第204話 別れと覚醒と


もう、ヒッキーちゃんとボッチ君の2人の決意は固いと知り、俺も腹をくくろうと様々なものを手放す覚悟を決めた。


「ふぅ~」


と深呼吸をして、自分を落ち着け国王陛下に、


「国王陛下、お願いがございます。」


と俺が切り出すと国王陛下は驚きながらも、


「私が出来る事であれば…」


と、言ってくれたので俺は、


「陛下、大変申し訳ありませんが伯爵を返上いたします」


というと国王陛下は勿論、周りの貴族達も驚き辺境伯様は突然の事に言葉を失っている。


国王陛下はハッとして俺に、


「伯爵を辞めていかがする?」


と聞くので、俺が、


「いや、伯爵を辞めるというか、人間をやめる事になりそうなので伯爵と兼任は無理かなぁ?…と…

まぁ、俺の大事な家族に手を出したヤツにケジメのつけかたを教えるだけにしては、魂の一部を失うという悔しい痛手を負いますが、この世界にとってプラスになるはずです…」


と言うと、国王陛下は真剣な眼差しで、


「人では無くなるのか?」


と、聞くので俺は明るく、


「はい、神様からのお願いで、魔物犇めく迷宮の管理人といえば良いかな?

その迷宮は、世界の悪意から魔物を生み出し、その魔物を倒して悪意を浄化した者に、新たな力や宝物を授ける場所なんですが、国王陛下…俺の退職祝いと、人間卒業祝いにラースト侯爵領をちょうだい!」


とおねだりしてみた。


国王陛下は、


「逆賊の土地はどうせ没収するし、どのみち貴殿にはどこかの領地を任せようと思ってたから好きにせよ、

ただし、人を辞めて神の眷属となろうと、私はキース殿の友で居たいのだ…私に出来る事は何でも言って欲しい…」


と言ってくれた。


俺が、国王陛下や貴族達に、


「では、ジャルダン村の事をヨロシクお願いします」


と、俺が頭を下げるとダイムラーパパが、


「シーナは?シーナはどうなる!?

キース君はシーナを置いて神の世界に行くのか?」


と慌てているので、


「すみませんダイムラー伯爵様お父様

本当はもっと先の話の予定だったので、詳しく説明していませんでしたが、シーナさんも既に神々より管理人の助手として私を支えてくれるように使命を与えられております…」


と俺が説明すると、ダイムラー伯爵様も、


「ならば、父も文句は言わぬ!

男ならば、家族に手を出したヤツには地獄を見せてやれ!

キース息子よ…」


と俺の肩に手を置いて頷く。


ユーノス辺境伯様が、少し寂しそうに、


「キース君、貴族を辞めたら私との絆が無くなってしまうではないか…」


と呟くので、俺は、


「辺境伯様には俺の家族は続けて欲しいです…

でも、アリア様に親友の孫を見せられるか解らなくなっちゃいましたね…上手い事言っておいて下さいね」


とお願いすると、ユーノス辺境伯様は、


「おい、私だけ難しいお願いではないか…泣きわめく妻をどうやってなだめれば…」


と、寂しそうに笑っている。


そして、挨拶を終わらせた時に、


『マスター、準備出来たよ。』


と、いつも通りのヒッキーちゃんの声が、頭の中に響き、俺は遂にその時が来た事を知る…


俺は、皆の前なんて関係なく、


「ヒッキーちゃん、ボッチ君…ありがとう、さよな…いや、またね!絶対だよ」


と、最期は元気な声で別れようと、今にも泣き出しそうなのを我慢しながら感謝を伝えると、


『マスター、私もボッチ君も、またマスターに会えるのを楽しみにしてるね…大好き!!』


と聞こえたとたんに、俺の体が光を放ちテントの中を真昼の様に照らす。


そして、光が落ち着いた時に頭の中に、


『覚醒完了、ナビゲーターのコアへの変換を開始しました。

完了まであと15日です。

ナビゲーターの変換をキャンセルして、新規のコアでのダンジョン生成は一時間後から可能です。』


と、抑揚の無い機械音声が流れ、ヒッキーちゃん達が居なくなった事を教えてくれていた。


唇を噛みしめる俺に、国王陛下が、


「キースよ、先ほど妖精の姉弟が命を掛けたと申しておったが…」


と聞くので、俺は、


「はい…私の魂の一部とも言える妖精の姉弟は、私の覚醒と共に本来であれば15日の時間をかけて新たな迷宮の妖精に生まれ変われるのですが、その前に迷宮を作ると…」


と、自分で説明しながら、再確認してしまい言葉を詰まらせる俺にダイムラーパパは、


「では、15日睨み合いに使えば…」


と、提案してくれたが、


ラーストの街には既に食糧や弓矢などの物資が運び込まれており、こちらの食糧は予備を兼ねた分程しか無い…


辺境伯様が、


「町を攻め落とすには兵も物資も足りない…しかし、王都に引き返して籠城したところで王都を戦場に変えるだけだ…他国からの増援も今からでは、到着まで持ち堪えるのも難しい…

二万の兵が謀反を起こしただけならばまだ良いのだが、そのすぐ後ろには二万を越えるザムドール軍が…四万を越える軍勢か…」


と苦々しい顔をしている…

本陣のテントの中で重苦しい空気が流れていたが、


「皆の者、聖人様や妖精の姉弟がその魂をかけて戦うと申してくれているが、よく考えて欲しい!

これは我々の国の愚か者が起こした謀反である!!

王国の恥は王国国民でカタを着けるが道理、」


と国王陛下が声を上げた。


すると、辺境伯派閥のが主体となる貴族たちが、


「我々の王国をコケにした逆賊の思い通りになるのは癪だ!」


とか、


「陛下、ラーストの街には軍務卿に反旗を翻す機会を伺っている者も居るはずです」


と言っている。


すると国王陛下は、


「ベルタよ、各国にこの事を知らせよ!

私がもしも倒されたとしても、息子を庇護して、シルフィード王国を絶やさぬ様にと…

他の者は兵に知らせろ、故郷に家族を残している者はこのまま帰っても罪には問わぬと、」


というが、本陣にいる貴族も騎士達も、


「シルフィード王国の為に戦う覚悟は出来ております」



「聖人様が国王軍に居らる事こそ我々に正義が在ることの証拠!」



「国の一大事にしっぽを巻いて逃げかえったら、年老いた母に家から叩き出されるか、妻に愛想をつかされます!

シルフィード魂を見せてやりますよ!!」


などと口々に言っている。


その声を聞き国王陛下は俺に、


「キース殿…一旦私にこの戦場を預けてくれないか…

逆賊を倒せるかは解らぬが、時間を稼ぎ、アグアスや、イグノからの援軍が来てくれれば勝ちを拾えるかもしれん…

我々が城へ逃げ帰れば、軍務卿に渋々加担した正規軍の一部も諦めて軍務卿の軍門にくだりシルフィード王国の民に牙を剥くかもしれないが、

我々が戦う姿勢を示せば、シルフィード魂が残る兵士は、必ず敵陣内で軍務卿に刃を向けるチャンスを伺う為に動いてくれよう…」


と、静かに語り…そして、国王陛下は、


「そなたが心配しておる弟のナルガ子爵だが…私は彼に期待しているのだ…」


と言って弟が敵陣で既に軍務卿との戦いを…いや、もっと前から弟のマイヤは一人前の男として、抗い難い真実を抱えたままあの軍務卿に戦いを挑む為に潜入している事を思い出させてくれたのだった…

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