第30話 同年代の魔法

 シャーロットが結果を出したことで、その後の受験生たちは【ロックブラスト】を使ったり魔法の連続使用を試みたりしていた。

 だが、見よう見まねですぐにできるなどそんな化けものじみた芸当ができる者などシャーロットくらいなもので、誰もが上手くいかずに四苦八苦し、結局本来使う予定だった【サンダーショット】に切り替える者が大半だった。最後まで諦めずに失敗を重ね続けた者は残念ながら失格に終わる者もいる。

 受験生も少なくなってきて、残り数人というほどまで進んでいた。


「次、ルーモス! 始め!」


 試験官が告げた名前にシエラが反応する。


「あれ、ルーモスってたしか……」

「うん。私の弟子だよ」


 シャールが自慢げに言う。

 試験位置に立つ少年。その姿に周囲の女子が黄色い声の混じるこそこそ話をしている。

 女性と間違われるかもしれない中性的な顔立ちは非常に整っており、男女ともに人を惹きつけそうな魅力が感じられる。が、体つきはしっかりと男性っぽさがあり、筋肉などはしっかりしているようだった。

 耳にかかる茶髪を掻き上げ、左手を突き出して指を真っ直ぐ的へと伸ばす。そして、目を細めて右手の人差し指を左手の中指第二関節に添えて、ゆっくりと引きながら詠唱を開始した。


「〈風よ駆けよ・鋭き一撃を放ちて・一点を穿つ矢となれ〉」

「ねぇシャール。あれ……まさか……」

「第四階級魔法改【ソニック・アロー】だよ。本来は矢が切れた時に風の矢を作りだして放つ【ウィンド・アロー】なんだけど、弓がなくても撃てるようにルーモスが改変したんだ」

「それもう固有魔法マイナリィに近いじゃないですか。シャーロット様の他にもすごい魔法使いの卵がいますね」


 デューテが感心する前で、さらにルーモスが詠唱を行う。


「〈開け・風の通り道を作り・行き先を示せ〉」


 使ったのは第三階級魔法の【エア・ブロック】。物体にかかる空気抵抗を減少させる魔法だ。

 結界の魔力減衰には引っかかってしまうために、シャーロットが使った【ストーム・ゲート】のほうがより適した魔法ではあるが、ルーモスは使えないため仕方ない。

 だが、高速で発射される風の矢に干渉する結界の減衰効果は先に【エア・ブロック】が肩代わりして受けられるために威力減少をそれほど気にする必要がなかった。

 ルーモスが矢を放ち、直進した一撃は見事に的の中央を射貫いていた。

 表示された得点は『106』。シャーロットには及ばないが、受験生の中ではシャーロットに続いて二番目に高い。


「ふぅ」


 額を拭い、安心したように下がる。

 試験官は笑顔で頷き、そして再び監督の顔に戻った。


「次、メランコリー=イェル=アヴァント様! 始め!」


 名前を呼ばれ、金色の長髪を払う自信満々の少女が試験位置に立った。


「あの方、アヴァントということはアヴァント王国の王女様でしょうか?」

「そうそう。で、ミレイアちゃんの弟子でもある」

「そういえばそうね。さて、どれだけの力があるのやら」


 シエラが期待の眼差しでメランコリーを見る。

 シャーロットほどではないが彼女も表層魔力と深層魔力の合計は同年代と比べて群を抜いている。面白いものが見られそうだとわくわくしていた。

 ふふん、と鼻を鳴らしたメランコリーは、バッと左手を突き出した。


「〈荒ぶる雷神よ・輝く其の槍の力で・目の前の敵を刺し穿て〉! 〈力よ増せ・彩りを加えよ〉!」

「【付与エンチャント・コピアルマジック】ね。さすがミレイアと言うべきか何というか」

「うん。ミレイアちゃんお得意の力業だぁ」


 シエラとシャールが揃って苦笑した。

 事前に放った魔法の威力を底上げする魔法を使い、【プラズマランス】を強くしたメランコリーが勢いよくそれを撃ち出す。

 シャーロットやルーモスのように工夫のない一撃は、普通であれば結界に阻まれ大した得点にはならない。

 が、メランコリーはその減衰効果を見据えた魔力量を込めていたようで、軌道と威力が特にブレることなく魔法が直進した。

 的を貫通し、上に大きく『121』と表示される。


「三桁が三人! 今年はすごい!」

「さすがは王女様だ!」

「シャーロットちゃんとルーモスくんもすごかったが、メランコリー様も負けていないな」


 講師陣はすごい点数を出した三人を口々に称賛する。

 受験生たちもメランコリーの記録に沸いていたが、当の本人は頬を膨らませて小石を蹴っ飛ばした。


「悔しいっ! 私が二位なんてあり得ない! 何者ですのあの子は!」


 シャーロットに負けたことが気に入らない様子だった。

 恨みがましい視線を向けられ、シャーロットが困惑しながらおろおろしている。それを見ていたルーモスも止めるべきか悩んでおろおろしていた。

 困っている弟子の姿というのは中々に貴重で、その様子が面白くてシエラとシャールは顔を見合わせて笑うのだった。

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