決行の日

 夕食後、知布がやってきた。部屋を開け、「出ろ」と言う。


「兎斗、なんだろう」


「うん」


 知布は頷き、こちらを見た。


「できそうか?」


 今日は作戦決行日。座貫軍はタンチョウ族との戦で砂漠に出ているため、宮廷の警備は手薄状態だ。もしかしたら、すでにタンチョウ族は内地まで侵攻していて、外では激しい戦闘が繰り広げられているかもしれない。


 外がどういう状況なのか、この部屋にいる兎斗にはわからない。


「うん」


 知布は部屋に入ってきた。手には黒い布と革帯、長剣と短剣がそれぞれ二本ずつ乗っている。


 知布は床に正座すると、それらを並べた。


「西の大広間で宴が開かれている。呂帝と王族らは今、全員そこに集まっている。見張りは俺が追い払うから、お前は速やかに任務を遂行しろ」


 殺すべき人間が一箇所に集まっているなんて、自分はついていると思った。


「わかった」


 答えると、知布はさっさと部屋を出て行った。自分と同じ空間にいたくないのだろう。


「裕翔……戻ってくるか?」


 与えられた武器に触れる。裕翔にこれは扱えない。戻ってこられても困るのに、心細い気持ちは裕翔を欲した。


「二人に愛されてるんだ。……戻ってきなよ。どちらも愛さずにいなくなるなんて……無責任だ」


 言いながら黒い布を羽織り、頭を隠した。腰に革帯を巻き、剣を刺し……裕翔が現れるのをしばし待つ。


「良いんだな? 裕翔? 僕はたくさん人を殺しに行くよ。夢で見たら、立ち直れないくらいの衝撃を受けると思うけど」


 裕翔は戦うことを知らない。暴力とは無縁の手は飛燕と知布を癒した。


「裕翔……良いんだな?」


 五日も現れないのだ。もう、この体に裕翔はいない。


「裕翔……嫌な夢を見ても、僕を責めるなよ。肝心な時に引っ込んでるお前が悪いんだからな」


 憎まれ口を叩く。誰も止めてくれないから部屋を出た。

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