顔が象になってしまった僕は、異世界で可愛い三姉妹と共に暮らす。

月光壁虎

象さんと出会いの夢

異世界は象さん面と共に

第1話 顔が象さんになっちゃった!?

 僕は部屋で新しく買ったばかりのPCゲームを起動させる。


「リフリージ・オンライン・ワンダーかぁ、楽しみだな~」


 人生初のオープンワールド、そんな期待を胸にパソコンを見つめると、早速砂嵐と共に画面にこんな文字列が。


『あなたの好きな動物は何ですか?』

「え、動物? これって最初のキャラクリだよね……? そうだな~」


 左に顔を向けるとお気に入りのぬいぐるみが目につく。


 僕がまだ小さかった頃に動物園で買ってもらった象のぬいぐるみ、なんだかんだ愛着があって未だにゲームのお供にしてるんだよね。


「えーと、象っと」


 キーボードで入力した次の瞬間、目の前の画面が目映く光を放ち始める。


「うわっ、何だ!?」


 それと同時に目の前が真っ白になった……。



「――ん、んん……っ」


 再び目を開けると、頭上に広がっていたのは部屋の天井じゃなくて鬱蒼と茂る樹冠。


「……あれ、フルダイブ式のゲームなんてやろうとした覚えないんだけどな」


 フルダイブ式、それは意識を完全にゲーム内に持ち込む最新式のゲームで、僕はそのシステムがちょっと怖くて手を出せていなかった。


 だから普通のPCゲームを開始したはずなのに、ここが自分の部屋じゃないことに違和感を覚えずにはいられない。


「入れるソフトでも間違えたかなぁ?」


 そんなことを考えながら目の前で動かした手が、なんかいつもと違う。


 シワだらけな上に太くなってて色も灰色っぽいんだ。


「あれ、これが僕の手?」


 半信半疑でニギニギしてみたけど、やっぱり自分の手のように自在に動く。


 間違いない、これは自分の手だ。


 だけど妙だな、キャラクリをまだ始めたつもりじゃなかったのに。


 すくっと起き上がると、次に目に飛び込んできたのは足。


 柱のように太くて円柱形の足に、石みたいな四つの爪……というか蹄がついている。

 ついでに気づいたことなんだけど、今の僕はステテコを履いただけの半裸姿だった。


 ていうか僕、こんなに腹が出てたっけ?


 これでも並程度の体格を維持してきたはずなんだけど。


 ――待てよ、足といいこの太鼓腹といいまるで……。


 嫌な予感と共に顔をペタペタ触ってみると、違和感が二つもあった。


 お腹の辺りまで伸びた長い鼻と、薄くて大きく広がった耳。


 点と点が繋がるように、嫌な予感もこの頃には確信に変わっていた。


 今の僕、象じゃん!


 驚いて飛び上がると、着地した途端太い二本の足で地を踏みしめる。


「……どうやら四足でなきゃいけないって訳じゃないみたいだね」


 これで僕の全体像が分かった。二足で歩く半裸の象男、これが今の僕。


「……何じゃこりゃああああああ!!」


 僕の絶叫が森一面に響いて、小鳥たちががやがやと飛び立っていく。


 なんで、どうしてこんなことに!?


 ……落ち着け僕、直前までのことを思いだそう。


 頭を凝らしてみれば、画面に浮かんでいたあの文字列を思い出した。


『あなたの好きな動物は何ですか?』


 あ、多分これだ。象、なんて答えたからこんな姿に……。


「って、そんなわけあるかああああ!!」


 うん。理解不能だよ。


 とりあえず間違えてフルダイブ式のゲームを起動させてしまったとしよう、それならログアウトすれば元の身体へ意識が戻るはず。


「ログアウト」


 そう唱えながら頭上を指差す、これでログアウトができるはずだ。


 ……しかし何も起こらなかった。


「……へ?」


 ウソでしょ、ログアウトできないだって!?


 何度試しても結果は同じ。


 というかそもそもここって本当にゲームの中なのか? 肌を撫でる空気とか枝のそよぐ音があまりにリアルすぎるんだけど。


「……ダメだこりゃ」


 そして僕は考えるのをやめた。


 あれこれ考えていてもしょうがない、まずは歩いてみよう。話はそれからだ。


 試しに森の中を歩いてみると、裸足のはずなのに小石とか踏んでも痛くない。


 さすが象の足、裏が丈夫にできてるんだ。


 それでいて感覚はしっかり伝わるから、知らずにトゲとか踏む心配もなさそう。


 象の足一つで考察していたら、太鼓腹から重低音が鳴り響いた。


「……お腹空いた」


 ゲームの中じゃお腹が空くなんてあり得ないよね、じゃあここは一体?


 謎はひとまず棚にあげて、僕は森の中で食べられそうなものを探すことにした。


 今気づいたけど、この森の中って結構いろんな匂いに満ちてるんだよね。


 そよ風に運ばれる匂いを長い象の鼻で探っていたら、頭上に小さめのリンゴみたいな赤い木の実を発見。


「美味しそう……」


 気がつくと僕は象の鼻を伸ばして、頭上のリンゴをもぎ取っていた。


「象の鼻って結構器用に動くんだね」


 そういえば動物園の象さんも長い鼻を器用に動かして餌を食べてたっけ。


 そして僕はリンゴを鼻で器用に口へ運んでかじってみた。


「んんっ、美味しい!」


 何これ、爽やかな甘味と酸味のバランスが取れていて、今まで食べたリンゴで一番美味しい!


 それから僕は頭上でたわわに実るリンゴを無我夢中で食べた。


 果物をこんなに美味しいと感じたのは初めてだよ!


 目の前のリンゴを食べ尽くしてお腹一杯になった僕は、その場でごろんと横になる。


 ふ~っ、お腹が満たされるだけでなんて幸せなんだ……。


 象男になってしまったこともここがどこなのかってのも、今はどうだっていい。


 そんな風に昼寝を決め込もうとした時だった、突然地面を伝って良からぬ振動を感じ取った。


 なんか嫌な予感がする、ちょっと確認に言ってみよう。


 立ち上がって振動の方へ向かうと、少し歩いた先で僕が目の当たりにしたのは。


「あ、あ……!」


 声を震わせて腰を抜かす小さい女の子と、その前に立ちはだかる巨大な熊の姿だったんだ。

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