第6話:断罪されるのは誰?

 フローレンスはアーディンの隣に席を設えられていた。もちろん反対隣はエルマーだが。

 そのエルマーはなかなか席に着かない。入り口では何やら騒ぎが起こっている。

「ひどい!!」

 そのうち女性の大きな泣き声が聞こえた。


 次いで憤怒の表情のエルマーがツカツカとフローレンスに近づいてきた。そして大きな声で言った。

「立て!!」

 フローレンスは何を言うのかと怪訝な顔を向けたが、それがエルマーを尚激高させたらしい。

 エルマーはフローレンスの腕を乱暴に掴んで椅子から引き剥がし、床に叩きつけた。

「お前が帰ればローレンの席ができるんだ!帰れ!!」

 フローレンスも他の人々も呆気にとられた。


 ローレンは招待状もなく夜会に来ていたのか。あまつさえ、晩餐に出席するためにフローレンスの席に就く気なのか。


 カリオン・ガーフィットとチェスター・ガーフィットが立ち上がり、駆け付けた。

「お前は何を言っているんだ!正気か!?」

「もういい、お前が帰れ」


 揉めているその時、国王と王妃の入場が告げられた。

 エルマー以外が立ち上がり、もちろんフローレンスも立ち上がり、臣下の礼をとった。


 国王と王妃は肩で息をしているエルマーを見やった。

「なにやらかしましいようだな」

「そこにいるのはエルマー・ガーフィットですね。近頃話題の」

 王妃の嫌味をエルマーは誤解した。


「国王陛下、王妃殿下、このフローレンスは毒婦です!グリフィス公爵の地位を私から奪おうと画策しているのです!」

 再びその場の誰もが呆気にとられた。


 どうやらエルマーは、グリフィス公爵家の後継問題について説明された時、父のアレンの言い方が悪かったのか、それともエルマーの頭が悪すぎたのか、とんでもない思い違いをしていたらしい。

 エルマーが公爵になることをフローレンスが画策して横取りする気だと思っていたようだ。


「あら、フローレンスはグリフィス公爵令嬢で、次期公爵と思っていましたが、あなたはいつグリフィスになったのですか?」

 王妃が尋ねる。

「フローレンスと結婚すれば私が公爵です!それなのにこの女は!!」

 国王が手を振る。

「もういい」

 カリオンに向かって

「カリオン・ガーフィットよ。預かっていた書類、この場で受け入れよう。今この時からカリオンがガーフィット伯爵だ。アレンは隠居せよ」

 そしてフローレンスの父のバーナード・グリフィス公爵の方を向き、

「二人の婚約を破棄することを認める。全面的にガーフィットの有責だ」

 それを聞いた王妃が艶やかに微笑む。

「フローレンス、婚約破棄おめでとう。それはそれとして」

 エルマーを冷たく見て告げる。

「その無礼者と入り口できゃんきゃん喚いている雌犬を摘みだしなさい!以後、王宮への立ち入りを禁じます」

 国王も応じる。

「場を騒がせた罪として三か月の入牢と棒打ち十回を命ずる。二人共だ」


 エルマーとローレンの二人は衛兵に連れ去られた。


 その後の晩餐も舞踏会も、何事もなかったかのように執り行われたが、人々は興奮していた。


 フローレンスは呆然としていた。

 こんなあっけなく婚約破棄が成立するなんて。しかも全面的ガーフィット有責どころか、罪人になってしまったわ。自業自得だけど。

 小娘の小手先など大人には敵わないのね。


 舞踏会でフローレンスはアーディンにダンスを申し込まれたが断った。

「どうか半年お待ちください」

「半年後、あなたをサーレンへ連れて帰るよ、愛しい人」

 少し気が早い気がしたが、アーディンの甘い言葉に、フローレンスは生まれて初めてのときめきを覚えた。


 半年の間に起こること。

 それは全て大人に任せよう。

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計画的婚約破棄でした チャイムン @iafia

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