第20話 リベンジに向かう朝


朝晩の冷え込みが激しくなり冬の足音がすぐ側まで近づき、正直いうと朝起きるのが少し億劫になってしまう。


しかし今は、倒して、倒して、倒しまくらなければならない訳が俺にはある!

レベル10になれば、いつものお祝い追加ポイントに合わせて、レベル ×100ポイントのボーナスが貰えるらしいのだ。


ちなみにレベル20の節目には、20 × 100だから2000ポイント…もう、今から楽しみで仕方ない。


ナッツを起こして、朝の狩りに向かう為の準備に入ろうと、まずはベッドの中からマスタールームに意識を飛ばし、東の森で感知機能を使い獲物を探して赤い点がマップに表示された方向に監視機能を向ける。


遠くて見えない場合は、監視の地点をマップで移動させて、十分程待てば敷地内のどこでも監視地点を変えられる。


運よくターゲットが移動せずに食事などをしている場合は、監視機能とマップを使用しターゲットの周りの獣道に罠の設置をマスタールームから指定すると、ターゲットの近くの獣道の上に音もなくワイヤー製のくくり罠が現れる。


あとは罠が発動するまで朝ごはんの用意をしながら待てばいい…


「これが本当の朝飯前だな…」


と、俺はあまりに簡単な狩りの下準備に思わず朝の寒い部屋で更に室内の気温が下がりそうなセリフを呟いてしまった。


しかし、マスタールームから自室に戻って寒いセリフを吐いたのに相棒のからの反応が無い…


『ナッツは、今日もベッドと愛を育んでいるのか?』


と辺りを見ると既にナッツの姿は愛しているはずの彼のベッドには無い…


どうやら相棒は愛するベッドから頑張って起き出して、仲良しのバーンや自宅の池の魚の様子を確認した後に、現在は釣りエサにも飼っている魚のエサにもなるソイルワームをスコップ片手に探しに行ったらしいく、耳をすませばスコップの音が庭の畑辺りから聞こえている。


「おっ、寒さに負けずに頑張ってるのか相棒は…暖かい物でも用意してやるかな」


と言いながら俺も起きて、バーンのおやつ兼冬の保存野菜としての人参っぽい(カロ)という野菜と、まだ少し有るジャッカロープの干し肉でスープを作り始める。


この世界でも定番野菜は有り、大概同じような味のモノが多く正式な名前を知らなくても市場で、


「これを一袋下さい。」


と言えば売ってくれるし、質問をすれば店の人が保存方法やオススメ料理を教えてくれる。


このカロも昨日サイラスの町の大通りをバーンの荷馬車で移動していると、


「兄ちゃん達、馬魔物の好物のカロは要らないか?勿論、料理にも使えて日持ちもするよ。」


と、声を掛けられたのだ。


我が家の食料置き場には、ジャガイモに玉ねぎと人参、あとは小麦粉が有り、


「あとはスパイスが有れば、カレーが作れそうだな…醤油やみりんが有れば肉じゃがも…あぁ、食いてぇなぁ…」


と、無理な願いを口にしながらいつもの塩ベースのスープを作る。


解体した骨をじっくりコトコト煮込んでやって、小麦粉で麺でもつくれば…ラーメンって作れないかな?…などと考えながら俺は料理をしているが、


「あぁ、あれは(かん水)とやらが必要なのか…たしか重曹だよね…無いだろうなこの世界には…」


と、独りで作れそうな前世の味を思いだして盛り上がったり、やっぱり素材や調味料が無くて無理だという結論に落ち込んだりしながらもスープが出来上がる頃に、


「キース様、沢山ソイルワームを捕まえて池のマッスル達にもご飯をあげておきました。」


と、ナッツはニコニコしながら暖炉に当たっている。


俺は心の中で、


『あぁ、相棒は庭の池の魚にマッスルなどという愛称を付けた上に、エサではなくてご飯と…

もう、あいつらは気軽に食えないポジションになってしまった様だ…』


と思いながらも、


「お疲れ様ナッツ、暖まって。」


と木製のボウルに、暖かいスープを入れてナッツに渡した。


既に罠が発動したお知らせが来ているので、ナッツに、


「それを飲んで暖まったら、狩りに行くよ。」


と告げると、ナッツは熱々のスープを焦って飲み干し、


「キース様、サクッと殺って、釣りに行きましょう!」


と、やる気満々になっている。


『どんだけ好きになったんだよ…釣り…

あれだな、ナッツはオランの実の件もそうだが、今回の釣りにしても好きに忠実だな…』


と感心しながらも、俺自身も心の奥底では昨日の釣りのリベンジに燃えている。


俺は、


「じゃあ、サクッと殺って解体場所に吊るして血抜きしてる間に釣りをして、昼に戻って獲物を解体しよう。

そして、解体が済んだら夕まづめにもう一度釣りにいくか!?…ナッツ、勝負だ!負けないぞぉ~。」


と相棒に勝負を挑むと、ナッツはキラキラした目で、


「楽しそうですね…数ですか? 大きさですか?」


と、乗ってきたのだが、俺はフッと昨日のナッツの爆釣を思いだし…


「い、一匹の大きさ勝負…かな?」


と、何故か数で勝てる未来が想像出来なかったので、


『ワンチャン一匹勝負なら…』


と、弱気な理由の勝負を挑む事にしたのだが、何故だろう…既に負けている気がする。


新たに購入した鋼の槍は、鋼ハサミに壊された鉄の槍よりも強い装備であり、やる気のナッツと、レベルアップを目指す俺に装備されることにより罠にかかった獲物を倒す事が更に楽になり、あっという間に足をワイヤーに取られた跳ね鹿は天に召されてしまう事になり、ナッツに、


「よし、運びましょう!」


と、軽々担がれて自宅の解体場所に足先の筋の辺りや首筋をナイフで切られて、ロープで吊るされてしまった。


レベルアップしたからか、最初は二人で運んでいた獲物も、現在は一人一匹担いで移動出来る事に気がつき少し驚いている俺など気にもしない様に相棒は資材置場になっている鍛冶屋の中から竿や釣り道具を取り出して、


「キース様、行きましょう」


とルンルンで東の池に向かうナッツを眺めながら、ついでの作業みたいに倒されて吊るされている先ほどの跳ね鹿をチラリと見て少し気の毒に思う俺だったのだが、今回は俺もリベンジに燃えているので、


『よし、今日こそはデッカイのを釣ってやる!』


と、鼻息も荒く東の池を目指したのだった。

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