まだ早いけど

「優斗、なんで黙ってるの? 断るんだよね?」


 真奈が表情を消して、そう聞いてきた。

 

「……断らないよ」


 正直、可愛い女の子に無表情で圧をかけられながらそんなことを言われたら、怖くて頷きそうだったけど、俺はそう言った。

 いつも表情が豊かな美少女の無表情ってなんでこんなに怖いんだろうな。


「は? なんで?」


「……と、友達だから、かな」


 本当は真奈と同じで好きな女の子だからなんだけど、まだそんなことを正直には言えないし、明らかに怒っている様子の真奈に俺はそう言った。


「ただの友達なら、別に通話なんてしなくてもいいでしょ。私がいるんだから」


「そ、それはそうかもだけど、友達っていうのも大事でしょ?」


「私は優斗さえいてくれればそれでいい。友達なんて要らない」


 ……やばい。

 俺、真奈を説得できる気がしないんだけど。

 

「……真奈はそうかもだけど、俺は友達も居て欲しいからさ」


 そう思いながらも、なんとか真奈を説得しようと俺がそう言った瞬間、また、俺のスマホが震えた。

 なんか、めちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど、気のせいかな。


「ま、真奈、そろそろ、スマホを返してくれるか?」


 俺のそんな言葉は無慈悲にも無視されて、真奈は俺のスマホを確認していた。

 ……頼む。頼むから、母さんからのメッセージであってくれ。


「ねぇ」


「は、はい、な、なんでしょうか」


 思わず敬語になってしまいながらも、俺はそう聞いた。

 

「これ、何?」


 すると、そう言って真奈はスマホの画面を俺に見せてきた。


【デートの話も、出来たらそこでしたいな】


 そこには、そんな結衣からのメッセージが着ていた。

 ……流石に、これは言い訳のしようがないと思うんだが。


「ねぇ、優斗、どういうことなの? ただの友達とデートなんて、普通、しないよね? これ、どういうこと?」


「……一応言っておくけど、真奈のことが好きってことは事実だからね?」


「そんなの、知ってる。それより、これがどういうことかを教えて」


「……その、書いてある通りです」


 もう誤魔化せないと思った俺は、そう言った。

 まだ言うつもりでは無かったけど、どうせいつかは言うつもりだったんだし、と自分に言い聞かせながら。


「つまり、デートをしようとしてたってこと? 私意外と? 私じゃない子と?」


「……はい。……で、でも、あれだぞ? 真奈のことが好きなのは事実だからな?」


 一応、勘違いされないために、俺はそう言った。


「なら、なんで私以外の奴とデートなんてしようとしてるの」


「……結衣のことも、真奈と同じくらい好きだから、です」


「は?」


 まだ早い。

 そう、分かっているのに、俺はそう言った。

 すると、案の定と言うべきか、ただでさえ消えていた真奈の表情が更に消えた気がした。

 そしてそのまま、俺は真奈に押し倒された。

 ご丁寧に痛くないように器用に。

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