「ほんとですか! ど、どこでしょうか」
ありましたわ! 今すぐ確認出来て、本編に差しさわりのないことが、一つだけ!
「こっちですわ!」
「そこは……御主人様の机ですが、こちらに本が?」
「たしかここのひきだしのおくに……これですの?」
私は引き出しの奥にある出っ張りを強く推す。カチリ、と何かが合わさるような音がする。すると、隣の本棚が動き出し、下へと続く階段が現れる。
おお! ゲームの描写通りですわ! さすがに興奮してきましたわ~!!
「え、え? え!? ……これは何でしょう、アリンお嬢様」
「これは『かくしべや』、ですの!」
私は高らかにそう宣言する。
ゲーム本編ではクレディット家へ訪れることはできない。けれど、没マップとしてゲームの中に残っていた。そして、その書斎には少々のお金と特殊アイテムをゲットできる隠し部屋があるということを思い出したのですわ! ファンの間では結構有名な話ですの。
「さあいきますわよクロミ!」
「お、お待ちくださいお嬢様! 引っ張らないでください~!」
私はウキウキでクロミを連れて階段を下っていく。下へ行くほどに空気は冷たくなり、だんだんと暗くなっていく。
「クロミ、あかりをつけてくださいまし」
「は、はい。『プルライト』」
クロミがそう唱えると、クロミの右手に光が集まり辺りを照らす。これでよく見えますわ!
照らされて目に入るまわりの壁は家の内装とずいぶん違う。地下を掘ってそのまま壁にしたような感じ。降りていく階段も、使う者への心遣いが全く感じられない。なんというか、異質。
しばらくすると一つのドアに突き当たる。木製のドアで、鍵はかかっていない。
「あけますわ!」
「アリンお嬢様、危ないですのでここは私がお開け致します」
「あけましたわ!」
「……」
中は簡素な木製の部屋だ。怪しげな物が何個か置かれてある棚に、庶民が使うような机。というか、
「ごほっ!ごほっ!」
ここ埃っぽいですわ!
「このお屋敷に、こんな場所が……お嬢様、大丈夫ですか?」
「ごほっ! はぁーっくしょん! ばいじょうぶでずわ!」
「あらもうお鼻水がご立派に垂れて……こちらお使いください」
「ちーーーん!! ありがとうクロミ!」
さて、私がここに来た目的は隠しアイテムの有無の確認のため! 早速中を物色させてもらいますわ~。
棚を見てみる。変な形の螺子だったり、小さな針だったりとなんとも使えそうのないものばかり。それに、どれも風化していてまともに触りたくありませんの!
そうして探していて、ようやく棚の隅にあったそれを見つける。
「みつけましたわ~! 『ふるびたくし』!」
「それは、えーと……とても趣のある櫛ですが……お嬢様の金の御髪には使わないほうが」
クロミがコメントに困っている。それも無理はない。見た目は非常に汚らしい櫛なのだから。けど、真の価値はその効果ですの!
「このくしは、わたしたあいてのこうかんどを『はんぶん』にするんですの!!」
「は、はぁ……好感度、ですか?」
「そうですの!」
没アイテムの『古びた櫛』はプレゼントした攻略対象の好感度を半分にするアイテムだ。好感度調整用に用意したが、入手できるのが個人ルートに入った後であり、好感度調整などは特に必要ないので没になったものだ。
もちろん、今の私にも全く必要がない。使う予定もないし使う気もない。それに、メインキャラたちもここに来ないから運命が変わることはない。
けどこれでゲームの世界だと確信できましたわ! 最高ですわ~! ぶどうジュースで乾杯したいですわ!
「アリンお嬢様はそれをどうするおつもりでしょうか」
「ながめるんですの! はぁ~ゲームのグラどおりですわ……テンションあがってきましたわ~!」
「左様ですか……もう戻りましょう。って、何でしょうこの箱」
クロミが机の下の箱に気づく。全体的に古びている部屋の中だけど、その箱だけ比較的新しめだ。クロミも好奇心に負けたか、蓋をずらして中を覗く。
ここで入手できるのは『古びた櫛』とあと一つ。私が想像しますに、その箱の中は……
「ひ、ひい!」
「ああやっぱり、金貨でしたの」
中に入っていたのはきらめく金貨たちだ。それが、この隠し部屋で手に入るもう一つのアイテムだ。中を見るに相当ありますの。少し古びておりますが、まだ全然使えますわね。
「100万ジェニーありますの」
「ひ、100万!?」
100万ジェニーというと、一般庶民が孫の代まで遊んで暮らせる額だ。けれど、入手可能時期の主人公にとっては割とはした金になるのが悲しいとこですの……。
「クロミ、いります?」
「めめめめめ、滅相もない!」
「そうですの……じゃあここにおいておきましょう」
コクコクコクとクロミは首全体を使って肯定を示す。私も別にお金に困っておりませんしね。
「もう戻りましょうアリンお嬢様! 御主人様ももう少しでお帰りになりますし!」
「びびりすぎですのクロミ……まあでも、そうですわね」
残念ですけれど、これ以上はここにいても意味ありませんもの。あの階段を上がって、動いた扉を元に戻したら、あとは配役通りの運命を歩むだけですの。端役の私にとって、それが一番いい人生だから。
ああ~楽しみですわ。早く9年経たないかな~。
「クロミはさきもどってかたづけのつづきをしてちょうだい。わたくしはくしをおいたらすぐにかえりますわ」
「かしこまりました、アリンお嬢様。光はここに置いておきますので」
そう言ってクロミは光を二つに分け、一つを残して部屋を出る。私も、櫛を元の場所に戻す。
その時だ。何か光るものが頭の上で輝いていることに、私は気づく。
「……?」
その光は、クロミが残した魔術の光とは違う光り方をしている。小さく弱弱しいけれど、目を引き付けて仕方がない。
……少し高いところにありますわね。ちょっと見るだけなら大丈夫ですわ。
私は賢いので金貨の入った箱を動かして足場の代わりにする。
「んしょ、んしょ……」
精一杯背伸びをして、ようやく光る何かの端っこを掴む。手で触れた感触は、冷たく細い金属チェーン。それを指で引っ掛けてこちらに引っ張ってみる。
カシャン! と何かが落ちる音がする。私が光を近づけるとそれは正体を現す。
床に落ちたのは、古びた懐中時計でしたの。拾って見てみると、中の時計は動いておりませんでしたわ。
『痛ってえな……なんだよ、せっかく起きたってのにガキしか居ねえじゃねえか』
「……え、こえがきこえますわ! どこから!」
『ここだよガキンチョ』
ここだと言われた方向には、私が持っている懐中時計しかありませんでした。
『そうそう、そこだ。俺はそこにいる』
「あなたはカイチュウドケイさん?」
『違う。俺はギャンブルの神だ。今は魂だけがこの懐中時計の中にいるが』
「かみさま、ですの?」
ギャンブルの神、その魂なんてゲームの中で出た覚えがない。
『そう、カミサマ。で、だ。ガキンチョ、叶えたい願いはあるか』
「ねがい……」
『夢、欲望……なんでもいい、この俺が何でも叶えてやる。久々に目覚めて気分がいいからな』
その言葉はとても神秘的で、なぜか非常に胡散臭かった。だけど、私は握られた懐中時計から目が離せない。
『ただし、一つ条件がある』
懐中時計は、針をそろえるように改まって、私に問いかける。
それは、私の平凡な人生を真っ逆さまにひっくり返す、まさしく運命を変える言葉だった。
『魂を賭けて俺とギャンブルしろ。勝ったら、お前の望みを叶えてやろう』
「いやですわ!!」
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