第十六話 陣間組

昔のことを思い出していた。俺には血縁関係上の親はいない。俺が11歳になる頃に事故によって亡くなってしまった。悲しくはなかった。父は俺を使ってストレスを発散させていた。毎日が地獄みたいなものだったから。


そんな俺を拾ってくれたのは陣間天じんまたかしという男であった。天は父親代わりとして俺を育ててくれた。俺にとって天は父親のような存在だった。


天は黒上組こくじょうぐみの組員をやっていた。周りには隠していたみたいだが、俺には話してくれた。その時に天が「こんな俺だけど、お前の父親になっても良いか。」って言ったきたことを今でも鮮明に覚えている。天は組の中でも上の立場に着いていたみたいだった。


天と俺はとある約束をしていた。それは、「でっかい男になってテッペンをとる。」だ。俺は天との約束を果たすために、あらゆることに力を注いでいった。それは、天も一緒で天は黒上組のてっぺんになるために日々あらゆることに力を注いでいた。


そんな天の背中は子供の俺にとってとても大きく、偉大に感じた。


そして、どんどんと月日は流れていって、俺の人生を変える出来事が起こる。その日はとある有名な大学の合否発表の日であった。俺は恐る恐るスマホで合否の結果を確認する。震える指で自身の受験番号があるところまでスライドしていく。そして、結果は合格であった。俺は嬉しさのあまりその場で踊りそうになった。そして、何よりも天に合格の報告ができることがこの上なく嬉しかった。


高校受験に合格した時も、天は泣きながら喜んでくれて、普段は行けないような鉄板焼き屋に連れていってくれた。あの時の天の喜びようを脳裏に思い出しながら、俺は天に大学の合格を発表するのを待ち焦がれていた。


そんな時であった家の電話が鳴り響く。俺は珍しいと思いながらも受話器を手に取った。


そして、受話器越しに言われた言葉に俺は驚愕をした。天が亡くなったというその報告に。


俺は急いで天のいる病院に向かった。病院に着いた俺を迎えたのは、冷たくなっている天であった。俺は泣いた。泣いて泣いて泣いて泣いた。今までの天との思い出が次から次へと溢れだしてくる。今日見るはずだった天の喜んでる姿さえも溢れ出す。


その日の俺は一睡もできなかった。いや、その日だけじゃないそこから数日俺はまともに寝ることができなかった。


だが、おめおめと悲しんでいるだけにもいかなかった。天と約束したことを果たすためにも、ここで止まる訳にはいかないから。


そして、俺は約束を果たすために大学に行って猛勉強をした。そんな日が一年とちょっとくらいすぎた時、その時、住んでいたアパートに一通の手紙が届いていた。その手紙の中身には天がなぜ死んだのかが書かれていた。


天は組員に裏切られて殺されたと書いてあった。上のもの達が自分の立場を守るために天を殺したと、そんなことが書いてあった。俺は怒りに震えた。


誰がこれを書いて、何のために俺にこの手紙を渡したのかはわからない。だが、そんなこと今の俺にはどうでもよかった。


この手紙に書いてあることの真偽。それが今の俺にとって何より大切なこと。もし、これが本当なら、俺はソイツらを許す訳にはいかない。


そこから俺はその手紙の真偽を確かめるべく、自身の能力をフルに活用して、調べあげたところ。その手紙に書かれていることは事実であったことがわかった。


俺は怒り狂いそうなくらいに腸が煮えくり返っていた。俺はそんなヤツらに復讐するために裏の世界で生きていくことを決めた。たが、相手は群馬で一番力を持っている組である黒上組だ。一般人の俺にはどうすることもできなかった。


だから俺は埼崎組という埼玉で一番力のある組にはいった。そこの人達は優しく、とても良い人達であった。俺はその組で自身の力をフルに使い、あらゆることに力を注いでいった。そして、とうとう念願の仇である黒上組をとることに成功した。


その時に天を殺したと思われる組員が命乞いをしてきたが、俺は躊躇わず引き金を引いた。


仇をとった俺は再び天との約束をまもるため、今度は裏の世界でテッペンをとることにした。何せ、人を殺したこの手では表の世界で生きていくことは許されないことだから。


そして、順調に埼崎組は大きくなっていた。順調に。だが、そんなに日々も長くは続かなかった。


『ヴレ・ノワール』という謎の組織が裏の世界を牛耳ったのだ。それにより、暴力は禁止となり、ゲームで全てが決まる。そんな世界になってしまった。だが、そんなことで俺は止まらない。力が使えなくなったのならば、知を使うまで、俺はあらゆるところに出向き、ゲームを行うことの出来るギャンブラーを探し回った。そのおかげか、赤坂晨人という凄腕のギャンブラーを見つけることができた。


だがここで、思いもよらないことが起きた。組長の埼崎実さいさきみのるが他の組と争うことを辞めると言いだした。なんでもギャンブラーが足りないからだそうだ。


俺はこれに猛反発した。ギャンブラーが足りないのは、川名組にギャンブラーを貸しているからであったからだ。なぜ自分の組よりもよその組を大事にするのか、俺には理解できなかった。


川名組を切り捨てるように組長ひ進言してみたが、却下された。


このままでは、せっかくここまで来たのに、それら全てが水の泡となってしまう。父との約束も守れなくなってしまうと考えた。俺は埼崎組を乗っ取るという荒業を使うことにした。


まず初めに赤坂晨人に勝てる実力のギャンブラーを見つけ出すために自身の能力やコネを全てを使ってかざしはじめた。それから1年くらいが経った時、やっとギャンブラーが見つかった。


彼の名前は真名慎太郎と言った。俺の思いが伝わったのか、彼を取り込むことに成功した。それから俺は、埼崎組を乗っ取る計画を実行して、埼崎組を乗っ取ることに成功した。


恩のあった埼崎実は命はとらずに埼崎組から追い出し、隠居生活をおくれるようにした。その後、埼崎組を自身の父と俺の苗字である陣間組と改めて、テッペンをとるために行動を開始した。





陣間組には大きなモニターと探偵映画がズラっと並べられている異質な部屋がある。


そんな部屋にディアストーカーを被っていて、探偵のコスプレをしている男性が一人座っていた。


「あぁ、この人が犯人か。」


モニターにうつっている探偵映画の犯人を推理するこの男こそ、陣間組ギャンブラーの真名慎太郎である。


「やっぱり当たってた。今回の推理も簡単だったな。」


映画を見終わると、その異質な部屋を出ていった。


慎太郎は廊下ですれ違った上木という組員に声をかける。


「あれ、車新しくしたんだ。」


それを聞いた上木は驚きの表情をあらわにした。


「どうしてわかったんですか!?、まだ誰にも言ってないのに。」


「簡単なことだよ。上木くんはいつもスーツのポケットに車の鍵をしまってる。その膨らみ方が違うことから、鍵を変えた又は別の何かを入れてる可能性が出てくる。」


「……。」


図星の上木は、慎太郎に返す言葉もなかった。


「だが、これだけじゃ新車の決め手にはならない。」


チッチッチッチッチッチッ


指を顔の前でメトロノームみたいに左右に動かす。


「決め手は匂いだ。」


「匂いですか?」


「そう。匂い。上木くんからはトルエンなどの揮発性有機化合物の匂いがする。」


手を仰いで上木の匂いを嗅ぐ。


「そして、揮発性有機化合物は車の接着剤やゴムなどに使われているものだ。」


慎太郎に匂いのことをいわれた上木は自身が臭っているのかと思い、自身の匂いを嗅いだ。確かに良く嗅げば新車の匂いがしなくもないが、だが、くらいの匂いしか発していなかった。


「この二つをリンクさせると、上木くんが新車を買ったという結論を導き出せる。」


「凄いですね。」


上木は改めて感じた陣間組のギャンブラー、真名慎太郎の恐ろしさを。


「それほどでもないさ。」


そして、再び真名慎太郎は廊下を歩き出し、目的地の組長室に向かう。

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