コウヘイ
@MY421
コウヘイ
私には同い年の「コウヘイ」と言う友人がいる。高校1年生のときに知り合った。
コウヘイは随分変わった奴だ。
彼は意味もなく戯けるのだ。しかもそれがただの戯けではない。
理解できないことを噛みまくって早口で喋るのだ。口角に泡を立たせて。
それで何を言っていたかなんて私は一切覚えていない。
ただ彼の思うがままにやらせて適当に流す。
だが彼はえらく楽しそうに話すのだ。その時は日本語を不自由そうに扱っていた。きっとその言葉では自分の感情を伝えきれないのだろう。
残念ながらその気質は彼の周りから人を遠ざける要因になった。高校で知り合った彼だがそれ以降、多くの人から避けられている。
私は惜しく思う。彼は魅力ある男なのに。
もちろん彼は良いところを持ち合わせている。良いところが無ければ友人として付き合うつもりはない。
例えば私が学校を休めば、彼はわざわざスライドを用意して授業までしてくれた。
ことあるごとに面白い動画を送ってきたし、弁当を私と共に食べようと近づいてきた。
ゆえにこんな良い子であるコウヘイが嫌われているのは間違いなくその変なキャラクターのせいだろう。
私は元々彼がいじめられていたことを彼から聴いた。そのときに彼は「変人になる」ことで乗り越えたようだ。
きっと嫌な奴が周りにいるときおかしくならないと負けてしまうぐらい過酷だったのだろう。
本当に哀れだ。
私だけでも友達でいてあげようと強く思う。
そんな変人の彼には夢があるらしい。「発明で人の役に立ちたい」これが夢だそうだ。
私は感心した。なんと立派な物の考え方だろうと。私も応援してやろうと思った。
こんな感じの彼だからこそ成功するかもしれないとなんとなく思った。
夢について聴くと彼は目を輝かせながらまたもや泡を立てながら一方的に喋る。一方、私は目を見開きながら誇張した頷きと薄い質問を投げかけ続けた。その都度彼は細かに熱弁してくるのだ。
それほどの夢に向かって這っている彼は変人ゆえ、色恋には興味を示さないかと思われたがそんなことはない。
彼は陸上部に入っているのだが入部理由がモテたいからそうだ。まずは振る舞いから変えろよと腹の中で思わず笑ってしまった。
それから彼は何事にも熱く取り組む。授業の一環でグループで会社を作ると言うときに彼はとても張り切っていて、自分のアイデアをこれでもかと主張して他のグループメンバーは引いていたことがある。私は達観して見ていたがあれはちょっと酷かった。
酷かった繋がりで言うと、彼はノリと称してよく叩いてくる。本気じゃないのは分かるのだがあまりに空気が読めない。そのせいでせっかく彼と仲良くしようとした人は彼を嫌ってしまった。
でも、それは長い目で見れば悪いことじゃない。
彼は確かに空気が読めないし、変人を演じているし、頑固なところがある。しかしそれを受け止めるのが友人ではないか? 彼は友人への苦労を厭わない上に夢が大きくて応援してやりたくなる。少し幼なげな言い回しなのも愛くるしいし、見守ってやりたい気持ちになる。彼の何が不満だろう?
彼はきっと良い人間に進化する。そう確信できるほどにだ。
彼は金の卵そのものだ!
そして私が高校3年生になったとき、「金の卵は孵化した」。
コウヘイは目まぐるしい進化を遂げたのだ。
彼はまずクラス代表になった。それは彼の物事に熱く取り組む姿勢が進化したのだ。彼の動く様はキビキビとしていて他のクラス代表とは一線を画している。それだけでなく委員会でも美化委員長になった。彼はもう避けられる存在ではなく選ばれる存在なのだ。
次に彼は陸上部での友達がたくさんできた。友達とは部活終わりに色々遊ぶらしく、友達からは彼がめちゃくちゃふざけたことをする新たな一面も聞いた。最近はその友達たちと一緒に弁当を食べるようになった。
他には夢である人の役に立つ発明に向けて手作りで機械を作ったり、理系で物理を学んでいたりと彼は本当に素晴らしい人間になっていた。
本当に私は彼が誇らしい。
学校のチャイムが鳴る。物思いに耽る時間もここまでだ。
私が受けている世界史の授業も先生が変わってからと言うものなんだか面白くない。
前が良かった。
なんだかやる気が起きず。結局ノートも開かなかった。
私は左右の席にいる喧嘩別れした悪友と元いた部活メンバーに気を遣いながら自分の教室へと戻る。
昼食を楽しみに教室へと戻るとまだ人は少なかったが一部の生徒が参考書に齧り付いていて私はまた焦りを感じる。
だがその焦りは刹那のもので1分もすればすぐに忘れるのだ。
私の昼休みはなんとなくスマホを触りながら時間を潰す。そこに有意義のものを求めたことがなかった。
だが触っているうちに流石に世界史のノートを一切とらなかったのを後悔した私は周りを見回す。
話しかけられそうな人はこのクラスにはなかなかいないが唯一、マウントをとってくる臭いやつがいた為そいつに頼むことにした。
「全然写してなかったからノートの写真撮らさしてや!」
私が愛想良く振る舞うと臭い奴はにんまりとした笑みでノートを差し出してきた。
「ええけど、なんでノート取らんねん」
はぁ……
「ちょっと今日寝不足やねん」
「そうか、俺も最大5徹したことあるけどしんどいよな」
くだらないマウントはいらないから黙っておいてくれ。顔ぶつぶつで服洗ってない臭い醸しだすお前ごときが……
お前ごときが抜かすな!
「あはは、そうだよね。撮らさしてくれてありがとう」
そう言うと私は早々とそこから去った。本当に奴の内側外側が臭すぎてたまったもんじゃない。
そうこうやってる間にいつもの時間になってコウヘイは弁当を持ってやって来た。未だに彼を嫌っている人はいるが陸上部の友達のおかげで彼は気にしていないようだ。
私は黙々と食べ進めながら彼を見る。彼らは笑顔だった。それはもう嫌でも視界に入る。
私はいつしか遠くから見守るではなく、遠くから羨んでいるようになっていた。
私は突き動かされたように小説投稿サイトを見る。そこには今まで投稿すらしていない未完の作品たちが、「私の夢」が今にも息を引き取ろうとしている。
「変人になる」と言う行為は本当の意味でコウヘイを強くしたのだろう。
あまりに「普通」が威光を放ちすぎて気づかなかった。
「本当に哀れだったのは……?」
コウヘイ @MY421
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