紺色

ぬヌ

明日はどうしよ

―――もう、疲れたなぁ。


私がため息を零したのは、星の一つも見えない、紺色をただそこに塗りたくったような、そんな夜の空が見下ろす、どこかの公園であった。


考えることに疲れた。


しんどくなることに疲れた。


頭の中がぐるぐると、まるでミキサーにかけられた果物の斤が回るような毎日に、疲れた。


『私はちゃんとやってる』そう胸を張って言えない私自身に、疲れてしまった。


「……はぁ。」


気付けばまた、口からはため息が漏れ出る。


いったい何に対しての、何の為のため息なのだろうか。


自分でもよく分からない。


ただ一つだけ確かなのは、今の私の行動には何の意味もないということだ。


家から逃げ出した。


口五月蝿い両親から、今『私のするべきこと』から。


彼らに何も告げず、まるでコンビニにでも行くかのような沈黙で、私は家を出た。


そしてすぐに、私は少しだけ後悔した。


……あぁ、ちょっと寒い。


四月のちょうど中旬。


昼間はもう既に、夏の到来を勘違いしてしまうような暑さだというのに、夜はまだ少し冷えるのかよ……と。


昼間のノリで、薄着のまま外に出たことが悔やまれた。


しかし、一度決心して家を出た都合上、上着を取りに再び家に戻るのはダサい。


非常にダサい。


だから私は致し方なく、そのまま玄関扉へと別れを告げるように背を向けたのだ。


……別に、上着を取りに家に入ったぐらい、誰に咎められるわけでもないのにね。


強いて言うなら、私自身が許せなかったのかもしれない。


ある種のプライドというやつなのだろうか。


……そのせいで今、公園のベンチの上で肩を抱き、寒さに震えることになっているのだけれど。


くだらない自尊心のせいで今、自分が苦しい思いをしているという状況に、何故だか笑えてしまう。


いや、全くもって面白くはないのだけれど、不思議と笑みが零れてしまうのだ。


これが、自嘲というやつなのかもしれない。


「…………。」


なんとなく空を見上げてみるが、これといって興味の引かれるようなものは何もない。


冒頭にも書いた通り、空全体がただ暗い一色に染まっているだけで、数えられるような星の輝きはどこにも見当たらない。


…………ほんと、何やってんだろ私。


ボーと公園のベンチに腰掛け、空を見上げてるだけの私を両親が見たら、いったい何と言うだろうか。


『今家から逃げたって、明日から逃げられるわけじゃない。』


『俺たちとの対話を先送りにしたからって、目の前にある問題が解決したりはしない。』


あの二人のことだから、きっとこんなことを口にするのだろう。


……両親が意地悪で、私に口五月蝿く言ってきてるわけじゃないってことは知ってるけどさ。


あの二人は優しい人達だ。


私の将来を心配して、今のうちに頑張っておけと、そう言っているのだろう。


……そんなことは分かってるけどさ。


―――でも、私も頑張ってるんだよ?


自分でもびっくりするくらい、頑張ってるんだよ?


毎日毎日しんどい体を起こして、自分なりに『将来のため』に道を模索して、凄く頑張ってるの。


『この世に生きてる皆そうだ』なんて言わないで。


ただ私が頑張っていることだけを褒めてよ。


正論ばかりぶつけないで。


間違った私も愛してよ。


ただ優しく諭してよ。ただ私を抱き締めてよ。


怒らないで叱ってよ。甘やかさないで絆してよ。



―――弱い私を許してよ。



涙は出ない。


だって悲しくはないから。


ただ虚しいだけ。


この日々に、心が空っぽになったような気がするの。


全部どうでもよくなったような、そんな気がするの。


どんどんどんどん追い詰められるこんな日々に、だんだんだんだん嫌気が差して、やがて心は死んでしまった。


―――もう、全てがどうでもいい。


私は悪い子。


こんな夜中に家出なんて。


したことないんだもん。


私は悪い子。


今やもう、どうすれば私が存在できるのか、分からなくなってしまった。


私は悪い子。


さっきから脳裏にチラつくアイディアに、ほくそ笑むような感情を抱いているのだから。


「……私が死ねば、二人は少しでも後悔してくれるかな?」


スマホの充電は残り82%


これが切れるまではYouTubeでも見とこうかな。


寒くて寒くて、ちっとも眠たくないし。


画面が真っ暗になったその後は―――

































―――その時考えよ。


















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紺色 ぬヌ @bain657

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