第114話 冒険者を頑張ろう
夏の盛りジャルダン商会の1つ実のオランの木のマークを掲げるティム牧場が完成した。
勿論牧場は俺の持ち物として別荘指定済みである。
今ティムさんは同じく商会のマークの入った荷馬車で、ミックさんと一緒に牧場で繁殖させる馬等の買い付けに回っている。
以前頼んでいたモコモコシープと夏前に刈られた羊毛の買い付けもお願いしてあるので、今年の冬は買い付けた羊毛での毛織物の作成をミリンダさんがチャレンジするのだが、来年の夏には村でも毛刈りを行う事になるだろう。
話しの流れで行商のミックさんにもついでに、ジャルダン商会に入ってもらったのだが別に今まで通りの商いをしてもらっている。
ただ、ミックさんの荷馬車に商会の印が入り解る人にはバックに俺という貴族がいると解るだけの効果しかない。
まぁ、ティムさんが行くあてが無くなったら躊躇無く住み込みの従業員にしたミックさんの心意気に感動してジャルダン家がバックにつかせてもらった形だ。
ティム牧場も秋には今まで以上に家畜の繁殖や販売で稼いでくれるだろうし、来年からは競馬がはじめられる様にジョルジュ様がウキウキで会場を作ってくれている。
何より今回の貴族絡みのゴタゴタはバックに辺境とはいえ男爵家がついていると解れば、いくら軍務卿の派閥といえど無用なイザコザを避けて再び起こることは無いだろう…と思いたい…
そして、ティムさんが本格的に始動する前に俺は、一足早く、
「ヒッキーちゃん荷馬車付きのバーン君を送って。」
と、先に親方達に改修をお願いした牧場に建つティムさんの家の横の転移小屋から外に出た俺は、ヒッキーちゃんに荷馬車の転移を頼む…
別荘の管理はベッキーちゃんだが、村から近いという理由でサイラスの管轄はヒッキーちゃんという事にナビゲーターの二人の話し合いで決まったので、
『了解!』
というヒッキーちゃんの声が頭に響き同時に荷馬車つきのバーンが現れた。
ヒッキーちゃんの、
『代引き荷物ですので15ヒッキーポイント引かせて頂きました。
またのご利用おねがいします。』
とのセリフが聞こえる。
姿は見えないが、多分宅配業者のコスプレでもしているのだろう。
俺は、
「ヒッキーちゃん…クリスタルが無いときにコスプレされてもツッコめないよ…
とりあえず転移部屋の皆をヨロシク。」
と伝えると、ヒッキーちゃんは、
『マスター…見てないのに何故解るの…?』
と驚きながらもナッツと村の子供冒険者三人組を送ってくれた様で転移小屋の扉を開けてナッツ達が出てきた。
そう、俺は冒険者稼業に力を入れるのだ。
さて、これから冒険者ギルドに俺とナッツは依頼を受けに行くのと、
ロイド・ダン・マークの村の冒険者パーティー〈村の未来〉は薬草類とジャッカロープなど小型魔物の納入に向かう。
ちなみに、この村の子供冒険者の三名は既にEランクになっている。
原因はエリーちゃんに逢いたいナッツが頑張って採集クエストなどをやらせて何度も納入に行くし、折角馬車を出すからとかなりの量を納入するので、春からの半年でロイド君達はランクアップしたのだ。
『もう!俺達は依頼をこなして無いからまだDランクなのに…ちょいちょい行って、ついでに、森狼のクエストとか受けさせるから!』
と、後輩に追い付かれそうなのもあり俺は当面は冒険者を頑張る事にしたのだ。
保管倉庫から薬草を溜め込んだ樽や村の周辺で本人達が狩ったジャッカロープを配達機能でティム牧場へと出してもらい荷馬車に積み込んでから、いざ、冒険者ギルドへと向かった。
久しぶりのギルドでは、ナッツはエリーちゃんの仕事風景を眺めており、村の未来の三人組はクレアママさんに、
「頑張ってるね。」
と誉められている。
『疎外感』…俺だけ構われていない…久々に来ると、こんな感じか…
と少し拗ねていると、クレアママさんが少しヨソヨソしく、
「キース…準男爵…」
と探り探り話しかけてくれた。
『前にギルド宿屋に泊まって溝を埋めたハズなのに…』
と、更に悲しくなってしまった俺が、
「クレアママさん…キースで良いって言ってたでしょ?
それに、俺、男爵に出世したよ…」
と言うと、
「それは、大変失礼を…」
と更にヨソヨソしくなるクレアママさんに、切ない気持ちになってしまった。
しかし、今日は依頼を受けに来たのだ!
やろうと思えば毎日でも納品に来れるし、今後は冒険者ギルドに入り浸る勤勉な冒険者になってやる!!と気合いをいれながら俺はクエストボードに向かい、
『え~っと、ブラックブル三頭の納入…は、倉庫にあるな。
沼トカゲの皮も納入出来るし…
レッドベアーはシーナさん達が持ってるから明日持って来ると伝えて…』
などと確認したあと、少し距離を感じるクレアママに、
「依頼おねがいします」
と言って複数の依頼受けた。
クレアママさんは、
「こんなに受けて大丈夫?…ですか…」
とぎこちなく聞くので、俺は、
「Bランクを目指して頑張る予定だけど、クレアママさんがそんな他所の子を扱うみたいだとやる気が無くなっちゃうよ…」
と、不満を言うとクレアママさんはハッとして、
「そうだね…久しぶりで私も緊張しちゃったからね…
キースと、ナッツはウチの子みたいなモンだったね…」
と言って微笑む…だが、すぐにクレアママさんは、
「ナッツはすぐにミリンダさん家の子になりそうだけどね…」
と言って、仕事の合間にカウンター越しに見つめ合うナッツとエリーさんの二人を見て呟いた。
エリーさんが冒険者ギルドを辞めたく無いのならナッツをサイラスに住んで貰うしか無いかな?と考えながら村の未来の三人に森狼5頭の納入依頼を追加で受けさせクレアママさんに、
「明日納入に来るから、ガルフさん達解体チームにナイフ研いで待ってて!と伝えておいてね。」
と、伝言を頼みティム牧場に戻ると、ナッツが、
「キース様、毎回バーンを転移させるのは大変ですので、ティムさんには話を通して有りますので私が留守番とバーンの世話を牧場でしておきます」
と提案してくる。
俺は、
『なんとか理由をつけて、エリーちゃんとの時間を稼ぐつもりだな?!
そうだ、監視カメラを農場に設置しまくってやろう。
絶対ギルドの仕事終わりにエリーちゃんがここに来て…ナッツは…ナッツは…』
と、一瞬妄想するが、
『あっ、俺もシーナさんとナッツの前でイチャイチャしてるかも…』
と思い当たり、巨大なブーメランにならない様に今回は気が付かないフリをしてナッツを残して三人組を連れて村へと戻った。
そして翌日はシーナさんやバーバラさんにサーラちゃんとセラさんの冒険者パーティー〈村の華〉を連れて冒険者ギルド行って納入手続きを行う。
するとシーナさん達もレッドベアーを提出して、冒険者パーティーとして登録してから数回目の納入でパーティーの全員がDランクに昇格していた。
『正直、このペースで村人が納入を続けるとホントに村人全てが上級冒険者の村になってしまう…
ある意味暗殺一族の隠れ里よりおっかないかも…』
と思いつつ、新たな依頼を受けて村へと戻る事にした。
去り際にクレアママさんが、
「あと一回の依頼達成でCランクに上がるから、頑張るんだよキース…」
と、少し恥ずかしいそうに言ってくれた。
少しは距離が縮まったかな?
サイラスの町のお母さんがヨソヨソしいと、俺もやっぱり寂しいから…明日も納入に来よう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます