トナカイくん

@ramia294

第1話

 イルミネーションでピカピカの街。

 すれ違う恋人たちと、粉雪。


 クリスマスだというのに、私は残業を終えての帰り道、ひとりの夜。

 ひとり暮らしの暗い部屋の鍵が、

 ポケットの中、手に金属の冷たさを伝える。

 私は、今夜、何度目かのため息をつく。


 鳴らないスマホは、バッグの中で安眠を貪り、積り始めた雪を巻き上げる風は、コートの襟元から私のさみしい心を覗き込む。


 地下鉄の駅の階段が、見え始める。

 あの階段を降りると、いつもと変わらないひとりの夜が私を歓迎してくれる。


 今夜は、神さまの誕生日……だっけ?

 会った事はないけど。


 せっかくなので、シャンパンでお祝い。

 残念、部屋にはビールしかなかったわね。

 では、ビールで。


 ビールのお供は何にしよう?


 そんな事を考えながら、階段を降りようとすると、聞いたことのある声。


「センパ〜イ、センパ〜イ!」


 あら?

 あなたは、今年入社した新人くん。

 イケメンまでは、二センチ足らず。

 頑張るお仕事、成果はポチポチ。

 笑顔と素直と正直で、

 なかなか人気の新人くん。


「センパ〜イ。デスクに財布を忘れていましたよ」


 あら?

 私は、入社三年目。

 いいオンナまでは、あと二ミリ

 仕事は出来るが、彼氏無し。

 普段は指導の新人くん。

 今夜は、助けられました。


「助かったわ、ありがとう。君が届けてくれないと、定期券も入っていたから、帰れないところだった。」


 きっと、走ってきた新人くん。

 寒いのに、

 息が乱れ。

 顔が赤く、

 いや、鼻が赤く。


 君は、赤鼻のトナカイ?


 今夜のクリスマス。

 赤鼻のトナカイくんと何故か乾杯!


 

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