サボり

 そうして、かなり可愛らしい見た目の不良少女に腕を引っ張られていると、俺は屋上に連れて行かれていた。

 ……屋上、開いてるんだな。……普通、閉じてるものなんだけど、これもこの世界ならではのことか。


「ここで何をするの?」


 頭の中で屋上が開いていることにはそう納得して、俺は小さく首を傾げながら、そう聞いた。


「ふぇぁ!? あ、あれだよ、あれをするんだよ!」


 すると、分かりやすく動揺して、不良少女? は顔を赤くしながらそう言ってきた。

 ……俺、ギャップって奴に弱いのかな。結衣の時もこんな感じのギャップにやられて思ったけど、めちゃくちゃ可愛いんだけど。


「あれって、何?」


「だ、だから、お、お前を、お、襲うんだよ!」


 言ってやったぜ! といったような雰囲気を醸し出しながら、不良少女? はそう言ってきた。

 

「そうなの? それなら、名前も知らない人に襲われるのは嫌だから、名前、聞いていい?」


「えっ、は、はぁ!? お、お前、わ、私に襲われても大丈夫、なの? ……じゃなくて、なのか?」


 どういう意味で襲うって言ってるのかは分からないけど、大丈夫ではあるな。……無自覚な振りをしている以上、後で襲うの意味を分からなかったって惚ける必要はあるけど。

 流石に殴りかかるって意味の襲うって言葉ではないだろうし、普通にタイプだし。

 ……うん。俺、どれだけタイプの人がいるんだよ。

 真奈に結衣にこの不良少女。……みんな別格の美少女なんだし、仕方ないよな。

 そういうことにしておこう。


「別に大丈夫だよ? それより、名前、教えてくれないの?」


「……野村由菜のむらゆな


「じゃあ、由菜ちゃんね」


「ちゃんっ!?」


「嫌だった?」


「い、いや……別に、好きに呼んだらいいだろ」


 照れたように顔を赤くして、俺から目を逸らしながら、不良少女……由菜はそう言ってきた。

 こんな可愛い不良が居てたまるかってくらい可愛いな。


「………」


「? 襲うんじゃないの?」


「ふえっ!? お、襲うに決まってるだろ!」


 そう言って、由菜は俺に近づいてきて、ゆっくりと、恐る恐るといった感じに抱きついてきた。


「ほ、ほんとにするからな?」


「うん。いいよ?」


 俺が頷いたのを確認した由菜は、そのまま唇を俺に近づけてきた。

 それと同時に、大きな音を立てて屋上の扉が開いたかと思うと、名前も知らない先生が怒ったような様子で入ってきた。


「お前たち、何をやっている!」


 まぁ、あれだけ由菜が大きな声を出してたら、気がつくよな、普通。


「あっ、いや……」


 さっきまで赤かった由菜の顔は、青くなっていた。


「すみません、二人で一緒に授業をサボっていました」


「優斗くん!? だ、大丈夫、なのか? 本当に、二人で同意の上でサボっていたのか? 何も、されてないのか?」


 俺の言葉を聞いた先生は、俺……と言うか、片方が男だと気がついていなかったのか、怒っていた様子とはうってかわり、心配そうにそう聞いてきた。


「はい、大丈夫ですし、俺の意思でサボりました。すみませんでした」


「そ、そうか……ま、まぁ、次からは気をつければいい。教室に戻りなさい」


「はい」


 先生とそんなやり取りをして、俺は由菜を連れて屋上を後にした。


「よ、良かったのかよ。お前は私が無理やり屋上に連れて行ったんだろ」


「俺も抵抗しなかったし、全然いいよ。それより、今スマホ持ってる?」


「が、学校なんだから、そんなもの持ってるわけないだろ」


 ……えー。一応、不良少女なんだよな? それくらい、持っててよ。俺だって持ってるんだからさ。

 

「なら、はいこれ、俺の連絡先。帰ったら登録しておいて」


 用意しておいて良かった、と思いながら、俺は連絡先を由菜に渡した。

 

「い、いいの?」


「うん、いいよ。それと、一個聞いていい?」


「な、何だよ」


「襲うって、どういう意味だったの?」


「えっ……は、はぁ!? い、意味、分かってなかったのか!?」


「だから聞いてるんだけど」


 意味なんて余裕で分かってるけど、俺はそう聞いた。


「そ、それは……あ、あれだよ! その……じ、自分で調べろ! 私はもう教室に戻るから! そ、それとちゃんと帰ったら連絡先は登録しとくから!」


「あ、うん。またね」


 そう言って、由菜は俺を置いて先に行ってしまった。

 俺も戻るか。

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