第31話 常識破りの採用試験

 最後の一人が試験を終え、これで受験生全員の実技試験が終了した。

 それと同時に講師たちがぞろぞろと試験会場に出てきて、談笑しながら壁面に並ぶ。

 何が始まるのかと気になる受験生たちの前で、試験監督の講師が話を始める。


「以上で全試験を終了する! 結果は後日、学園の門に貼り出すために確認するように! 本日は以上で解散とする! だが!」


 試験官が右手を勢いよく扉に向けるとその扉が開いてシエラとデューテ、シャールの三人が入ってくる。


「諸君らは運が良い! これから新規採用予定の講師二人にも同じ試験を受けてもらう! 見学するもよし、帰ってもよしだ! だが、諸君らが目指す魔法使いの一端を見ることができるかもしれないから残ることをおすすめするぞ!」


 試験官がそう言っている間に、デューテが指定の位置に立った。

 受験生たちは誰一人帰らず、黙って試験を見学している。

 と、その横で講師たちはひそひそと小声で会話をしていた。


「メイド服だと? ふざけているのか?」

「美しい女性だがまだ若い。学園長が推薦するとはどれほどの力か」

「いくら学園長の推薦でも登録なしの魔法使いだ。大したことないか、登録抹消されたヤバい奴かだろう」


 そんな声を気にせず、デューテは目を閉じて開始の時を待つ。


「では、デューテさん! 始め!」

「〈穿て雷槍〉」


 呟くように呪文が紡がれ、次の瞬間にはデューテが踵を返して開始位置を離れる。


「あ、あれ? 終わりました?」

「はい。どうぞご覧ください」


 デューテが指さす先を見て、講師たちが驚きに目を見開いた。

 的には亀裂が入り、上には大きく『6000』と表示されている。講師たちの誰よりも高い点数を弾きだしたデューテにただただ驚愕するばかりだ。

 受験生たちも驚きと興奮に沸き、さらにその美しい容貌から多くの注目を集めていた。

 シャーロットも、改めてデューテの力に感動する。


「さすがデューテさん。お強い……!」


 講師たちも動揺が止まらない。


「つっよ……」

「点数私の五倍かよ……まじかぁ……」

「講師用に強くなった結界の影響を受けてなおあの威力とは……」

「結界の影響は受けてませんよ?」


 講師の声を拾い、そう返したデューテにシエラとシャール以外の誰もが首を傾げる。

 訳が分からないとばかりの反応を見せる人たちに、デューテが種明かしを行った。


「私の魔法は本気で撃てば光速です。結界の展開よりも先に的を撃ち抜きました」

「「「……なんだそれ」」」


 常識ではあり得ないことをやられて理解が追いつかなかった。

 人間離れした技に受験生たちがさらに盛り上がるが、シャーロットはそれ以上に内心盛り上がっていた。


(次は先生の番ですっ! 楽しみ……!)


 憧れのシエラがどんな結果を出すのか、今から楽しみで仕方ない。

 デューテと入れ替わりで試験位置に立ったシエラは、シャーロットが期待の眼差しを向けてきているのを見て、悪戯心が芽生えた。

 シャールが口元を引きつらせたのを無視し、左手を構えると試験官が手を振り上げる。


「では、シエルリントさん! 始め!」

「〈焼き尽くせ〉」


 発動された魔法に受験生たちが度肝を抜かれる。

 しかし、シャーロットは首を傾げ、講師陣は鼻で笑った。


「【フレイム・カーペット】。第五階級の炎属性魔法か」

「ド素人が。学園長の推薦というから期待したが大したことはないな。所詮は名前だけの一級魔法使いよ」

「今年は優秀な者が多かったが、対称的すぎる」

「どうして? それ、先生が一番ダメだって言ってた魔法……」


 炎属性の範囲魔法は、結界の影響をもろに受けるために使うべきではないとシエラから注意されていた。

 それをあえて使う意味が分からず、シャーロットが困り顔をした。

 しかし、それもだんだんと様子がおかしいことに気がつき始める。


「お、おい……威力弱まるどころか増してないか……?」

「熱い……なんだこりゃ……」


 シエラの魔法は結界で弱まるどころか、あろうことか結界を逆に焼き尽くして破壊してしまった。

 炎の絨毯はさらに広がり、ついには的に到達して完全に焼き払ってしまう。

 的が壊れたことで点数は出ず、計測不能という結果に終わる。

 講師陣は涙目になり、何人かは漏らしていた。受験生たちは呆然と常識離れした光景を見ていた。

 そんな中でシャールがシエラの後頭部を叩く。


「やりすぎだよ」

「そうかな? それより、的が脆いよ。もう少し丈夫なものを用意した方がいいって」

「あれ壊せるのシエ……ル、リントだけだからね! 普通は壊れないの!」


 常識外れの力を見せつけられ、その後に続いた二人の漫才にその場のほぼ全員がポカンと口を開けて間抜け顔をさらしていた。

 ただ、シャーロットだけは輝く尊敬の眼差しで拍手を送っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る