月の下で夢を見て
希塔司
序章
ある男の子の旅立ち
星がちりばめられた夜空を背にして、森を歩いていた。彼の足音は、周囲の静けさに溶け込みながら、ほのかに木々の間を響き渡る。風は穏やかに吹き、彼の頬を伝う。だが周りには誰もいないひとりぼっちの少年。孤独は彼の日常だった...
ただ目の前には湖のふもと、月の光に照らされ、長い髪をなびかせた彼より少し大人びた女の子がいる。
「君は一体だれ?」
そこで目を覚ました。彼はどうやら夢を見てたのだった。
ーーーーーーーー
エリオットはこの屋敷に住む領主、両親を失ってから彼は広い屋敷にずっと1人で住んでいた。そこに住んでいるからか、周りの同じくらいの子供たちはみな彼を敬遠し友達と呼べるような存在はいなかった。
昔はメイドや執事を雇っていたが両親が死んだことで契約解除、晴れて彼らはそれぞれの地へ帰っていった。
しばらく1人でいる時間が多かったからか、もう悲しいや寂しさなどといった感情が薄れていってるような気がする。幸い両親は彼のために残していた遺産がそこそこあるためしばらくはこの生活ができる。
エリオットは次第に1人でいることが当たり前の生活になっていった。
ある日の夜、エリオットはふと目が覚めた。何か、彼の中で明確に形を成さない欠けているピースを探しているようだった。趣味で絵を描いているため、そのインスピレーションを浮かばせるために屋敷の近くにある森へと向かった。
月が高く昇り、その光が森の小道を照らす中、彼は足を止めた。何かがエリオットの注意を引いた。遠くに、淡い光が輝いている。好奇心が彼を先へと駆り立てる。
すると森の中に湖が見える。
何回か森には入っているからこんなところに湖があったんだと改めて発見をした。
エリオットは持っているキャンパスを立てかけ、湖、月、森、中で光る小さなもの、それらを自分の感覚を研ぎ澄ませながら筆で描いていく。
この時間が人生で1番充実している。孤独なエリオットにとっては何より大事にしているものだ。
ーーーーーー
しばらくして絵は完成した。とても子供の作品とは思えないような風景画を書き下ろした。月の下に照らされている湖はまさに宝石の様に描かれている。周りの森はその湖を見守る存在として。
「綺麗に今日は描けたな。それにしても森の中にこんな場所があったんだ...」
エリオットは思わぬ発見をしたなと改めて感じる。すると向こう岸に人がいる。女の人だ。向こうもこっちに気づいたのか、彼の方に近づいてくる。
人とまともに話すのなんていつ以来だろうと考えているともうすぐ近くまで歩いてきていた。
「君、もしかして夢の中にでてた少年だよね?」
え、なんで夢の中のことを知ってるんだろう?とエリオットは驚いてしまった。確かに容姿は瓜二つというか全く同じあの大人びた女の子の姿をしていた。
「えっと、どうして夢にあったことを知ってるの?君は一体誰なの?」
そう問いかけると微笑みながらその女の子が問いに答える。
「ごめんね急に、私はリリアナ。この近くに住んでるんだけど君ってもしかしてあそこの丘の屋敷に1人で住んでるっていう少年だよね?」
「はい、両親はもういないので僕があの屋敷の持ち主です。それでどうしてリリアナさんは僕が見た夢を知ってるんですか?」
「私は魔法を使えるんだけど、その中に夢に入る魔法があるんだ。その魔法は困ってたり辛い思いをしてる人の夢に入って助ける魔法で、たまたま君の夢にあの日入り込んだの。
この格好をしてるのも、この森の魔力が君が今日ここに来ることを教えてくれたからなんだ。」
この森には魔力が込められてる。昔から不思議なところだと思っていたけどそんな秘密があったんだとエリオットは感じた。リリアナが魔法使いであるということも説明を聞いて納得していた。
「よければ教えて欲しいんだ。君のこと。君のことを知って、それから君を助けたい。」
「僕は大丈夫だけど、どうしてそこまでするんですか?」
「君は私にとって恩人だから...」
「え、僕は初対面だと思いますけど...」
「正確にはもう少ししたらちゃんと説明するね!とりあえず君のことを教えて欲しい!」
エリオットは人と話したのが久しぶりだからこそ、理解してもらえるかわからない自分の現状を話した。両親のこと、周りの子のこと、メイドや執事のこと、将来のこと、そして小さい時に思っていた夢を話した。
「僕は、いつか世界中を回って世界中のあらゆる街や景色とかを彩った絵を描きたいんだ。そこには人の日常だったり感情だったりをのせて...
でも僕は一歩を踏み出すのが怖いんだ、もし関わった人たちに何かあったら僕はもう...」
ーーーーーー
「そうだったんだ...。
君のこと、少しは理解できたよ!そしたらもしよかったらなんだけど、私と一緒にいろんなところに旅をしてみない?旅の途中で私が覚えてる魔法をいくつか教えていきながら!」
「でも、僕は魔法を扱う適正はないよ。診断の時にそう言われたんです。」
「そんなことないよ、私だって小さい時に適正なしの判定されたよ。そしたら見てて!」
そう言うとリリアナは手のひらに魔力を込めた。そして湖の方に向けて魔法を放つ。
すると湖が少しずつ縦に半分に割れ始め、道ができた。そこには沈んでいた宝石が眠っていた。オパールだ。
湖の中で月の光に照らされ一つだけ小さく輝いていたものがあったけどこのオパールが月の光に照らされていたのだった。
「すごい...」
「どう?大切なのは君がどうなりたいかだよ。君は今のままじゃきっと一生を苦しみながら生きることになる。私はそんな君を見たくない。だからどうかな?一緒に今のような輝く景色を見に行こ!」
エリオットは人に疎まれ、1人で生きてきた。だからこそこれはある意味自分を変えるきっかけになると思った。考えに考え、決断した。
「わかりました。これからよろしくお願いします!」
エリオットは魔法に魅入られ、そして自分の今の現状を変えたいと願い、リリアナとの旅に同行することになった。これから先、2人はどのような輝く景色を見ることができるのか.....
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