俺の愛娘(悪役令嬢)を陥れる者共に制裁を!

かぐら

プロローグ

「君には失望したよ、ルイーゼ嬢」


 華やかな夜会はしんと静まり返り、その発言をした男性へと視線が一斉に向けられる。


 そこはホール中央。身分に見合った綺羅びやかな正装を身に纏い、王族の証である徽章きしょうが襟元で輝いている。

 金髪碧眼の青年はこの国の王太子。彼の傍らには本来いるべきはずの人物はおらず、見知らぬ令嬢が寄り添うように立っている。

 スカイブルーの髪に翡翠の瞳を持つ令嬢のドレスは美しいロイヤルブルーに金糸の刺繍が施されており、令嬢自身の瞳の色であるエメラルドのネックレスが胸元に輝いていた。


 そして、このふたりと対峙するかのように、向かいに立つ女性。

 マロンブラウンの髪にオレンジの瞳を持つ彼女もまた、ロイヤルブルーのドレスに金糸の刺繍が施されており、令嬢自身の瞳の色に近いカーネリアンのネックレスが胸元に輝いていた。

 ―― 本来であれば、彼女が王太子の傍にいるべき令嬢である。


 糾弾されている令嬢 ―― ルイーゼは嫋やかなその手で扇子を開き、口元を隠した。


「失望、とは」

「私が知らないとでも思ったか。私の婚約者であった君には常に王家の影がついていた。そこで、君が何をしたか報告は受けている」


 顔を顰めたあと、王太子はギッとルイーゼを睨みつけ、隣に立つ令嬢の腰を抱く。

 反対の手を開いて伸ばしてルイーゼを示し、彼は叫んだ。


「聖女でありベッカー伯爵令嬢であるモニカ嬢の暗殺依頼を出し、実際にモニカ嬢が襲撃された!依頼主はルイーゼ嬢、君であることは既に分かっている!犯罪者となった君と婚約を続けることは不可能であることから、君との婚約は破棄し、君は犯罪者として裁かれるため収監されることとなった。衛兵、捕らえよ!!」


 ざざ、と集団の中から衛兵たちが飛び出し、ルイーゼの周囲を取り囲んだ。

 しかしルイーゼは動じない。相変わらず、扇子で口元を隠したままじっと王太子を見つめている。

 その表情に怯えを見せた王太子の傍にいた令嬢 ―― モニカは、そっと王太子の影に隠れるように下がる。すると、王太子は彼女を守るように半身を前にした。


「ハインリヒ様…」

「大丈夫だモニカ嬢。私が君を守る…どうか、私に生涯君を守らせてくれ」




「兄上」

「おう、始めよう」




 パン、と手を叩いて甲高い音を響かせた。


 続けて、パン、パン、と手を叩いた。ふたり分の拍手の音が、しんとした空間に響く。

 ルイーゼ ―― ルルはその音を聞いて瞳を閉じ、扇子を閉じる。見えた口元には笑みが浮かんでいた。


「誰だ!」

「いやあ、面白い話ですね王太子殿下」


 足を進めると自然と人垣が割れた。

 視界がクリアになる。衛兵に囲まれたルルがにこりと微笑んだので、俺も微笑み返した。


 王太子は怪訝な表情で俺たちを見つめていた。


「…何のようだ、レーマン公爵、ゾンタ―伯爵」

「私の可愛い姪の名誉が堂々と穢されたのです。何か?」


 弟のマルクスが口元だけで笑みを浮かべて、スタスタとルルのもとに向かう。俺もその後に続く。

 堂々と歩けば自然と衛兵たちも避けてくれたので、難なくルルの元に辿り着けた。


 …化粧で誤魔化しているものの、疲れが見える。

 瞳に映る俺は黒髪にオレンジの瞳を持っている。ルルのマロンブラウンは、愛しのカティと同じだ。

 ルルの頬を撫でれば、ルルはホッと小さく安堵の息を吐く。

 ああ、早く解決して家でゆっくりしような。俺も長居はしたくないし。


「名誉を穢しただと?事実を述べたまでだ!!」


 王太子の方を振り向けば、情けなく後ろに庇われて立つモニカがいる。

 おいおいモニカさんよ。今この場では「なんで」って表情は出しちゃいかんぜ。

 ずり落ちてきたメガネを上げながら、にっこりと笑った。


「事実無根だからですよ」



 さあ、クソ王太子、クソ聖女。

 ざまぁの時間だぜ。


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