はろーはろー

 今!無事に!父の実家を!地元を!脱出してガンガン高速走って………いや、ちょっと渋滞してるからそんな順調でもないけど、とりあえず帰路についているよ。本当は法定速度無視して爆速で帰りたいところなんですけど、この時期なので仕方ねえ。休みは明日まで。

 実家界隈であったことについては今まとめてるとことなんですけど、車酔いしそうなので途切れ途切れになる、かも。それか神奈川戻ってからまとめて投下する方がいいのかな。

 父の日記は持ち帰って来たけど、髪の毛は全部あっちに押し付けて、いや、燃やして貰った。

 寺の住職に「この髪の毛が薄気味悪いんですよね、漢字も難しくて読めない」って言ったら「これ、うちの寺じゃなくて隣町の神社の名前だな。処分するにしても詳しい事知りたいにせよ、あっちに聞かないと駄目だ。なんなら今から呼び出してもいいけど?」って返されたからお言葉に甘えて呼びつけて貰ったんだよね。急な呼び出しの割にほいほい来たよ、神主。

 そして何故か私と従兄弟達、住職、神主、役所の人でお話したんだわ。寺の中で円座になって、百物語でも始まるんかなって思った。

 従兄弟がさ、えーと、啓二おじさんとこの従兄弟。名前はりゅうたろう。りゅうって呼んでたな。子供の頃はな。今はなんかりゅうたろうさんって呼んでる。

 りゅうが言うにはさ、髪の毛、気付くと家の中に束になって落ちてるんだって。毎日じゃない、ほんと何週間とか何ヶ月とかに一度。

 おめーの奥さんの髪の毛じゃね?って言いそうになったけど、よくよく考えたらりゅうの奥さん茶髪ショートカットなんだよな。子供も男児ばっかで長い黒髪なんてあの家にいない。

「うちの親父が生きてる時から、むしろずっとずっと昔からあったらしいんだよ」

 りゅうはそう言った。父もおじさん達も仕事の都合であの家になかなか居つけなかった時期でも、お盆でもお盆以外の時期でもあの家に行くと必ず髪の毛が落ちてる。

 落ちてる場所は大体決まってて、滅多に使わない二階の、昔の子供部屋。今は物置にしてる部屋。気持ち悪いからその部屋は使わなくなったんだって。

 その部屋の窓から庭の井戸が見下ろせる。

 そんで髪の毛の束見つけたらとりあえず神社から貰った和紙に包んでた。

 啓二おじさんもりゅうも、その和紙に包んだ髪の毛は仏壇の前に置いてた道具箱?みたいなのに入れておいて、ある程度数が溜まったら神社に持って行って焼いて貰ってたんだって。うちの父がなんで髪の毛を外に持ち出したのかはわからん、って。

 この髪の毛はなんなの、この家の「忌み」に関係があるの?って聞いたら、りゅうも住職も神主も眉間にしわ寄せて黙り込むわけ。

 ちなみに神主、普通にポロシャツにデニムとかいう出で立ちで来たよ。いつも麿みたいな恰好してるわけじゃないんだな、神社のえらいひと。神主は年齢でいうとアラ還くらいかな。寺に集まった人間の中では最年長。その次が役所の人と住職。私が一番年下だな。

 前の日にもさ、従兄弟たちと色々話したんだよ。

 でもやっぱり歯切れが悪くて堂々巡りっぽくなっちゃったのは否めなくてさ。

  井戸さえ守れば悪い事は最低限しか起きない、の一点張りだったわけ。

 正直滅多に会わないおまえらはどうでもいいけど私は私の兄貴には早死にしてほしくねえんだよ。そう言いそうになったけど流石にひとでなしだと思ったし、井戸を守る役目が自分に回って来ても面倒だから黙ってたんだよ。

 日記とかに挟まってる怪文書は「忌みを鎮めるための呪文みたいなもん」としか教えられなかった。


「教えてよ、知りたい。すっきりして神奈川に帰りたいんですけど、私。ていうか髪の毛と日記を持って来い見せてみろって言ったのりゅうたろうさんでしょ」

 キレ気味にそう言うと、神主が「あくまで予測、予想、こういう逸話もありますよ、程度の話なんですけど」って口を開いた。

 忌み、池に沈んで死んだ男の子が発端だと私は思ってたんだよな。全部男の子の呪いだと思うじゃん。

 だけどその後に恋仲だった娘も後を追って、というかおかしくなっちゃって突然身投げしたわけ。うちの二階からな。めちゃめちゃ古い家を定期的にリフォームしながら騙し騙し住み続けてるんだよね、父の実家。ていうか現・りゅうたろうの家。

 二階から落ちたくらいじゃよっぽど打ち所が悪くない限り意外と死なないんじゃ、と思うんだけど、まあ打ちどころが悪かったんだよ。ていうか10センチくらいの段差でもこけて頭打ったら死ぬ人は死ぬよな。その娘さんは井戸に頭ぶつけて死んだ。

 それはそれは綺麗な長い黒髪のお嬢さんだったそうだよ。

 その娘の執念の方が強いんじゃないか、って。

 だから山の中の池よりも井戸を大事にしてるんじゃないかって。

「なんもしなかったら、日本酒も捧げず髪の毛も放置、むしろなんもしないで掃除機で吸い込んで燃えるゴミに出し続けてたらどうなんのかな?」

 興味本位でそう聞いたら「根絶やし」って言われた。りゅうに。

 誰が決めたんだよ。

「死んだ娘の残した日記だよ、実際娘が死んだ直後はうちの家どころか周辺でも人死にが凄く増えた」

「昔の話だろ、疫病とかかもしれないじゃんコロナみたいなさあ。昔ならコレラとかあるべ。あれって水で感染するんだろ、水路で繋がってる田んぼが目一杯あるこの辺の地域でコレラが広まったらそりゃ皆一斉に死ぬだろうよ」

 ついつい口が悪くなってしまったけど、誰も私の怒りを咎めなかった。

 役所の人は「実際そのような記録はあります」と困った顔で言った。

 ほら見ろよ、って思ったんだけどさ。

 やっぱどいつもこいつも歯切れが悪いんだよなあ!!!!!


 車酔いしてきた。また後程。サービスエリア。混んでるかもしれんけどサービスエリア。気持ち悪いから肉巻きおにぎりは諦めるけど飲み物くらいは買っていいだろ。

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