第三十四話 作戦

間鳥組が送ってきたDVDで言われていた通り、組を賭けた川名組と間鳥組とのゲームは一週間後に行われることに決定した。


「はぁ、」


組長室の机に突っ伏しながらため息を漏らしているのは他でもない川名春吉であった。


岩田叡山は先程の出来事を組員達に伝えるべく、組長室をあとにしていた。


(夢だったりしないかなぁ、起きたら休息が待っているなんてことにならないかなぁ。)


現実から目をそらすための妄想をしている。


「はぁ、」


再びため息を漏らした。


(そんなわけないよなぁ、現実だよなぁ。ついさっき桐口組の事が終わったのに、またゲームか。まぁ、いずれ千葉の組にゲームを申し込む予定ではあったけど。こんなはやくにゲームをすることになるとはなぁ、しかも、やるとしたら青葉組か加納組のどちらかだと思っていたのに、間鳥組なんていう知らない組が相手だし、はぁ、まぁ、そんなこと考えたってしょうがないか。)


パンパン。


両手である程度力を込め、自身の頬を叩いた。


「よし。」


そう言い、覚悟を決めると、組長室をあとにした。




間鳥組からゲームを挑まれた日の一日後、川名組のギャンブラーである阿黒賢一を組長室に呼んだ。


「ということがありまして、6日後、千葉の間鳥組とゲームをすることになりました。」


組長室に設置してある机をはさみ、阿黒賢一と川名春吉は椅子に座っていた。


「間鳥組は千葉に新しく出来た組みたいで、極小の組みながら、千葉一の組であった加納組をゲームで倒して、千葉を手に入れたみたいです。」


なぜ川名春吉がこんなにも間鳥組の情報を所持しているのかというと、間鳥組からゲームを申し込まれた日から今日までの一日の間に情報屋から間鳥組に関する情報を買ったからであるる。


「間鳥組の組長は間鳥明と言って、ギャンブラーの名前は亜久津成義成義と言うそうです。」


「亜久津さんね。」


対戦相手の名苗字を言いながら口に少し笑みをうかべた。


「把握したよ。」





とある部屋に2人の男が存在していた。一人は立って誰かと電話をしており、もう1人はソファに座ってスマホを見ていた。


「あぁ、やったぞ。」


『・・・・・・・・・』


「わかった。」


『・・・・・・・・』


「わかってる。」


ピッ。


「亜久津。」


ソファーに座りながらスマホを見ている自身の組のギャンブラーのことを呼ぶ。


「上も計画通り動くそうだ。失敗は許されないからな。」


「わかっている。」


抑揚のない不気味な声で返事をした。そして、スマホに向けていた眼を間鳥明に向ける。


「失敗はしない。」





間鳥組とのゲームの日、岩田叡山の運転していた黒い車は有名ホテルである。星蘭ホテルの駐車場に停まっていた。


「本当にここであってるのかな?」


ホテルの目の前にいる川名春吉が呟いた。


無理もない。『ヴレ・ノワール』の指定したゲームの場所が、表の世界で有名な高級ホテルである。星蘭ホテルであったからだ。


「さぁ、川名さん。入ろうか。」


横に立っている阿黒賢一が川名春吉の腕を掴んで強引にホテルの中に足を踏み入れた。


「すごい。」


川名は星蘭ホテルに足を踏み入れるなり、ロビーの豪華絢爛さに圧倒はれた。


一方の阿黒賢一はそんなことにお構い無しに川名春吉の腕を掴んで受付の所まで進んでいく。


そして、『ヴレ・ノワール』の指示通りロビーの受付に『ヴレ・ノワール』の示したスマホ画面を見せると、受付の奥に通された。


長い廊下を進んでいくと、そこには1つのエレベーターがあり、そのエレベーターにはB3のボタンしかなかった。


川名春吉は迷いながらもそのボタンを押すと、エレベーターが音をたてて、下へ下へと降りていった。


数秒の時が経った時、エレベーターの動きが止まり、扉が開いた。


眼前に広がっていたのは前回のゲーム時と一緒の、赤いカーペットが敷かれている廊下とその先にある大きな扉、そして、その手前に設置してあるゲートと黒服の男たち。何から何までも前回、そして前々回と同じであった。


「川名様はこちらに進んでください。阿黒様はこのまま先へ進んでください。」


前回と同じく川名のことを黒服の男が別室へと案内をする。


「またね。川名さん。」


阿黒賢一が川名春吉に向かって手を上げる。


唐突の阿黒賢一の仕草に戸惑いながらも手をあげて返した。


その後、軽い足取りで扉へ向かい、前回と同じ検査を受け、ゲートをくぐり、扉が開くのを待つ。


「問題ないようでしたので、どうぞ。」


黒服の男の合図で大きな扉が音をたてて開いた。


阿黒賢一は先程と同じ軽い足取りで扉の向こうへと入っていった。


阿黒賢一の目に入ったのは、真横から見ると横幅の長い暑さのある台形の形をしている不思議な机とその両端に設置してある椅子。さらに特別なのは、椅子に座った時に丁度良い高さになるように台形の机の斜面に設置してあるタブレットである。


そして、台形の机の横に立っているゲームマスターであろう男がおり、その男の背後にはデカいモニターが設置してあった。


阿黒賢一がこの場に来てから数秒程で、対戦相手である亜久津成義が反対側の扉から出てきた。


亜久津成義は部屋に入るなり、周りを見渡し、1人で頷き、阿黒賢一の目の前に立った。


「よろしくね。亜久津さん。」


右手を亜久津の目の前に差し出す。


「よろしく。」


抑揚のない不気味な声と共に亜久津成義は右手で差し出された右手を握った。


「亜久津さんは不思議な喋り方をするんだね。」


ニコリと笑いながら亜久津を見つめる。


「よく言われる。そう言う君は他人のことをよく見てるようだ。」


阿黒賢一の眼を見据えながら話した。


「把握した。」


他の誰にも聞こえない小さな声で呟く。


「それでは、役者は揃いましたので、始めていきたいと思います思います。今回のゲームを取り締まることとなった河野と申します。」


河野と名乗ったゲームマスターがマイク越しに話し始める。


「まずは、今回のギャンブラーの紹介です。陣間組と桐口組を討ち取ったダークホース、その名も阿黒賢一。相対しますは、新参の組でありながら千葉一の加納組を討ち取ったこれまたダークホース、その名も亜久津成義。この2人にはそれぞれの組を賭けてゲームをして頂きます。そして、今回行うゲームはこれです。」


ゲームマスターの河野は前を向きながら背後に存在しているモニターを手で示す。


「その名も、ライフイズコイン。」

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