我が心の洪水

飛鳥京香

第1話

■我が心の洪水■第1回■2024年版

見渡す限り波だ。

水の壁は情容赦なく僕カインの方へ襲いかかってくる。

その激流の中で、僕の足はもう焼けただれた建物の屋上には届いていなかった。

放射線で焼けただれた町。

それでも僕には長く棲んでいて愛着があった。

その廃墟が海に犯されていくのを、僕はなすすべもなくただ見ているしかなかった。

海、すなわち大洪水だった。

波は、伺度となく押し寄せてきて、廃墟を踪順した。

なじみのある暗い町並は、二度と僕の目の前に現われることは、、ないだろう。

服と呼べるだろうか。

そのうす汚れた切れっぱしは、僕の体にまとわりつき、かかげて身勤きは緩慢にたってくる。

水は僕の息をとぎれきせ、言うにいわれぬ悲しみは僕の体をしびれさせていった。

彼女アニー。

さっきまで、、ここに。やっと海面に顔が出る。まわりを見渡す。

いる。何100メートル、離れているだろう。

波間に見え隠れする。

彼女も海にもて遊ばれている。

僕は叫ぶこともできがたい。それはどの気力も残ってはいないのだ。

打ちこわされた伺かの物体が大きな音をたてて迫り、アニーに当った。

彼女の体は泥水の渦巻きに消えていく。

「アニー、、、アニー、、」

僕は叫ぶ。

が、、

何てことだ。運命を呪う。地球の運命も。

僕は、無意識の内に、浮かんでいる木片にしがみついた。

すさましい勢いの雨は、人間の希望をすべて押し流すように降り続き、

その暴風雨の祚はまるで銃声のように僕の耳には聞己えていた。

そう、人類を完璧に打ち倒す銃声の様に。

ショックとそれに伴う疲労のために、僕は意識を失いそうになる。

夢、それも悪夢を見ているようなのだ。

僕は夢うつつ考える。

僕とアニーは、なぜ、あの異星人が地球に打ち込んで

きた「水球爆弾」の熱射から肋かったのだろう。

「水球爆弾」という隕石群は地球のあらゆる場所に降り注ぎ、

地球の文明を、根こそぎ大なたで打ち払ってしまったのだ。

僕、カインはまどろみ始める。

(続く)

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