第22話  桔梗、登場!

「あ…」


 食事中、桜が声を出した。


「どうしたの?桜さん」

「この街の外れに人間が来た」

「ゾンビに襲われているのか?」

「ああ、襲っている」

「助けなくちゃ!」


 全員が立ち上がった。


「桜、とりあえずゾンビ達を止めてくれ」

「いいのか?」

「いいのか? とは?」

「私が人間と親しくしていることが上にバレれば、私の権限が剥奪されるかもしれない」

「権限を失ったら、どうなるのかしら?」

「もう、このエリアのゾンビを操れなくなる」

「姫! どうしやす?」

「人間は、誰であれ残り少ない仲閒だからな」


 クラマもデクも救出したいようだった。

勿論、全員がそう思っていた。


 ただ、桜の管理者としての権限を失ったら、また、ゾンビからひたすら逃げる逃避行になってしまう。


結局、最終判断は姫に委ねられる。


姫は言った。


「桜さん、ゾンビからの攻撃を止めてください」

「わかった。交戦中だったが、ゾンビ達を引かせた。今のうちに、誰かが迎えに行くといい」

「誰が行く? 俺が行こうか?」


 デクが言ったが、桜が遮った。


「私と瞬で行こう。高速キャラの方がいい」

「桜、ごめんなさいね」

「いや、気にするな。瞬、行くぞ」

「わかった」

「お兄ちゃん」

「なんだ?菫」

「調子に乗って怪我しないでね」

「ああ、わかった」

「西へ真っ直ぐだ」

「わかった」


 瞬と桜のスピードは常人のものとは違う。


「あそこだ」

「本当だ、女だな」

「1人か?」

「1人だ」


 高校生くらいの女の子が、へたり込んでいた。手には弓を持っている。

 ゾンビが引き上げて行ったので、ホッとしているのだろう。


 瞬と桜が女の子の前まで辿り着いた。

 慌てて、女の子は弓に矢をつがえる。


「待て!」

「え?」

「俺達は人間だ。敵じゃない」

「あんたは人間っぽいけど、隣の女はゾンビじゃないの」

「私か? 私はゾンビだ」

「ほら、敵じゃないの!」

「こいつは大丈夫だ。話せば長くなるので後だ、早く安全な所に移動しよう」

「え?」

「君を僕達の仲閒の所に連れて行く。安心しろ」

「って、あなた、瞬じゃない!」

「え?って、桔梗か?」

「そうよ。どういうこと?」

「話は後だ、瞬」

「行くぞ」

「わかった」


 桔梗は、瞬と同じ学校の同級生。弓道部だ。毎日、ランニングしているので結構、足は速かった。ちなみに、家は近所だ。


 と言っても、桜と瞬のスピードに比べたら足手まといになる程度だ。


 瞬と桜は、桔梗をかついで皆の元へ戻った。


「ふむ」


 桜が頷いた。


「桜、どうしたんだ?」

「助かったな。今回、人間を助けたことは上にバレていないようだ」

「私は… みんなからは姫と呼ばれていますが、あなたは?」

「桔梗です」

「あなたも異世界人ですか?」

「はい。学校からの帰り道で、いきなり何か光ったと思ったらこの世界にいました」

「今までは、どうしていたの?」

「馬車で旅する人達のグループと出逢って、それから行動を共にしていました」

「仲閒は?」

「元々8人だったのですが、戦闘の度に、1人死に、2人死に…」

「それで?」

「戦闘から戻って来た仲閒がゾンビになってたんです」

「それで?」

「意表をつかれて全滅しました。私だけ生き残って…」

「仲閒を失うのはツライですが、今、無事なことを喜びましょう。お腹は空いていますか?」

「はい」

「では、用意しますね」


 桔梗は食事をしながら、瞬と菫が異世界に来てからこれまでの話を聞いた。

 それから、桔梗が言った。


「あのさ」

「どうした?」

「私、瞬の家の前を通りかかったときにこの世界に来たのよ」

「ふうん、それが何か?」

「私、あなた達の巻き添えでこっちの世界に来たんじゃない?」

「え? 考えてなかったけど、もし、そうだったら?」

「私は瞬を絶対に許さない」

「巻き添えだったら謝る。でも、桔梗も使命があってきたのかもしれないよ」

「もし、あなた達の巻き添えだとわかったら、私は瞬を殺すからね」

「え?俺、殺されるの?」

「今までに、どれだけ怖い思いをしたことか」 


 食事の後、桔梗は毛布にくるまって早くから寝てしまった。

 相当、疲れていたのだろう。

 今までと違い、ようやく安心して眠ることが出来たのだろう。



 僕は、そんな桔梗を不憫に思った。







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