第八話 来客

その日の夜、川名組は混乱と歓声に包まれた。


「お前も組長がギャンブラー連れてきたギャンブラーを見に行くのか?」


十数分前にこの組、川名組の組長である川名春吉が陣間組と戦うギャンブラーを連れてきたのだ。


川名組の組員である井上いがみが同じく組員である酒井さかいは廊下を移動しながらそのギャンブラーについて会話をする。


「はい。そうです。どんなやつなのか気になってしまって。それにしてもどれくらい強いんですかね。」


「ホントそれだような。陣間組に勝てるほど強ければ嬉しいんだけどな。」


「いや、勝って貰わなければ困りますよ。」


酒井は少しの笑みを顔にうつしながら言った。


「そうだよな、だがよぉ、陣間組のギャンブラーはあの赤坂さんを倒しちまったんだぞ。」


「赤坂ってヤツはそんなに強いんですか。」


「そういえば、お前はあったこと無かったか。」


「そうなんですよ。」


何をかくそうこの酒井は赤坂と一度もあったことがなく、赤坂の強さに懐疑的であった。


「組のみんなが強い強いとか言ってましたけど、たかがしれているんじゃないんですか。」


真横でそれを聞いた井上は少し引いたような目つきで酒井を見つめる。


「お前、赤坂さんと会わなくて良かったな。」


「なんでですか。」


「いやなぁ、赤坂さん格下が自分のことを舐めてるの凄い嫌うからな。」


「いや、まぁ、格下ですけど。」


「お前、赤坂さんを舐めた奴がどうなったか知らねぇだろ。」


「ど、どうなったんですか。」


やけに真面目に話してくる井上に少し言葉をつまらせながらも酒井は事の顛末を聞く。


「も、もしかして死んだとかですか。」


井上の回答を聞く前に酒井は考えうる限りの最悪の結末を導き出す。


「いや、死んじゃいないさ。」


「そうなんですか。」


最悪の結末ではなかったことに酒井は少し胸をおろす。だが、続く井上の言葉で酒井にある種の緊張をはしらせることになった。


「まぁ、ある意味死よりも恐ろしいかもな。」


「どうなったんですか。」


「絶対服従だよ。」


「絶対服従?」


「そう、絶対服従だ。金も家も全て奪われ、赤坂さんの言うことを全て聞くしかない犬にされたんだよ。」


その話をする井上はどこか悲しそうに見えた。


「そんなことが……、冗談とかじゃないですよね。」


「俺がそんなキャラか?」


「いえ、違います。」


長い間井上といた酒井だからわかった。井上が嘘をついていないことが。


そんな会話をしていると2人は目的地である例のギャンブラーがいる広間に到着した。


その広間には既に多くの組員が集まっており、中央の机を囲むかのように立っていた。


2人は組員を手でかき分けながら中央に向かう。


そこで井上は信じられない光景を目の当たりにする。


「どうして、赤坂さんがここに。」

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