第17話 シャーロットの無双

 イノシシの死骸を踏み越え、今度はオオカミの魔獣が駆けてくる。その牙には電流が流れ、噛みつかれると間違いなく致死レベルの電撃を浴びせられることになるだろう。

 が、その程度はシャーロットには通用しない。

 足元に風を起こして加速する第三階級魔法の【ラピッド・ストーム】という魔法を連続で使用することで立体的な機動を実現するという、シエラが開発し風力空中歩行術ストームウォーカーと名付けた技術を巧みに使いながら距離を急速に詰めていく。


「いつの間にかストームウォーカーまで。デューテが教えたのかしら?」

「にしても、使いこなせるとは驚きですぞい」

「デューテやサーシャと違って、誰かさんや勇者のミレイアですら結局失敗続きだったものね。使えるようになった?」


 シエラの意地悪な質問に、アーキッシュは口笛を吹いて目をそらす。

 オオカミが跳躍し、シャーロットを食い殺そうとした瞬間に彼女は自身の右側に暴風を発生させた。その影響で軌道が左にずれる。

 攻撃を外したオオカミが着地し、再度襲いかかろうと振り向いた。

 だが、そこは既にシャーロットの射程内キリングゾーン。指を構えたシャーロットとオオカミの視線が交錯する。


「〈穿て雷槍〉!」


 放たれた【プラズマランス】が容赦なくオオカミの眉間を撃ち抜いた。脳髄を電撃で焼き切り一瞬で絶命させる。

 一連の流れを見ていた冒険者の魔法使いたちが呆然としていた。力量差に言葉を失ったのだと思い、シエラが苦笑する。

 一般的に、第四階級魔法は一節で詠唱し発動できると一流とされていた。

 自分たちが第四階級魔法を三節で詠唱したのに、明らかに年下のシャーロットが無駄のない一節詠唱を披露したことがよほど衝撃的だったのだろう。


(まぁ、シャルは既に第六階級魔法も発動できるんだけど)


 などとシエラが思うが、それを口にするとこの場の何人かは卒倒しそうなために黙っておくことにした。

 屋敷でシャーロットに絡んでいた冒険者にシエラが指を向けた。

 特に喋ることもなく指先から【プラズマランス】が放たれる。雷閃は、男の脇をすり抜け密かに接近していたオオカミの頭を吹き飛ばした。

 シエラレベルになると、一部の魔法は言葉による詠唱ではなく息づかいによる詠唱が可能になっていた。これが無声詠唱と呼ばれる技術で、時間差詠唱ストックブートとはまた違うために対策方法も異なるが、どちらも一流程度の魔法使いでは不可能な高等技法に変わりはなかった。中でも無声詠唱は特級魔法使いにもできない者は多い。

 ボーッとしていたことで兄に怒られた男が武器を持ち直して戦闘に戻っていく。

 しかし、もう既に戦場はシャーロットの独壇場だった。完全な無双状態に突入している。

 魔獣たちは荒れ狂う猛威と化したシャーロットの前にただひたすらに吹き飛ばされていた。宙に無様な骸を晒している。

 さらに驚くべき事として、シエラとアーキッシュが同時に感嘆の声を漏らした。


「あれは、まさか……!」

「……第三階級魔法改【ラピッド・スマッシュ】。いつの間にあんな技を」


 ストームウォーカーを発動させる要領で、【ラピッド・ストーム】を相手のすぐ近くで連続発動させて暴風による殴打で攻撃するのがこの【ラピッド・スマッシュ】だ。第三階級魔法の改変だが、上手くやれば威力的には第五階級魔法に相当する。

 シエラだけが使うことのできる固有魔法マイナリィと思っていたが、シャーロットは独学でその魔法を獲得していた。

 人体を超速で加速させる暴風に負け、魔獣たちが次々と吹き飛び枝に突き刺さっていく。あれほどいた大群がいまや数えることができるほどに数を減らしていた。

 が、あれだけの大技を連発して無事というわけにもいかない。シャーロットの動きが鈍くなり、魔力切れの兆候が見え始めた。


「ここが限界みたいね。〈呼び戻せ・我と其を道にて繋がん〉」


 転移魔法を改変したものを使い、シャーロットを帰還させた。

 肩を上下させて呼吸するシャーロットにアーキッシュが魔力回復のポーションを渡す。


「ほれ。すごいですなシャーロットちゃんは! まさかここまでできるとは!」

「当然。私の自慢の弟子だもの」

「へへ……! 先生、どうでしたか?」

「さっきも言ったけど本当にすごいよ。特に、【ラピッド・スマッシュ】の発動は見事だった。誇って良いと思うよ」

「ありがとうございます! でも、先生の教えを理解していればこのくらいできて当然です!」

「だ、そうよ? わざわざ教えたのに発動できなかった失敗組のアーキッシュくん?」


 わざと意地悪く言ってやると、アーキッシュはまたそっぽを向いて口笛を吹き出した。

 一応、シエラも【ラピッド・スマッシュ】のやり方はアーキッシュや他の勇者パーティーの面々にも教えた。だが、勇者パーティーで唯一ストームウォーカーを使いこなせた聖女サーシャを含む誰一人として成功しなかったためにシエラを呆れさせた過去があった。

 使い方はほとんどストームウォーカーと同じなためにどうしてできないのかは今でも謎に思っている。

 ポーションを飲んだシャーロットが休む。

 そんな彼女の活躍に触発されたのが冒険者たちだ。自分よりも年下の少女だけに任せていては恥だと奮起し、掃討戦を仕掛けていく。

 その光景を見て、これで終わりだとシエラがにやけた。

 その予想通り、それから程なくして大凶乱スタンピードの第一波は無事に鎮圧が成功したのだった。

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