計画的婚約破棄でした
チャイムン
第1話:決意の瞬間
髪に飾った薔薇を奪われた瞬間、フローレンス・グリフィスは円満な婚約解消ではなく、手酷い婚約破棄を決意した。
***
フローレンス・グリフィスは公爵家の長女だ。
グリフィス公爵家は十七歳のフローレンスと十一歳の妹のクローディアの姉妹だけで、男の子供に恵まれていなかった。そのためどちらかが婿をとって、公爵家を継ぐ予定だった。
フローレンスが十歳の時に、父のバーナードの商売仲間の一人であるガーフィット伯爵家のアレンの三男のエルマーを是非にと縋られて、お見合いをした。フローレンスと同じ歳のエルマーははきはきとした元気な少年で、少々生意気な面が垣間見えたが、年を重ねれば治るだろうと話を進めていった。
というのは、アレンはよく言えば気のいい男、悪く言えば気の弱い性格で、共同事業の中でも仲間に押し負けており、経済的に多少の困窮があったのだ。グリフィス家が後ろ盾になれば持ち直すほどであったので、気のいいアレンに好意を持っていたバーナードはこの婚約を成立させた。
ところが将来グリフィス公爵家を継ぐと思いこんだエルマーは、年を重ねるごとに傲慢になっていった。
バーナード・グリフィス公爵はアレン・ガーフィット伯爵に、息子に事情をきちんと説明しているのかと尋ねた。
エルマーはグリフィス公爵家へ婿入りするが、公爵家を継ぐのは現在時点で娘のフローレンスなのだ。
アレンは
「まだ成人していないので分別がつかない所は、しばし寛容に見て欲しい。そのうち折を見て」
と言葉を濁した。
さすがにバーナードも見過ごせず、
「十七歳になっても分別がつかなかったら、婚約は破談で」
とにべもなく告げたのだ。そして新たに婚約契約書を作り、その旨明記し有責者の負う賠償も取り決めた。
フローレンスとエルマーが十六歳になった頃は、彼はますます傲慢で「未来の公爵」を名乗り、フローレンスを蔑ろにするに飽き足らず、別の令嬢を傍に置くようになった。
最初はさすがにお茶会や夜会にフローレンスをエスコートするものの、会場に着けば件の令嬢、ローレン・キンバリー子爵令嬢の元に馳せ参じ離れない。そのうちエスコートもなくなった。
もちろん周囲は、エルマーとローレンの非常識に呆れ、注意をする者さえいた。
ところが二人はまるで被害者然と振る舞い、フローレンスを責めて詰った。
そんな時、フローレンスが十七歳になる直前、王家からフローレンスの婚約解消の打診が来たのだ。
この国、ザイド王国より東のサーレン王国から留学していた第二王子アーディンが、フローレンスを見初めたのだ。
どの道、十七歳になるまでに振る舞いが変わらない場合、婚約の解消を約束していたバーナードには渡りに船だった。
娘フローレンスに話を振ると、彼女は救われたような表情になったが、すぐに顔を伏せた。
「お父様、もう少しお待ちください」
バーナードはグリフィス公爵家の跡取り問題を気にしているのだろうと思い、
「クローディアに婿をとるから心配するでない。今度は慎重に選ぶ」
と肩を抱いた。
「違うのです」
フローレンスは言い募った。
「わたくしもエルマーとの結婚は望んでいません。アーディン王子殿下は学院でお話したことがありますが、大変好感を持てる方だと思いました」
では、と問えばフローレンスはにっこり笑って答えたものだ。
「このまま婚約解消では、あちらはきっといい条件に飛びついたと思い詰ってきますわ。こちらが有責になります。もう少し、婚約解消やむなしの材料が欲しいのです。半年だけ時間をくださいませ」
フローレンスはこちらが瑕疵なく婚約解消に持ち込む腹積もりを決めたのだ。
しかし、フローレンスの十七歳の誕生日を祝って、親友のシシリア・ベルトラン公爵令嬢が開いてくれた薔薇園でのガーデン・パーティーで、彼女から贈られた薔薇を髪からむしり取られ、ローレンの髪に飾られた時、婚約解消ではなく婚約破棄を決意した。
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