嘔吐するために

前島矩歩

第1話

 超サルトル的嘔吐するために、なすべきことは一つ。ありのままを見て私という意識の不在を再確認することだ。「我思う」から始まるドグマを 自らの手でしめ殺すことで、自分自身ですら統計的対象あるいは熱的なエントロピーの一表現形態に成り下がることができる。数十年前の人類科学的末路を想起する私は、私自身の「ランダム性」を傍目に同様のスタティックな信念を抱きながら、スケール的ランダムさと自己矛盾という現実に嘔吐している。サルトルには及ばなかった境地、多摩川沿いで吐き気に揺られながら主観的に死んでいる。

 主客の一致を望みたい。お前はもう死んでいるのだと、誰かの名のもとで宣告して欲しい。確信できていないが少なくとも他我を感じながら死にたい。この文の主体は誰か。だから私はダメなのだと思う。書いたものから死臭がする。矛盾を受け入れなければ。しかし、私のそれは飲み込み方を知らない。しかるに私は嘔吐する。

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嘔吐するために 前島矩歩 @kikokuho

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