第11話:山を制する者は世界を制するといわれている、諸説ある

「へえ、ここがこの山のてっぺんかあ」


 残念ながら、全然ワクワクはしない。


 山頂に近づくにつれて土とか岩の様子がだんだん変わってきているとは思っていた。山頂の周囲にはごつごつした大きな岩があちこちに転がっていて、森のように草木も生えておらず、その岩肌は荒々しく、灰色から黒色に変化している。火山の噴火によって形成された山頂は、荒涼とした風景を見せていた。


 地面は不規則な凹凸があり、いくつかのずっと昔に冷えて固まったであろう溶岩の塊が点在している。その溶岩は長い年月の間に風化してなお黒光りし、日光を反射して鈍く輝いていた。


 山頂では風が強く吹き荒れ、空気は冷たく、ほぼ全裸に葉っぱと紙を重ね合わせただけのオレは寒さに震えてしまうほどだった。足元は昨日急いで作った木皮の粗末な靴以外にはほとんど露出しちゃってるしな。しまったな、登山にしてまだ装備が甘すぎたか。


 しかしながら、山頂からの眺めは実に壮観で、広大な海と荒々しい地形が一体化して美しい光景を作り出している。火山の力強い存在感が、山頂の風景に重厚さを与えている。オレはそんな、荒涼としながらもどこか雄大で美しい、そんな風景を見つめ、自然の力強さと壮大さに圧倒されるばかりだった。


「…………って、アレ?」


 そして、次の瞬間にはハッと我に返り、その景色を見て孤独と絶望感に包まれた。オレは明確にここに取り残され、救助を待つしか手段がないことをイヤでも思い知らされた。


 山頂から見下ろすと、まるで自分自身の孤独が海に反映されているかのようだ。果てしなく穏やかでどこまでも青い海は、オレのささやかな胸の内に広がっていく孤独や絶望感をさらに深める。オレはただただ海を見つめ、救いを求めるが、どこからも救いの手は差し伸べられそうになかった。オレはただ立ち尽くし、目の前に広がる絶望の海を見つめ続けるしかない。


 それでも、オレの意に反して穏やかな海は静寂と安らぎをもたらすのだった。その青い水面はまるで広大な絨毯のようで、太陽の光を受けてきらきらと輝いている。遠くには、海と空が一体化するような青空が広がり、美しい景色が眼前に広がっている。そういえば、この世界に転生してから木に遮られていない空を見るのは初めてだった。なんだ、空の広さだけは、ここも、オレのいた世界も変わらないじゃないか。


 今だけは世界の広さに絶望して、何もできずに山頂に立ち尽くし、ただただ海を見つめる。オレの眼下には緑豊かな森が広がっていたが、その向こうに広がるのは青い海だけ。オレはこの手つかずの自然の中でただ一人、この広大な海と向き合っている。

ふと見えた海岸線は今まで過ごしてきた森に比べるとひどく穏やかで、波が静かに岸辺の白い砂をわずかに濡らしながら寄せては引く。なんだかその様子から目を離せなくて、海の静けさと美しさに心を奪われていた。時間が止まったかのように、今はただこの景色を楽しむ。


 穏やかな海と晴れた空の下、自然と一体化し内なる平穏を感じる。この場所での時間は理不尽な異世界転生に荒んだ心の癒しをもたらした。うふふ、なんて素敵な風景だろう。


「…………いや、ガチの無人島かよ!」


 オレの魂からの叫びは虚しく水平線の彼方に消えていった。


 あまりにもびっくりしすぎてめちゃくちゃ描写しちゃったし、逆になんか癒されちゃったよ! オレの絶望感とうらはらに景色があまりにも穏やかすぎんだろ!


 それにしても、どうりで文明の匂いがしないわけだ。それに、動物たちが人間の匂いを嫌がるわけもなんとなく合点がいく。つまり、全く人類というものと接してこなかったのだ。突然現れた未知の匂いを警戒するのは当然だろう。オレの周りにだけ動物の痕跡がないだけだった。動物たちは、オレの気配がするや否や、縄張りも何もかもを放り出して逃げてしまったわけだ。


 ということは、オレが意識を取り戻すまで少女が生きてきた痕跡すらないことになる。つまり、少女もとい、オレは突然ここに現れたことになる。……つまり、えっと、どういうことだ?


「……あれ? これってもしかして………」


 この島から脱出しないと異世界転生したオレのファンタジーな物語が始まらない? ガチの無人島からの脱出? それ、なんかテレビで見たよ? え、ファンタジー的な要素は? 異世界転生とは? 露出度高めの美少女のパートナーは? ありとあらゆる疑問が次から次へと頭の中へ流れ込んでくる。ねえええええ、この理不尽極まりない異世界転生を早く何とかしてれないかな!?


「き、気持ちを切り替えよう、チクショーめ、うぅ……」いまいち切り替えられてない。


 がくり、思わず膝をつく。ゴツゴツした岩肌が膝に痛いがそんなのは、この絶望に比べたら全く気にならなかった。


 そもそもこの無人島から脱出するにしても、役に立ちそうな道具の一つも持っていない。しょーもないノコギリもどきと斧のような鈍器で一体何ができるというのだ。


 たとえば、水平線のどこにも陸地すらも見えない絶海の孤島から無事に脱出するための船を、ド素人がたった一人で造るなんて不可能に近い。また一から木を切り出したりそれを加工したりするのはあまりにも不毛で無謀で途方もなさすぎる。そんなことしてたらその前に寿命で死ぬ方が先だ。だからといって、さすがに、いかだで航海するのは無謀すぎる。


 この島からの自力での脱出は諦めよう。ガチの遭難者よろしく、どこかの船が近くを通りかかるのを気長に待つか、魔法での瞬間移動を習得するか、せめて、そらをとぶを覚えない限りどうにもならんだろう。


 となれば。


「魔法を覚えなければいけない」


 そもそも魔法があるのかどうかすら怪しくなってきたわけだが、異世界に転生したからには魔法を信じてやるしかない。魔法使いたいじゃん。そこ、現実逃避とかは言わない、おっさn……お姉さんとの約束だゾ!


 幸い(?)見渡した限り、この無人島はあまり広くはなく、そして、気になるような見どころもないようだった。ダンジョンっぽい洞窟の入り口も、隠された古代遺跡も、何らかの人工物もなければ、ドラゴンや巨大なゴリラがいそうな気配もなかった。どこまでも広がる森と砂浜がある海岸。ここまで来といて、いたって普通の無人島、って何?


 この登頂の成功はオレにとって何かプラスになることがあっただろうか。なんとなく絶望的な気分が押し寄せてきている。え、何これ、だいぶ暗雲が立ち込めている気がするけど?


 い、いや、まだ完全に詰んだと決まったわけじゃない。制覇したのは山だけ、次は海を攻略しようじゃないか。


 ということで、明日からはあの浜辺を目指してみようか。もしかしたら、何か使えそうな道具が流れ着いていたり、ワンチャンどっかの船が座礁している可能性もあるかもしれない。そうでなくとも、ガチで何もなかった山頂よりかは何かしらの発見があるだろう。魚とか獲れたりするかもしれないしな。


 そして、オレの異世界での生活は、ガチの無人島脱出サバイバル生活になってしまった。


 ……異世界転生モノとは?

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