第十七話 アルバスローカス

阿黒賢一とはじめての『ヴレ・ノワール』のゲームが幕をあげる。


ゲーム当日の朝『ヴレ・ノワール』から目的地と時間のメールが届いた。


その時間に間に合うように川名春吉と阿黒賢一は若頭の岩田叡山の運転する黒い車で目的地まで向かう。


着いたのは山奥にあるボロボロの廃ビルであった。岩田叡山は車の中で待機し、川名春吉と阿黒賢一だけが廃ビルに足を踏み入れる。


廃ビルの中は外見からも想像ができるように、ボロボロであった。だが、1箇所だけ綺麗な場所があった。それは、エスカレーターだ。


二人はメールに書いてある命令通り、エスカレーターに乗り込むと、自動で扉が開き、そのまま下へと降りていった。


数秒くらいで、エスカレーターは止まり、チーン。という音ともに扉が開く。





「陣間くん、暇だ。」


阿黒賢一達と同じ黒い車で移動している陣間智久の横に座っている真名慎太郎が愚痴をこぼす。


「俺が持ってきた推理小説はどうしたんだよ。」


真名慎太郎の手にある陣間智久の用意した推理小説に目を向ける。


「こんな小説。少し読んだだけで、真相を推理できちゃったから暇なんだ。」


そんなことを言う真名慎太郎に溜息をつきながらもとある提案をする。


「それじゃあ、今回のゲーム内容でも推理すれば暇じゃ無くなるんじゃないか?」


「チッチッチッチッ。」


真名慎太郎は人差し指以外の指を織り込む形をつくり、その手をメトロノームのように左右にゆらす。


「陣間くんはわかってないなぁ、何の情報もなく当てるのは推理じゃないよ。」


「あぁ、そうかよ。本当にお前はめんどくさいな。」


再び陣間智久からため息がでる。





阿黒賢一と川名春吉が目にしたのは、長い通路に赤いカーペットが敷き詰められていて通路の端々にはいくつもの扉が着いている。そして、奥にはとても大きな扉がひとつあり、その目こ前に四角いゲートのようなものが設置してあるというものであった。


着くなり、『ヴレ・ノワール』の人らしき黒スーツ、黒サングラスの男が一人こちらに向かってきた。


「阿黒様はこのまままっすぐ進んでください。川名様は別室に案内しますので、着いてきてください。」


川名と阿黒賢一はここでお別れとなり、阿黒賢一は一人で奥にある大きな扉に向けて歩みを進め、川名春吉は黒スーツの男と一緒に左側にある扉に入っていった。


阿黒賢一が四角いゲートをくぐろうとすると、二人の黒スーツの男に止められた。


「ここを通る前に貴重と金属類を預けてください。」


阿黒賢一は言われた通りに金属類と貴重品をあずける。


「これだけですか?」


「そうさ。」


「失礼します。」


一人の黒スーツの男がそう言うと、阿黒賢一の身体を隅々まで触りはじめた。いわゆる身体検査である。


「問題無いようなので、ゲートをくぐってください。」


身体検査に合格したのち、ゲートを潜るように指示される。阿黒賢一は言われるがままにゲートをくぐると、ピコンという音が廊下に響き渡るのであった。


「その場で少しお待ちください。」


その後数分の間大きな扉の前で阿黒賢一が待機してると、黒スーツのスマホがピコンッ。という音をたてる。


黒スーツの男性がスマホを確認すと、扉の前にいる阿黒賢一にたいして声をかけてきた。


「問題ないようですので、どうぞお入りください。」


目の前にある大きな扉が鈍い音を立てながら自動でゆっくりと開いていく。


完全に扉が開くと、阿黒賢一は軽い足取りで扉の先に足を踏み出すと、そこには階段が存在していた。


阿黒賢一は黒スーツの男性らに見られながらその階段を一段また一段とのぼり、たどり着いた先はなんと屋外であった。


自然に囲まれたとても大きな敷地に白い大きな正方形状の家みたいなものが二つ離されて設置されており、そこにはB-9と黒文字でしるされていた。


白い正方形の家と家の間にカメラが一台設置してあり、その横に黒スーツを身にまとった男性が一人メガホンを持ってたっている。おそらく彼が今回のゲームマスターであろう。


阿黒賢一が地上にあがってきてから数秒が経った時、阿黒賢一が上がってきた階段の右側にある同じような階段から対戦相手であろう探偵のコスチューム姿の男性が姿をあらわした。そして、地上に出るやいなや阿黒賢一の方に向かって歩みを進めてくる。


「君が阿黒くんかな。よろしく。」


真名慎太郎は握手を求めるかのように手を阿黒賢一に突き出す。


「よろしくね真名さん。」


阿黒賢一は突き出された手を握る。


真名慎太郎は握手をしたまま阿黒賢一のことをジロジロと数十秒もの間見回す。


「なるほどなるほど、阿黒くんはとても強いんだね。しかも、人の心を読むのが得意そうだ。」


「そこまで評価してくれるとは、ありがたいな。」


「感謝とかはいらないよ。正当に阿黒くんのことを評価したまでだから。」


今度は阿黒賢一が真名慎太郎を見つめる。


「把握した。」


真名慎太郎にすら聞こえないほど小さな声で呟いた。


二人が軽い挨拶を終えると黒スーツの男性がメガホン越しに声をはなつ。


「それでは、役者が揃いましたので、はじめていきたいと思います。まずは今回のゲームマスターを務めさせていただきます。名前を十勝とかちと申します。そして、今回組を背負ってゲームをしてもらうギャンブラーの紹介です。今回初参加の男、その実力は如何に阿黒賢一。相対するのは、前回、赤坂晨人に勝利を収めた推理オタク、真名慎太郎。この二人にはそれぞれの組を賭けてゲームをしてもらいます。」


手に持っているメガホンから大きな声が響く。


「そして、今回おこなうゲームはこれです。」


ゲームマスターである十勝は真横に設置してある大きな白い正方形の家のようなものを指さす。


「その名も、アルバスローカスです。今回行うゲーム、アルバスローカスはレベル1相当のゲームですので、賭けたもの以外は何も失いませんので、ご安心してください。」


そんなことで喜ぶものはこの野外にはいなかった。


「しかしながらアルバスローカスは特殊なゲームでして、相手のことを読み合うゲームではございません。今回は個々の推理力が試されるゲームとなっております。」


その言葉を聞いた瞬間、真名慎太郎はガッツポーズをとった。


「それでは、これよりアルバスローカスのルール説明をさせていただきたいのですが、ルールはひとつしかございません。それは、アルバスローカスのパスワードを解き明かし脱出することです。ですが、自身の持てる全ての力を足さないとアルバスローカスからの脱出は難しいと思います。ただし、禁止事項は二つほどあります。それは、機械の破壊と扉の破壊です。」


ゲームマスターである十勝は移動し、白い家にある唯一外と繋がる扉を開ける。


「プレイヤーの御二方にはそれぞれ別のアルバスローカスに入ってもらい、制限時間は無制限。とにかく先に脱出できたほうが勝利です。ルール説明はこれにて終了となります。何か質問などはありますでしょうか。」


ゲームマスターである十勝は正面にたっている阿黒賢一と真名慎太郎を順々に目でおい、質問がないことを確認すると続きを話しはじめた。


「それでは、アルバスローカスにお入りください。あぁ、そうだ。その前に1つあなたがたにヒントを差し上げます。それは、つづくものです。」


十勝が発言したのと同時に各々の階段から黒スーツ姿の男がやってきた。


そして、黒スーツ姿の男が阿黒賢一を右の真名慎太郎を左のロックエリアに案内した。


真名慎太郎が去り際に阿黒賢一に言葉を投げかける。


「今回のゲームは推理、残念ながら阿黒くんの勝ち目は万に一つもない。」


「それはわからないさ。なんたって俺も推理が得意なんだ。」


「多分それは僕程じゃないと思う。」


そんな会話をしたのち、各々がそれぞれのアルバスローカスに入室した。


扉を閉める時にそれぞれの黒スーツ姿の男が阿黒賢一と真名慎太郎に声をかける。


「パスワードは三回まで、一回間違えてしまったら、10分間はパスワードを入力できません。そして、相手にヒントを与えることになりますので、くれぐれも慎重に。」


ガチャン


阿黒賢一がアルバスローカス内に立ち入った途端にアルバスローカスの中で唯一外と繋がっていた扉が音と共に閉まり鍵がかかる。


そして、扉の内側には0~9の数字と決定と書かれたボタン、残り三回と表示されている画面で構成されている機械が取り付けられていた。


おそらく先程黒スーツ姿の男が言っていたパスワードとはこのことであろう。


そしてこの機械が鍵の役割をしていて、この機械に正しいパスワードを入力すれば外に出られるという仕組みだろう。


アルバスローカスの床には白い正方形のタイルのようなものが3×3で敷いてあった。


天井も同じく白い正方形のタイルのようなものが3×3で敷き詰められており、数台のカメラが設置してある。


阿黒賢一の目の前と右側に白い扉があり、四つの門にはそれぞれロウソク型の電球が設置してあり、光を放っていた。


そして、真ん中の白いタイルの上にペンと小さいノートがおいてあった。

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