第42話 初めての朝
無事F級冒険者として認定されたロリス。
まだグリフォンの素材に関する鑑定結果が出ておらず、節約のために食事の提供がない安価な宿に泊まり、朝を迎えたハズだったのだが―――
「おはようロリス」
朝日が差し込む豪華な部屋で、ロリスは声をかけられ目を覚ます。彼の目の前には、同じベッドで向かい合って寝る、赤毛の女性の美しい顔があった。
「うわっ!」
驚いてベッドから飛び起きたロリスは、木綿のシャツと短パンを身に着けたままの姿で壁に張り付いた。『何か悪いことをしたのではないか』と自問しながら、必死に記憶を辿るロリス。その彼の後頭部に、投げかけられる聞き覚えのある男の声。
「どうしたんだ? そんなに驚くことはないだろう。 昨晩、君が酔いつぶれたからやむを得ず僕の部屋に連れてきたのに、これじゃまるで、僕が君の寝込みを襲ったみたいで気分悪いよ」
ベッドで頬杖を突きながら、壁に張り付くロリスに向かって、ため息をつく白いネグリジェ姿のボーディー。
(そうだ、昨日、冒険者試験に合格したから、ボーディーたちが祝ってくれることになったんだ。彼らの常宿のレストランで一緒に飲み、つい飲み過ぎて寝てしまったんだった……)
昨日のことをしっかりと思い出したロリス。ボーディーの後ろにある別のベッドを見ると、マリーとエリサが互いを抱き枕にして眠っていた。どうやら、パーティ全員でボーディーの部屋に泊まってしまい迷惑をかけてしまったようだ。
「ごめん。迷惑をかけたみたいだね……」
ボーディーに振り向き、恐縮するロリス。
「ホントだよ。特にマリーは『ロリスの貞操の危機!』とか訳の分かんない事をいってロリスから離れないし、エリサは何とかマリーを引き離そうとしてたけど、最後には『二対一になったら、さすがのロリスもヤバいかも、ダブルで貞操を奪われたらさすがに可哀そう』とかいって、マリーと一緒に部屋まで来ちゃうし、もう散々だよ。本当は水入らずで……甘い時間を送るはずだったのに……」
ボーディーが誰と甘い時間を過ごす予定だったのか、ロリスには分からない。しかし、『おそらく恋人か何かだろう』と推測し、ボーディーに深々と頭を下げるロリス。
「申し訳ない。その一緒に過ごすはずだった誰かに謝っておいてくれ」
「いいよ、気にしなくて。たぶん本人わかってないし。奇跡的な出会いをした人だから、ボクもじっくり確実に関係を築いていくつもりだし」
ニッコリと笑うボーディー。その笑顔にはロリスでさえドキリとした。異性にはもっと破壊的な効果をもたらしそうだ。
「ボーディーが好きな人と上手くいくことを願ってるよ」
「ありがとう。ロリスにそう言ってもらえるなら、100パーセント成功するね」
『フフッ』と2人は笑いあう。
そんな2人の会話を奥のベッドの中で、それぞれ寝たふりしながら聞いているマリーとエリサ。
(へ? ボーディーって彼女いたんだ。なんかロリスとの関係を疑って悪い事しちゃったな)
ちょっと2人の様子を見たいと、『うう~ん』とわざとらしく声を出しながら、エリサの手から逃れるように寝返りをうつマリー。その行動から、エリサはマリーの心情を察するエリサ。
(多分、マリーさんは今ので騙されたのでしょうね。ボーディー本人は思いっきり、におわせ発言してるんだけど……それよりも気をつけなくちゃ、あの人相当の切れ者ね。利用しようと思ってたけど、下手すると返り討ちにあいそうだわ)
目の前のマリーの背中のせいで、2人の様子は見えないが、ボーディーに対する警戒感を高めたエリサ。そんなマリーとエリサの思惑を感じ取ったのか、ボーディーは少し後ろを気にするしぐさを見せ、『クスッ』と笑う。
もちろんロリスはそんなことに気づくはずもない。
彼は迷惑をかけているこの状況を早く何とかしたいと視線を飛ばし、ソファーの上にちゃんとたたまれて置かれていた自分の服を見つけると、急いで着替え始めたのだった。
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